第六回島清ジュニア文芸賞「奨励賞」散文(高校生)「ダブル」その1

ページ番号1002734  更新日 2022年2月15日

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小松明峰高等学校三年 足立 沙樹

──拝啓、由本龍也様。
今君にこうして手紙を書いとる訳やけど、君がこれ読むことはありえん。君がどこにおるんか分かるんなら直接会うて渡しとるからな。
君がおらんくなってから2年や。もう高2になるんやで。君が遅い言うてからかった声も声変わりしたんやで。
なぁ、元気にしとんやろうな?あっち(どっちや!)でも、また他人の事に首突っ込んどんやろな?どこおんのや?
ほんま、聞きたいことぎょうさんあるわ。
せや、君と会うた時の話、しよか。

中3の夏。1カ月と3日後には、夏休み。冷房の付かへん教室(飛行機が近くを通る学校は付いとる)は座っとるだけで汗ばむ。俺、由本心司はいつもみたいに頬杖突いて一番後ろの窓際の席(俺の学校は変わっとって、出席番号順に左前から右に、次の列は右から左と座っていく。7×6構成)で入道雲を眺めとった──
ドンッ
「い・・・っ!?」
後頭部をいきなりど突かれた。俺は自分が出席番号が一番最後で誰もおらんはずの後ろを振り返る。
「もうかってまっかぁ?」
「──・・・は?!」
そこには知らん奴が笑っとった。髪は染めたんか地毛なんか、茶色い。「誰や?」って俺が聞くと“あちゃ──”っつー様なリアクションをした。
「今さっき自己紹介したやん、転入生の由本龍也や。聞いてへんかったんか。」
「空見とった。」
「・・・・・・で、君は名前何て言うんや?」
「由本・・・心司や。」
「『由本』!?『由本』言うんか!?俺も『由本』言うんや!『由本』龍也!!」
机から身を乗り出す。「今聞いたやん。同じ名字やからってはしゃぎ過ぎや」と少し身を引いて言うたら・・・
「『ダブル由本』やで!運命感じんか!?」
「運命て、大袈裟や──」
「大袈裟やで」と言い終わる前に担任に「そこの『ダブル由本』静にせぇ」と言われた。
その日から由本龍也は『転入生』から『友達』になった。“タッちゃん”“シンちゃん”で呼び合う間柄になって、タッちゃんが「シンちゃんは俺の親友や」言うてから『親友』になった。タッちゃんとおるようになってから、友達の少なかった俺に声を掛ける奴が増えた。

──いろんな話したな。君が何で夏休み前の変な時期に転入して来たんやとか。親の離婚で母親の実家戻って来たんやったな。あん時俺が「そうなんか、大変やな」言うたら君、俺の頭はたきよったな!「何しけた面しとんねん」とか言うて。君、加減を知れや。痛かったで、あれ。絶対忘れへんで。
ああ、でもあの事も忘れられへんな。ほら、君が親友振りを見せてくれたあの事や。ホンマ、君が首突っ込むんが好きで助かったわ。

夏休みまであともう5日。タッちゃんと知り合うてから28日が経った。
タッちゃんとおるようになってから変わったことが沢山ある。友達増えたし、世界が明るくなった気ぃするし、・・・・・・教師に怒られるようにもなった。(タッちゃんが授業中話し掛けてくんねん、不可抗力やで!)それから、写真にも詳しゅうなった。
タッちゃんの夢は写真家になること。学校に写真集持って来たり、カメラの話やら目ぇ輝かせて話すさかい自然に覚えた。
いつやったか数学の授業中寝こけとった俺をタッちゃんが後ろから手ぇ伸ばしてフラッシュ焚いてインスタントカメラで写真撮られた事があった。俺はビビッてイスから転げ落ち、数学教師からは「また『ダブル由本』か!?」と怒鳴られた。
そん時に食らった数学教師のゲンコツを思い出して少し腹が立って、後ろのタッちゃんを軽く睨んだ(まぁ俺が寝とったんも悪いねんけど)。タッちゃんは訳が分からんっちゅう顔をした。
4限目の授業が終わり、給食を食べ終わり昼休みになった。
「タッちゃん、俺今日当番やさかい4限に提出やったノート、職員室に持ってかなあかんねん。すぐ戻って来るさかい、待っとってくれるか?」
「ええよ。あ、したら明日の当番俺かいな。めんどいなぁ。」
「しゃあないやろ、絶対回って来んねんから。まぁ、行ってくるわ。」
43人分のノート持って、ぐでっと机に伏してしまったタッちゃんを残して俺は教室を出た。
教室から廊下に出て職員室に向かう途中で、隣の教室の窓が開いとって通り過ぎる際に中を覗いた。本読んどる奴や5限の予習なんか教科書広げとる奴。雑誌囲んで喋っとる女子らに・・・・・・何や?一人の(自分に言われとぉないと思うけど)冴えん顔のメガネの男子を三人のガラの悪そうな男子が囲んどる。えらい女子とは違って気になるもん囲んどるな。
さすがと43人分のノートに手が痺れて、気になったけどタッちゃんも待たせとるさかい急いで職員室に向かった。
「43人分は重かったやろ。お疲れさん。教室の黒板ももう給食食っとるのおらんやろうから消しといてくれ。」
「はい、失礼しました。」
帰り際、さっきの奴らが気になって覗いた。
したら、冴えん顔の奴が囲んどる中の一人に小突かれとった。冴えん顔は眉を八の字にして俯いとる。
「何や、そいつ嫌がっとんのとちゃうんか。あかんで、人の嫌がることすんの。」
俺は廊下から三人組に言った。タッちゃんに会うてから、人にかまうのが移ってしもうたみたいや。
三人組が俺に向かって来る。
「誰やお前、他のクラスの者か?関係ないやろ、とっとと去ねや」
「なん──」
「なんやて」と言い返そうとした時、聞き慣れた声が俺の声を遮った。
「シンちゃん何しとんねん、そないな所で。あと5分で予鈴鳴るで?黒板消さなあかんのに。」
「いや、タッちゃ・・・っ、ちょお引っ張んなや!」
俺はそのままタッちゃんに引っ張られて教室に入り、黒板を消した。
黒板の字は消えても、俺の気掛かりは消えなかった。
俺は後で呼び出されたりすんのかと思ったけど、何も起こらんとその日は過ぎてった。俺も首突っ込んどいて何やけど、深入りは良うない思て、これ以上関わらんことにした。

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