第五回島清ジュニア文芸賞「散文賞」(中学生の部)「希望の扉」その4
美川中学校三年 福村美緒
翌朝の六時、ユウキはすでに起きてトレーニングを開始していた。入院して体力が落ちていると思ったため、自主的にやり始めたのだ。
「うわ、やっぱりそうとう体力落ちてるな。だけど鍛えとかないと練習についていけないからな、頑張らないと。」
ユウキはそれから毎朝六時に起きて、外を車いすで一時問歩いて家に帰り、朝ご飯を食べたら、腹筋、背筋、腕立てを形にはならないが、百回朝、昼、晩と三セット必ずやっていた。けれどユウキは苦しくても弱音を吐かず続けていた。
「自分で決めたことなんだ。俺が頑張らないで誰が
頑張る!」
自分に言い聞かせて毎日頑張った。最初は相当体に堪えていたが、日が経つにつれ、慣れたせいかトレーニングが楽しみになっていた。朝の新鮮な空気に小鳥のさえずり、道で出会う人との挨拶やちょっとした会話がユウキにとって元気の源だった。
そして約束の木曜日。ユウキは朝から楽しみでうかれていた。
「早く六時にならないかな。」
そして母が五時に仕事を早く終らせて帰ってきてくれた。
「じゃあユウキ行こうか。」
「うん!」
二人は青山学院高校へ向かった。バスが少し遅れていて、六時ギリギリに到着した。
「危ねえ遅れるところだった。初日から遅刻はヤバイからな。」
二人は高校の中に入っていった。ユウキは緊張していた。
「ここから俺の第一歩が始まる。」
体育館に入ると、監督が気付いて話しかけてくれた。
「ようユウキ、よく来たな。今日から頑張れよ。今から集合かけるから、そのときお前のこと紹介するぞ。言うこと考えておけ。」
「はい、よろしくお願いします。」
「あの、監督さんでしょうか?ユウキの母です。今日からよろしくお願いします。」
「あっ、ユウキ君のお母さんですか。中井と申します。ユウキ君から話は聞きました。ずいぶんと固い決心だったのですぐOKしました。厳しいと思いますが、お母さんもユウキ君のことサポートしてあげて下さい。それではもう集合かけますんで、今日は見学なさって下さい。」
「はい。」
「みんな集合だ。」
「はい。」
「今日から新しい仲間が一人増えることになった。まだ何もわからないと思うから、みんな教えてあげるように。」
「はい。」
「じゃあ自己紹介して。」
「片瀬ユウキ、中学校一年です。小学校五年のときに事故で下半身不随になりました。最初は悔やんだけれど、この前の世界大会を観て感動したんで、俺もやってみたいと思いました。車いすバスケのことは全然わからないのでたくさん教えて下さい。よろしくお願いします。」
「よろしくな。頑張れよ。」
「よし、それじゃあ体操してからシュート五十本、終ったら一対一をやって、休憩を少し入れてから、そうだな今日は試合をしよう。ユウキにカッコイイところを魅せてあげよう。」
「はい。」
「それじゃあ、各自始め!」
「よし、やるか。」
「今日はユウキ見学してろ。まず俺がいろいろ教えてやる。」
「お願いします。」
「まず、車いすバスケをするにあたって、道具が必要だ。今ユウキの乗っている車いすではバスケが出来ない。競技用の車いすがちゃんとあるんだ。ほら、見てみろ。タイヤが斜めになっているだろう。あれが競技用車いすの特徴なんだよ。あれで転びにくくなっているんだ。協技用はアルミフレームやチタンで作られているから普通の車いすより軽くなつているんだ。あとはバッシュが必要だな。あ、そうそうマイボールも持っていた方が家でも練習出来るからいいぞ。片瀬さん。今言った物を全て揃えると最低十五万円は必要なんですが、大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。」
「それなら良かった。届くまで一ヶ月くらいかかるだろうから、それまでは車いすは貸してあげるから。バッシュは三日くらいで届くと思うから、それまでは普通の内履きでいいよ。」
「はい。わかりました。」
「じゃあもうすぐ試合入れるから、観てすごいと思ったことはどんどん盗め。」
「はい。」
「よしみんな、十五分休憩してから試合入れるからな。」
「はい。」
見学しているユウキの所に一人の男の子が話しかけにきてくれた。
「ユウキだっけ?俺の名前は水城玲。高二よろしくな。」
「こっちこそよろしく。」
「わからないことがあったら何でも聞いてくれよな。大変だろうけど一緒に頑張ろうな。」
「うん、ありがとう。あっ、あと三十秒だよ。」
「うわ、サンキュ。行くな。」
「頑張れ。」
「おう。」
「それじゃあ今から試合を始める。Aチーム、木村、上杉、中山、阪木、吉森。Bチーム、横田、越崎、鳥山、水城、桜。今言われた奴は、すぐビブスをつけてコートに入れ。あとの奴は審判だ。」
「はい。」
「ユウキ今から始まるからな。よく観とけよ。」
「はい。」
