第十回島清ジュニア文芸賞「散文賞」(中学生の部)「二人は部活のために部活は二人のために」

ページ番号1002698  更新日 2022年2月15日

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美川中学校 三年 琴浦(ことうら) 克仁(かつひと)

今年の一年生は何人入部してくるのだろうか。
私、吉村陽菜は誰もいない美術室で一人、考えていた。美術部の存在というものは学校から見ても低いものだった。美術部の活動は、体育祭や文化祭で作品や横断幕を製作していたが、それ以外は、市の作品展に少し出展するぐらいだった。だから、周りの部活動は毎日遅くまで練習しているのに対して、この美術部はろくに活動という活動はしていなかった。そういった面を利用して、家の何かしらの事情を持った人や、習い事と部活を掛け持ちしている人が入る場合もある。ただ、絵を描くことが好きな人、得意な人が大半を占める。
しかし、今年の一年生は、スポーツを得意とする人たちが多かったため、スポーツ部に入部を希望する人たちが多かった。文化部は相変わらず吹奏楽部が女子の間で大人気だった。この中学校の吹奏楽部は県のコンクールで金賞を必ず獲得していた。そういった理由も含めてなのか、女子の大半は吹奏楽部の入部を希望していた。そうなると、美術部は一年生の部員がゼロになる可能性が高くなってきた。私はそういった気持ちを持ちながら、一年生の仮入部を待った。

一年生の部活見学が始まって、一週間がたった。一年生は大勢来るものの、入部希望する人はまだいなかった。そのせいもあってか、二、三年生の部員に少しずつ怠け心が出てきていた。部活見学があるにもかかわらず、部活に来ない部員が出てきた。そして、今日も三、四人しか来ていなかった。そんな中、洋子が私に話しかけてきた。
「ねえ、ひな。今日も全然一年生来なかったね。」
「そうだね。」
「このまま、一年生が入部してこなかったら、廃部の危機だし。ヤバいよ。」
廃部か。たった二文字の言葉なのに、大切なものが失われてしまうような気がした。私は事の重大さを実感した。部活は植物のようだった。新入部員という水が入ると部活という大輪の花が咲き、誰も水が入らないと植物は枯れてしまう、つまり「廃部」になってしまう。何とかしようと思っても、植物だから話すことも自由に動くことができないため、運命に流されるしかない。それが清流なのか濁流なのかは入ってくる部員次第ということになる。そんな美術部は濁流の川か清流の川へ行くかの分岐点にいる状態である。
「廃部になったら、どうなるんだろ。」
私はなんとなくつぶやいてみた。別に誰かに質問するわけでもないのに、洋子が話しかけてきた。
「ほかの部に入るか、帰宅部になるか、ってとこかな。でも、ほかの部に入ったら、前から入っている部員から冷たい目で見られたり、いじめられたりするらしいよ。お姉ちゃんが言ってた。」
もう、あきらめムードになっていた。まだ、決まったわけでもないのに、私ったら何を言ってるんだろ。被害妄想なんかして、情けない。結局、今日も一年生は誰も来なかった。今日は三十分で終わりにした。一年生が来る気配がなく、これ以上待ってもきりがないということで、私たちは学校を後にすることに決めた。
美術室のカギを返そうと、帰りに職員室に寄った。いつもどおりにカギを所定の場所に返し終えて職員室を出て、帰ろうとしたとき、ドアの向こう側から「美術部」「廃部」という声が聞こえてきた。私と洋子はしばらく話を聞くことにした。本当はいけないことだとは思うけど、でも私たちは美術部だから良いという勝手な独断で聞くことにした。
「美術部を希望する者は今年は一人もいませんよ。」
「そうですか。一年生の気分も変わるかもしれませんし、しばらく様子を見ましょう。」
「しかし、誰も入らない場合は廃部ということになりますが——。」
「その話は、また後日。対策も考えないといけませんから。」
「そうですね。しばらく待ちましょう。」
「廃部」「対策」。このような言葉が出てくることは、廃部の可能性も出てきたわけだ。そういえば最近、新しい部活動ができるという噂が学校中に広まっていた。何の部活なのかは分からない。部活が一つできると、一つ部活が消えるという仕組みになっている。廃部の理由としては金の問題だろう。この学校は市指定の特別学校に指定されていて、学校の教材から学校の予算まで市の全額補助となっている。つまり、この学校は税金で動いているということだ。予算がないと活動ができない、というわけではないのに「一番金を無駄に使っているのは美術部だ」などと教師の口からありえない言葉を言われたことがある。美術部はもともと活動が盛んで、先生も美術担当が顧問をしていた。しかし、いつの間にか、顧問は美術とまったく縁がないような人になった。しかも男だ。適当に上が振り分けたんだろう。最悪。本当に最悪。親にクレームでもつけてもらおうか。
帰り道、夕焼けが久々に見えた。何年振りだろう。こんなに真剣に夕日を見たの。夕焼けが「頑張れ」って言ってくれるように、今日最後の日光を私に浴びせてくれるようだった。私は、夕焼けと最後の最後まで語り合った。そして、太陽が沈んだとき、「また明日」とぽつりとつぶやいた。

