第五回島清ジュニア文芸賞「散文賞」(中学生の部)「希望の扉」その1

ページ番号1002736  更新日 2022年2月15日

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美川中学校三年 福村美緒

俺の名前は片瀬ユウキ、高校二年生。両親と姉の四人家族だ。隣の家には幼なじみの女の子の梓梨緒とその家族が住んでいる。今こそは、俺も元気に暮らしているが、突然起こった六年前のあの出来事が俺の人生を変えたともいえるだろう…。

あれは、俺がまだ小学校五年生のときに起こった。学校から家までの下校中、友達と別れ家まであと数百メートルというときに、今日がマンガの発売日だと気付き、急いで走った。俺が住んでいる町は田舎で、あまり下校の時間帯は車が通らないので、横断歩道には目もくれず飛び出してしまった。そのときだった、飛び出したと同時に俺は宙に投げ出された。何が起こったか察しがつかなかった。と同時に地面に叩きつけられた。あまりの痛さに気を失ってしまった。

気が付いたときにはベッドの上だった。目を覚ました俺は、家族の顔が見えた。両親は泣き崩れ、姉はほっとした顔で俺を見つめていた。俺はてっきりマンガを読んでいるうちに寝てしまっていたと思った。だが、まわりは見たことも無い機械だらけで、白い服を着た人がたくさんいる。よく見ると、家族も白い服を着て、帽子とマスクと手袋をつけている。俺は事故にあったんだとここでようやく気付いた。そして俺は自分の体を見て、本当にこれが俺の体なのかとも思った。体にはチューブがつけられていて、ところどころには包帯が巻いてある。そして足には頑丈なギブスがつけられていた。けれど俺は前向きだったので、何ヶ月か後には元通りになって、また友達と遊べると思っていた。二週問後、厳しいリハビリの甲斐あって、俺はなんとなく手や頭を動かせるようになった。食事も前みたいにスムーズに食べられないけど、フォークやスプーンを使って、ゆっくりでは自分で食べれた。一ヶ月後、だが俺はあることに疑問を持ち始めていた。上半身は動くのに、足は動かそうとしてもびくともしないし、むしろ感覚が無い。初めはギブスで固めているからなまっているのかと思っていた。けれど一ヶ月経った今でも全く反応しない。不思議に思った俺は、見舞いに来てくれている母に聞いてみた。
「お母さん、俺の足はいつになったら動くようになるの?」

母の顔が一瞬歪んだ。何かを思い詰めている様にも見えた。そして、ゆっくり語りかけるように話し始めた。
「ユウキ、よく聞いてね。いつかは話そうと思っていたことだから。ユウキはね事故にあったの。お母さんも最初は元の生活に戻れると思っていたわ。だけどね、ユウキが地面に落ちたときに打ち所が悪くて、体の中心の脊髄っていうところに傷がついたの。だからね、だから…ユウキの足は一生動かなくなったの。」

母は泣き崩れた。「下半身不随」突然の宣告だった。

もう俺の足は一生動かない。自分の足で歩くことも、友達と遊びまわることも、普段の生活も、これからも。自分の未来に絶望した。神さえも恨んだ。
「俺はこれからなのに…。」

この日を境に、ユウキがユウキで無くなった。

それからというもの、見舞いに来てくれる家族や友達が励ましのつもりで言った「頑張れよ。」という言葉にも「どうせ家に帰れば自分の生活があるんだろ?俺は一生歩けないんだよ。」とひどい対応をしていた。幼なじみの梨緒の励ましも無視した。
「もう俺には希望が無い。」

二年が過ぎようとしていた。足以外は何も問題が無かったので、退院出来ることになった。だがユウキは足が動かなくなったことがいまだに認められなかった。
退院前日、ユウキは病院の庭にいた。晴れていて、暖かい風が吹いていたので心地良かった。ふと空を見上げてみた。
「あぁ、あのとき飛び出さなければ俺は今頃中学生になってみんなとバカなことやってんだろうなぁ。」

そんなとき同じ病室の沙織が話しかけてきた。沙織は俺が入院する前からずっと入院しているらしく、俺と同じで一生足が動かないらしい。唯一俺が病院内で心を開いている同い年の女の子だ。
「どうしたん?空なんか見上げて。」
「明日退院するんだけどこれからどうなるんだろうって考えてた。」
「えっ、そうなんだおめでとう。」
「けど俺は歩けないし、車いす生活。希望が無い。」
「出来ることなんてたくさんあるじゃない。」
「無いよ。」
「あるわよ。学校だって行けるし、彼女だって出来るかもしれない、車いすを使っていくらでもどこでも行ける。」
「出来るかもしれないって必ず出来るとは限らないだろ?」
「但言ってんのよ。ほら元気出して。そんなに悲観的にならないで。」
「…。」
ユウキは肩を震わして泣いていた。
「俺だって良い方に考えナいよ。けどもう何もかも信じられないんだ。」

それだけ言うとユウキは病室に帰っていった。沙織も泣いていた。自分もそうだから、ユウキの気持ちはわかる。やさしい風が沙織の頬をなでた。

ユウキは病室の前まで来ると、母が来ていることに気付いた。顔を洗ってから入った。母は、明日ユウキが退院するので荷物をまとめていた。だが二人の間に会話は無かった。

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