「ところでルールは知っているか?」
「普通のバスケのルールなら姉がやってるんでわかりますけど。」
「そうか、じゃあ大丈夫だ。一緒だから心配しなくていい。違うのは、一人一人に障害レベルというものがつけられていて、それが均等になるようにチーム編成しているんだ。あとダブルドリブルしていいんだぞ。」
「そうなんですか。うわ、玲君すごいなあ。」
「水城か?」
「はい。」
「水域は人一倍努力したからあんなに上手くなったんだ。あいつは中二から始めて、最初はドリブルやシュートが下手くそだったんだが、それが悔しくて家でもマメ何個でも作って練習したからあそこまで上手くなったんだ。努力が結果となって表れている。」
「俺も練習したら玲君みたいに上手くなれますか?」
「それはユウキ。お前次第だ。」
「ピー。」
「今日の練習は終了だ。もう遅いから各自で家に帰ったらストレッチしておくこと。」
「はい。ありがとうございました。」
「どうだユウキ、すごかっただろう?」
「うん。玲君すごかった。」
「玲でいいよ。」
「じゃあ、玲すごかった。」
「お前も頑張って上手くなれよ。」
「なるさ。じゃあな。」
「じやあ。」
「お母さん帰ろうか。」
「そうだね。」
帰りのバスの中、ユウキは母にあることを聞いた。
「なあお母さん。さっき思ったんだけど、十五万円なんて大金家にあるん?もし、あつたとしても使っていいのかよ。」
「ユウキはお金のことは気にしなくていいの。そのかわり、ちゃんと頑張るのよ。」
「絶対日本一になるから。」
「期待してるわ。」
「ところでお母さん、俺そろそろ学校行きたいんだけど。」
「えっ本当に?じゃあ明日校長先生の所に挨拶しに行きましょう。」
母はユウキが自分から学校に行きたいと言ってくれて嬉しかった。
「うん、わかったよ。」
「制服とか学校に必要な物はもう買ってあるから。」
「準備早いな。」
「ユウキがいつでも学校に行け至うにと思って買ってあったのよ。」
「アハハハハ。」
翌日。ユウキと母は、通う予定の白山中学校の校長室にいた。
「おはようございます。片瀬と申します・今まではユウキが入院していたので学校に来られなかったんですけれど、退院して学校に行けるようになったんで、来週の月曜日から行きたいと思っていますのでよろしくお願い致します。」
「はい。事情はわかっております。では、待っていますので。」
そしてユウキは学校に通うようになった。最初はとまどってはいたものの、次第に友達も増え、ユウキのことを変な目でみる人もいなかったので、学校生活は順調だった。
車いすバスケもどんどん上達していった。負けず嫌いな性格のため、出来なかったことは家ですぐに練習した。
あっという間に時は流れ、三年が過ぎた。ユウキは高校一年生になり、車いすバスケの腕も格段に上がっていて、チーム内ではトツプクラスにまでなっていた。
ある日の練習でのこと。
「みんな聞いてくれ。」
監督が話を始めた。
「一ヶ月後に、県の大事な大会がある。そこでレギュラーを発表する。水城、中山、上杉、桜そして、片瀬。ベンチには、阪木、吉森、木村。選ばれた奴はしっかり練習して、必ず全国大会の切符を手に入れろ。それから選ばれなかった奴。選ばれなかったといって練習を怠けるようでは話にならん。次の大会で必ずレキュラーに入ってやるという意地を見せてみろ。」
「はい!!」
それからチームには活気が増した。
そして一ヶ月後。ミヘルディアンズは順調に勝ち上がっていき、見事優勝した。
「次は二ヶ月後の全国大会だ。絶対日本一になってやる!!」
ユウキは固い決心をした。
そして、全国障害者スポーツ大会。ユウキはここでもレギュラーに選ばれ活躍していた。ユウキを応援しに、ユウキの家族と、尋と梨緒が来ていた。ユウキは応援に応え、決勝まで進んだ。
「これに勝てば、日本一になれる。勝つ。」
だが、惜しくも一点差で静岡県のシンフォニアというチームに負けてしまった。ユウキは涙枯れるまで泣いた。
「あと一ゴールすれば、優勝出来たのに…。」
そんなユウキに監督が声をかけてくれた。
「ユウキ、残念だったな。でもここで負けたくらいであきらめるのか?お前は下半身不随になってもあきらめず、車いすバスケという道を自分で見つけて頑張ってきたんだろう?まだ来年も再来年も、この先もある。あきらめず続ければいつかは花咲くときが来る。白分を信じて頑張れ!」
あのときから一年。ユウキは高校二年生になりまだ車いすバスケを続けている。いつもユウキは自分にこう言い聞かせている。
「俺はあきらめない。あきらめたらそこで終わりだ。足が動かなくなったときは希望が無いなんて言ったけれど、今は希望に満ち溢れている。今年こそは絶対日本一になるんだ。希望の扉を今開くんだ!!」
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