始業のチャイムが鳴った。あわてて教室に入ってくる人、友達とぺちゃくちゃ話しながら入ってくる人。バカみたい。いつもの習慣だ。口に出さず、自分の殻の中に響かせていた。殻は分厚く、周りから内部の声を聞き取ることはできない。人間は不思議な生き物だと改めて感じた。
教室に入ってすぐ、担任の口が開いた。
「美術部の廃部案が、昨日の職員会議および市学校会議で仮決定した。」
教室が真夜中のように静まり返った。いつもなら、授業で発言しない私は「どういうことですか」と問いただした。おかしい。昨日聞いたときは「後日」って言っていたからもう少し後なのかと思ったら。
「いや待て、吉村。まだ正式に決まったわけではない。最終決定権は市学校会議にあるが、学校および生徒の意見を尊重している。先生たちも生徒の意見を会議に提出するつもりだ。今後、生徒総会をして、学校の意見を出そうと思う。それには吉村。美術部の、当の本人の意見が必要となる。部員で相談して意見を決めろ。もし、美術部廃部が決定しても新しい部活は設立しないつもりだ。」
「それは、いつ決まったんですか。」
「それは言えない。ただ、ずいぶん前から部活について話し合いが行われていると聞いたことがあるが——。」
「いくらなんでも急です。何をしたらいいのか——。」
「だから、向こうもショックが大きいと思って時間を与えてくれたんだ。時間は十分にある。しばらくみんなで集まって話し合いをしたほうがいいと思う。以上。」
担任が教室を後にした。その瞬間私の周りから人はいなくなった。その代わり野次がきた。
「美術部なんて邪魔だよ。」
「廃部決定だな。」
「言っておくけど、あたしら美術部廃部に反対じゃないから。」
「影薄い部が無くなって、学校のイメージがよくなるかもね。」
「もう、やめたら?どうせ廃部なんだし。」
「思いまーす。」
教室を出て行きたかった。むしろ学校から逃げたかった。教室中、無機質な笑い声に包まれた。おもしろいとか、楽しいとか、そんなんじゃない。人を馬鹿にしたり、戒めたりするような笑い声だ。誰も損も得もしない。でも、人は一瞬の楽しさを思いっきり楽しむ。人が惨めな目に遭っていても、得もしないのに笑う。人間は本当に小さな生き物だ。
その後、いじめというような目に遭うことはなかった。美術部の廃部なんてどうでもいいことなのだろう。でも、私たちにとってはかけがえのない存在の一つだ。ただ、今はどうしようもできない。濁流の川に流されそうな危機的状況になっている。今は、周りからの視線や言動にひたすら耐えるしかない。そんなことよりも、私は部員が退部しないかということが心配だった。部員が減ると、廃部の可能性もどっと増す。唯一、頼りになるのが仲間だ。部があって仲間がいる。私たちは美術部を得体も知れない物体から守らなくてはいけない。時間はあまりない。すぐにでも美術部で話し合いをしないと。私の脳みそは今だけしわが増えた気がした。

