第三回島清ジュニア文芸賞「奨励賞」散文「木星物が宿題をする日」

ページ番号1002753  更新日 2022年2月15日

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美川中学校1年 平田七菜

星(しょう)は、自分の家の南側の2階にある自分の部屋にいた。その部屋の西側には、海の見える大きな窓がある。星は、そこから見える世界がなによりも好きだ。特に夜の世界は、星にとって好きではおさまりきらない。窓から少し差し込む月光。その月光に照らされた海。一つ一つ個性を出し合う星(ほし)。波の音をかすかに聞きながら、これらを眺め、窓に対して平行に置かれたベットの上で眠りにつく。これはいつからか、星(しょう)の日課になっている。

だが今日は違っていた。カーテンのない西側の窓を背に向け、ベットの上に横たわり、ほおは涙でぬれていた。
「月光の光ではない。」
とでも言いた気に、パソコンの電源がつき、ベットの方に画面が向けられていた。その画面のスクリーンセーバーでは、”多奈良星(たなら しょう)”という名前が、右往左往している様だった。この部屋は窓が閉めきってあっても波の音は聞こえてくる。
「これは波の音ではない。」
とでも言いたい気に、エムディーコンポからかすかに、少しゆっくり目の”中央フリーウェイ”が聞こえてくる。ピアノの音で、少しゆっくり目の中央フリーウェイは、悲し気だ。しかしその様な感情は、今の星にはなかった。ただ今日転校していった親友の言葉しか、頭の中にはなかったのだ。
「どこに行っても星は私の親友だよ。」
沢山の親友の言葉の中で、この言葉だけが星の頭の中に響きわたる。星はいろいろな不安にとらわれていた。
(明日学校へ行ったら、他の友達と上手くやれるだろうか。香菜(かな)は本当に、どこに行っても親友でいてくれるだろうか。・・・・・・・・)星は悲しいから泣き、くやしいから1人でいた。
「あのー・・・・・・・。」
背中の方から声が聞こえた気がした。でも、いつもいっしょにいた海の方は向きたくなかったし、何故声がするのかが謎だ。振り向くのが怖い。星はそのまま言った。
「私に何か用?もしそうならあなたがどこから来た何者であるか、を教えて。それによって私が今どうすべきであるか、が決まる。」
「じゃあ、とりあえず君の質問に答えるよ。俺は木星から来た木星物。」
(木星物?なんだそりゃ。でも宇宙人の仲間だろう。えっ!?宇宙人・・・・・・?)
「木星人が地球人にどんな用があるの。」
「木星人じゃない。木星物。俺は人じゃない。それと、なぜ用があるとわかった?」
「だってあなたはどこから来た何者であるか、を教えた。」
(???)
「まあいい。おじょうちゃん、この星・・じゃなくてもいいけど、宇宙一美しい風景を知らないか?それを探すのが宿題なんだ。」
「おじょうちゃんはやめて。」
「じゃあ名前は?」
星はパソコンの画面を指差した。まだ壁の方を向いている。
「漢字かぁ。苦手なんだよなぁ。知ってるには知ってるけど。えーっとおおならほし?」
「たならしょう。」
「えっ男だったの?」
「女。でもしょうなの。」
「変わってるな。人類は謎が多い。」
「他の星でも?」
「いや。人類がいるのは地球だけだ。だから地球人イコール人類なんだ。わかるか?」
「あたり前。」
「お前頭いいな。」
「あんたが悪いだけ。で、こんな事話してる暇あんの?」
「ない。はっ・・早く教えろ。」
「いや。今そんな気分じゃない。」
「何だよそれ。」
星は、この木星物との会話をたのしんでいたが、親友の事を考える事を邪魔されたので、心のどこかではムッとしていた。
(今日悲しい事があったの!気付いてよ。)
「今日、すっごく嬉しい事があったの。」
「えっ?何々!?」
(こいつ・・・馬鹿だよ・・・。)
「大っ嫌いなヤツが転校したの。」
(ハハハ。私、こんな大ウソついたの初めてだ。・・・何で行っちゃったの?香菜。)
「ウソつくなよ。泣いてんじゃん。」
(えっ!?気付いた・・・?)
「ウソ?ウソなんかじゃないよ。」
星は強がっていた。しかし、涙は止まらない。
「嫌いなヤツでもさ、友達は友達だろ!?」
(コイツ、わかってない。でも・・・。)
「ウソだよ・・今日転校したのは私の親友なの。わかる?」
(あっ。だから・・・ないてるのか。)
「1人にしてほしい。っていうのにも気付いてよ。さっきからずっと1人でいたのに。」
「でも、お前が1人になったところでお前の親友は帰ってこないぞ。もうすんだ事だろ。」
星は、くやしかった。現実を目の前につきつけられたのだから。
「じゃあどうしたら忘れられるの?」
「忘れるんじゃない。考えないんだ。」
「・・・木星物にも宿題があるの?」
「宿題があるというか、んーそうだなぁ木星物は、人類の真似をしてるんだ。人類の生活は、スリルがある。だから学校へ行く真似、宿題する真似。その他にも会杜へ行く真似とかするけど。」
「真似かぁ・・・!?じゃあ何でわざわざ地球まで宇宙旅行してるの。」
「宇宙旅行じゃない!宿題・・・あっ。お前の言いたい事わかったぞ。人類は宿題で他の星なんかへ行かない。って言いたいんだろ。」
「人類は宿題で他の星なんかへ行かない。」
星は木星物と声をそろえて言った。
「パソコンっていうか、インターネットとかで調べないの?」
「そういう機械とかは、木星にはない。真似だけだから実際には何もしない。」
「じゃ、学校にいる間はバントマイム?」
「んー、簡単に言うとね。」
「それではお聞きします。宿題とやらは、やらなくてもいいのでは?」
「あ。」
2人は固まった。木星物は宿題をする必要がない事に気付き
「しまった。」
と言う思いでいっぱいだった。星は未だ見た事のない木星物(人類語で宇宙人)が見られる。と、いう事で緊張していた。
(3、2、1、パッ・・)
ふり返った。
「あ。」
「あ。」
2人にはそれぞれ感想があった。
(こりゃたしかに人じゃないな。)
(やっと振り返った。)
「あんたさ、名前ある?」
「ない。」
「何で?」
「木星物は、人類の真似してるだけだから、名前がある真似で、実際には名前なんて必要無いから。わかる?」
「なんとなくわかったかな。じゃ、学校では何て呼ばれてるの?」
「ダドリー。イギリス人の真似。」
「へー。じゃ、日本の名前付けてあげる。」
「いいよ。いらない。」
「海月(うみつき)。何かへんだけど、木星物にはこれで十分。」
「えー、何それ。だからいらない、って言ったのに。」
「海月は、宇宙で1番美しい風景なの。」
星はあの海を見つめた。海は月の光をあび、なんとも言えない色だった。星の1番好きな色だった。星が木星物に”海月”と名付けたのにはもう1つ理由があった。それは、内緒だ。何故なら、星が人に知られたくない、と心の中で思っていたから。それだけだ。
「俺、もう帰ろうかな。星といると疲れる。」
「あははは・・・・・・・・。」
星は今日の事を作文に書いた。
「木星物が宿題をする日」
あー、私の書いた作文と同じ題名だ。だけどこの後2人・・・・じゃなかった、1人と1?がどうなったかは、私も知らないなぁ。

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