予想は的中した。美術室に入ったとたん、退部届けが置かれていた。「今日で辞めます」、「美術部を退部させていただきます。ありがとうございました」のような、ワンパターンの文ばかりだった。この文が矢となって私の心に突き刺さる。そこに、洋子が入ってきた。洋子の第一声が「何、これ——。」だった。洋子もただならぬ状況を感じ取ったようだ。
「私が来たら、もうこんな感じになってた。ほかのみんなも私と同じ目に遭ったのかな。」
「同じ目って?」
「今朝の朝礼で美術部の廃部のことをみんなの前で話したの。先生が教室を出たら、クラス全員から私に変な視線を送られた。『美術部は廃部決定だ』とか『美術部邪魔』とか散々言われた。」
「私も同じ目に遭った。私なんか無視された。みんなつらいのは分かってるけど。でも、信じられない。いくらなんでも早すぎるよ。」
「思った、それ。こんなに退部届けを持ってこられても。こっちが困るよね。美術部の運命って、生徒総会に懸かってるんでしょ。それって私たちにとって不利だと思う。でも、何とかしないと時間が無くなるし。」
「そっか。そういえば、生徒総会で美術部の意見発表があるらしいよ。意見を考えながら、対策を考えたほうがいいと思う。」
退部届けを一枚一枚読んでいった。謝罪の文、励ましの文、感謝の文など、人それぞれだが、書いてある内容はほぼ同じだった。中には、親の手紙まで入っていた。はんこが押してあるものもあった。ほんの小さなことなのに、家族総出で退部を希望するなんてありえない。どんな家族なのか見てみたいという私もいる。このままだと、部員という水がなくなり、美術部が枯れてしまう。時間はない。何かいいアイデアはないか。時間いっぱい使ったものの、結局美術部を復活させる案は出なかった。

クラスに入ると、ある一人の女子生徒が私に近づいてきた。胸元の名札には「小沢」と書かれていた。
「吉村さん。昨日はごめんなさい。」
急に謝られて、私は動揺した。クラスにそのような人がいるとは思っていなかった。
「私の姉が元美術部員で、今美術部が廃部の危機だって言ったら、姉が今の部員に会いたいって。」
小沢さんのお姉さんに会うのは初めてだった。その前に、小沢さんにお姉さんがいたことさえ知らなかった。しかも、その人が美術部OBだったということも、もちろん知らなかった。しかし、私たちにとってはとても大きな助っ人だった。今の部員だけでは力不足だが、元美術部員の先輩が加わって大きな力となって、廃部を逃れられるかもしれない。美術部に光が見えてきた。美術部として卒業したい。そういった思いがこみ上げてきて、一滴の水となって、目から熱いものが出てきた。小沢さんは私の姿を見て、ほっとした様子だった。私は普通、人が泣き出したらあたふたして、どうしたらいいかわからなくなるのがオチだと思っていたが、小沢さんは違った。神様のように私を見ているようだった。そのこともあってか、私は今まで味わったことがない緊張感に襲われた。神様は私に一枚の紙を置いていった。そして、すっと私の視界から消えていった。
紙には、秋という人からの手紙だった。小沢さんのお姉さんの名前だろう。書き出しには「拝啓」と書かれていた。たった二文字なのに、その文字を使った人がものすごく大人に感じる。
「拝啓 美術部員様。妹から美術部廃部の危機を聞いて、驚きました。私たちが中学生のとき、美術部には絵の才能を持った人がたくさんいて、中にはデザイン科のある高校に進学したという人もいたほど、美術部は学校で一番才能のある部活で有名でした。しかし、そんな美術部が廃部の危機にあることに私は怒りを感じます。一度、今の美術部員とお話をしたいです。週末の日曜日にA駅前に来てください。あまり大勢だと悪いので、数名ほど来てくれると幸いです。よろしくお願いします。 小沢 秋」
手紙からだと、この情報はもう知っているだろう。私は授業が終わって洋子にこのことを伝えた。洋子は大きな歓声を上げた。
「本当?よかったー。私絶対会いに行く。もちろん、ひなも行くよね。」
「当たり前じゃん。美術部のためなら何でもするつもりだよ。」
今日は美術室に笑い声が響いていた。教室のあのような無機質な笑い声ではなく、いろんなものが詰まった宝箱のような笑いだった。こんなに笑ったのは久しぶりだろう。この日は思いっきり笑った。美術室が壊れそうなくらい笑った。私たちは今日、深い絆を誰よりも大きく築いた。
家の前で、西のほうを見た。太陽が沈みつつある。でも、今日も私に今日一日最後の光と温かみを与えてくれた。とても気持ちがよかった。太陽はもう半分以上沈んでいたが、私は最後の最後まで太陽とふれあった。そして、三分の二以上沈んだとき、太陽と別れを告げた。
「またね。明日も顔を見せてね。」
今晩は満月だった。太陽が私にくれたプレゼントだと思った。太陽が私のお父さんとお母さんの心のようだった。太陽まで励ましてくれて、目から温かいものが出た。昼とはまったく成分の違う、暖かく、何かがたくさん詰まった一つの雫だった。

今日は秋さんと会う日だ。太陽がさんさんと地面と私を照りつける。こんな日だけ、太陽をほんの少し嫌った。そんなことを一切かまわず、太陽はいつもどおり仕事を続けていた。
A駅まで私の家から一時間ほどかかった。途中で洋子と合流してA駅へ向かった。変な緊張感が私を包んだ。テスト前や発表会前の心を締め付ける緊張感とは違って、やわらかく、クッションのような心を優しく包み込む緊張感だった。私はこんな緊張感を味わったことがなく、戸惑った。自分の精神の動きに自分が疑問を持つなんて、私ぐらいだろう。洋子はその様子もなく、落ち着いていた。というより、落ち着かねばいけないという気持ちが洋子の心を満たしているのだろう。道中、洋子と話すこともなく、お互いに自分のことで精一杯で、口を開くことも脳の中にはないだろう。
駅に着いて、秋さんらしき人が話しかけてきた。
「吉村陽菜さんと西洋子さんですか?」
透き通った声が私の肩の辺りから聞こえた。私はすっと顔を声がしたほうに向けた。そこにはきれいな女の人がいた。なんとなく、小沢さんに似ているような気がしたので秋さんだと分かった。私は「はい。」と答えた。
「よかった。人違いだったら心配で——。私は小沢秋。あなたたちと同じ中学校出身で、元美術部みたいな感じかな。」
秋さんが自己紹介をしたので、私たちも軽く自己紹介を済ませた。秋さんは「じゃあ、行こうか。」と言って、私たちと近くの小さなレストランに入った。
「遠慮しないで、好きなのを選んでいいから。」
「いいえ、そんな——。」
遠慮しないで、って言われても先輩で他人のお姉さんだから私たちは遠慮して、安いアイスコーヒーにした。秋さんに「本当にいいの?」と聞かれたが、私たちは首が引きちぎれそうなぐらい首を振った。
店員が私たちの席から離れると、秋さんは突然、秋さんがまだ中学生の時の美術部のことを話し始めた。
「私たちの頃は美術部が一番盛んだった。毎日、絵のデッサンを練習して、秋の体育祭や文化祭で絵はがきを売ったりしたりして、どの学校行事でも美術部が一番目立っていた。部員もまじめだったし、顧問も部活に熱心だったし、その二つがつり合っていて盛んだったかもしれないね。」
昔と今の美術部は全然違った。つり合っているどころか、ぐらぐら不安定だった。まともな活動もせずにいつの間にか周囲からは「陰部」と呼ばれてしまっている。
「『廃部』って言っているけど、原因は部活自体にあると思うの。」
意外な言葉が秋さんから出た。今までは学校や市が勝手に決めて、そっちを悪者扱いしていた。しかし、秋さんは学校だけじゃなく、私たちに活動に問題があると言っている。「どういうことですか。」と少し口調を荒げて、言葉の訂正を求めるように聞いた。
「ごめんなさい。私は別に、部活を責めているわけじゃないの。でも、『廃部』となると、相当事が大きいことがあなたたちにも分かるでしょ。学校も好き勝手に部活を廃部にするわけじゃないと思う。あなたたちの活動とか部活の中の状況を話してくれるかな。」
秋さんの話していることはすべて当てはまった。たぶん、私たちは部活が消えることを怖がって、それで、学校が悪いことにしていた。それが間違いだということに気づかされた。私と洋子は美術部のことを漏れなく話した。秘密を打ち明けるような気分になったが、気にならなかった。すると、秋さんは「やっぱりね。」と言った。
「顧問の先生もそうだけど、顧問なんて気にしないほうがいいと思う。いちいち顧問なんかに縛られて活動するよりも、ある程度自分の好きなこと、たとえばスケッチとか工芸とか、いろいろ自分の個性を生かせるときがたくさんあると思うの。いま、話を聞かせてもらったけど、そういった時間が山ほどあるじゃない。私たちも、顧問は部活にめったに来なかったけど、来てくださいって言ったら必ず来てくれていろいろと評価してくれたよ。たぶん、美術部員全体の行動力が小さいと思う。今この状況を『危機』と感じるよりも、今自分たちの力を生かせる『チャンス』だと思ったほうがこの状況をばねにすることができると思うの。今、美術部は大きな分岐点の前にいる。『危機』に行くか『チャンス』に行くかは自由だけど、行く道によって今後が変わってくる。なんかごめんね。一方的で。でも、これが美術部を変えるきっかけになってほしいから言っていることだけ分かって。」
私はとてつもない大きな向かい風に遭ったような気がした。それが美術部にどんな大きな力になるかは分からないが、でもどこかでその力を生かせるときが来ると思った。
最後に洋子が秋さんに「また、会ってください。」と言った。秋さんはにっこり微笑んだ。洋子も微笑んだ。帰りに、画材を買っていくことにした。おそろいのスケッチブックを買って、店を後にした。駅に向かう途中で、私は西の空を見た。少し日が高かったが、夕日が薄赤く燃えていた。「どうした?」と洋子に聞かれた。ううん、と言って二人で手をつないで駅まで向かった。私たちは懐かしい雰囲気になった。今までとは違った、幼い心になった。この時間は終始、二人で懐かしい心を大いに味わった。

「これ、お願いします。」
私と洋子は学校に廃部届けを提出した。私たちは自主的に美術部の廃部を選んだ。つまり、美術部は濁流の川へ進んだ。
残った美術部員で何度も話し合った。このまま、生徒総会で廃部の決定を見守って学校を恨むのか、それとも自主的に廃部するのか、またまた学校に土下座をして廃部を見直ししてもらうのか。選択肢はいくつかあるものの、ほとんどは後味が悪い。私たちは何度も自問自答をした。すると、部長が「私、思うんだけど——。」と今までの内容とは真逆の意見を述べ始めた。その瞬間、辺りが真夜中のように静まり返った。
「私たちにしばらくのお休みを与えてくれたんだと思う。正直、廃部になるのはつらいけど、誰かに廃部を決められるよりも、私たち全員で廃部を決定したほうがすっきりすると思う。私はもう卒業だし、ひなちゃんと洋子ちゃんで新しい部活を作って新しくスタートするほうがいいと思うの。私も先輩に相談したんだ。その廃部という危機が『チャンス』だって。」
その言葉、秋さんの言葉だった。ちょっと内容が違っていたけど、言っていたことは同じだった。洋子の顔を見ると、洋子も私のほうを見て、「秋さんよね。」と合図してきた。
「そこで、ひなちゃん、洋子ちゃん。この廃部届けを教頭先生に出してくれる?」
「ちょっと待ってください。」と洋子が言うと、「部長命令。」と部長が言ってきた。思わず笑ってしまった。すると、周りにいた人たちも笑った。笑って、笑って、みんなで泣いた。温かいものが目からこぼれた。美術室が涙の海になりそうなくらい思いっきり泣いた。
「本当にいいのか?」と聞かれた。教頭先生の声で意識が戻った。昨日のことを思い出していて、現実を忘れていた。洋子が「いいよね」と合図してきた。
「はい。みんなで決めたことですから。」
「そうか。」と教頭先生が言った。「あと——。」と私がある一枚の紙を机の上にすっと差し出した。
「美術部設立の書類を提出します。生徒全員の署名も提出します。」

「ひなー。」と小さな子どものような元気な声がした。洋子だった。
新しく、美術部設立の書類を提出して一か月がたった。ただ、生徒全員分の署名を集めるのは大変だった。美術部が仮廃部になったとき、実はクラス全員が廃部撤廃の署名をしてくれたそうだ。あの嫌な態度も、私たちにそのことに気づかせないためだったそうだ。みんなから「よかったじゃん。」とか「ごめんね。」などの言葉がクラス中を包み込んだ。美術同好会になったとたん、クラスは歓喜と喝采の渦となった。
美術部は廃部になったが、新しく同好会として活動していくことになった。この中学校初の同好会というのもあるが、今までどおりの活動だが、規模はうんと小さくなり、材料などもすべて自腹となった。部員も私と洋子の二人だけとなった。美術部をやめていった人たちはどうなったか知らない。時々、洋子がそういった人たちの情報を持ってくるけど、本当のことなのかよく分からない。クラスの反応も今までどおりになった。友達も少し増え、小沢さんともよく話すようになった。美術部の廃部を秋さんに伝えると、「そうなんだ。」と少し残念そうだった。それでも、秋さんとたまに会って、いろいろ話したりしている。いい相談相手にもなっている。
美術室の真ん中で、私と洋子は向かい合った。数日後に控えた文化祭で出品するポストカードを作っていた。私が、カードに書いたキャラクターの色を塗っているとき、洋子が「ねえ、ひな。」と言ってきた。何?、と聞くと洋子はにっこり笑って言った。
「ひなは、美術部でよかったって思ってる?」
「当たり前でしょ。美術部に入っていなかったら、洋子とも会っていなかったし。」
帰ろっか、と言って、私たちは学校を後にした。今日も西の空が赤く燃えていた。
「私さ、いつもこの時間になって、夕日を見るの。悩みとかを打ち明けたりしてるの。」
洋子の顔を見ると、口をあんぐりあけて「それ、私も——。」と言った。意味が分からなかった。洋子も私と同じことをしていた。
「私も、ひなと同じ。夕日に向かってデカイ声出したり、泣いたりしてる。私だけだと思ってた。」
「私も。私だけの秘密だったのにー。」
洋子はあはは、と笑った。
「じゃあ、今度から私とひなの秘密ということで。」
「まっ、いいか。ひとり増えたから安心したし。」
「あー。なにそれー。ひどーい。」
そう言いながら、私たちは近くの展望台に登った。二人で競争しながら、幼い子供のようにきゃっきゃっとはしゃぎながら、展望台へ向かった。
「学校のバカヤロー!」
二人で同時に叫んだ。そして、大きく笑った。その時、夕日が微笑んだ。私のお父さんのように、大きくて温かかった。今日も、いつものように太陽が一日の役目を終えて、次の場所へと去っていった。明日もまた会えるのに、寂しさが心を突き刺した。
洋子の顔を見ると、口をあんぐりあけて「それ、私も——。」と言った。意味が分からなかった。洋子も私と同じことをしていた。
「私も、ひなと同じ。夕日に向かってデカイ声出したり、泣いたりしてる。私だけだと思ってた。」
「私も。私だけの秘密だったのにー。」
洋子はあはは、と笑った。
「じゃあ、今度から私とひなの秘密ということで。」
「まっ、いいか。ひとり増えたから安心したし。」
「あー。なにそれー。ひどーい。」
そう言いながら、私たちは近くの展望台に登った。二人で競争しながら、幼い子供のようにきゃっきゃっとはしゃぎながら、展望台へ向かった。
「学校のバカヤロー!」
二人で同時に叫んだ。そして、大きく笑った。その時、夕日が微笑んだ。私のお父さんのように、大きくて温かかった。今日も、いつものように太陽が一日の役目を終えて、次の場所へと去っていった。明日もまた会えるのに、寂しさが心を突き刺した。

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