第三回島清ジュニア文芸賞「散文賞」(中学生の部)「夢 永遠のつくり方」その2

ページ番号1002752  更新日 2022年2月15日

印刷大きな文字で印刷

美川中学校3年 中村 希

そのまたある日の朝。愛美は・・・
「はーヒマだなあ・・・。」
そう言って窓から見える狂い咲きした桜の木を見ていた。するとコンコンとノックする音がした。入ってきたのは直人だった。
「お見舞いだぞー。ほら、お前の好きな桃だぞー。」
「わあーっ桃だぁー ありがとう〜〜〜。」
優梨に聞いたのか、愛美の好物を持ってきた直人。愛美はさっそくかぶりつく。
「あれ?一人だけ?優梨ちゃんと勇希君は?」
もぐもぐと口を動かしながら質問する愛美。
「優梨は登校日だってさ。勇希は俺と愛美の分の入学手続きを任せてきた。ほら、新学期からは俺らも優梨と同じ学校に通うだろ?ん、この桃うめぇな!!」
自分で買ってきた桃をほおばりながらそう説明した。
「なるほどね☆でもお見舞いなら手続きの後でもよかったのに。あっ桃届けるため?」
不思議がる愛美。そして今日ここに来た理由を直人は話し出した。
「話したいことがあったから、来た。」
「え・・・?」
ベッドの横にあったイスに座って、直人は話を続けた。愛美は黙って聞いた。
「俺さ、前言ったじゃん?”本気の恋愛”がしたいって・・・。それで色々考えて思ったんだけどさ・・・。」
「うん?」
直人は愛美の瞳を見てこう言った。
「お前のこと頭から離れない。」
「へ・・・?」
思わず持っていた桃を落としそうになった。心の中で何言ってんのってすごく叫んでいた。だってそんなこと言われたらさ・・・ねえ?女の子なら誰だって・・・期待、しちゃうよね?
「それで、自分の気持ちに気づいた・・・。白分の方から言うのは初めてだからたぶんニセモノじゃないと思う・・・・。」
心臓の音がすごく大きく聞こえる・・・・。直人にも聞こえちゃったりして・・・・。お願い、早く言って。今はこの沈黙がツライ・・・・。
「・・・・好きだ・・・・。」
強い風がふいた。桜の花びらがたくさん散っていき、もっていた桃もスルッと手から落ちていった。愛美は大きく目があいたまま。
「愛美がいい。」
ハッとして目が戻る。数回まばたきした。
「愛美と”本気の恋愛”したい。」
愛美の目から涙が落ちた。たくさん落ちた。
「後から『やっぱり本気になれなかった』とか言ったら恨むからね・・・・。」
二人の赤い糸がっながったようだった。

その日の夕方。優梨は愛美のお見舞いに来た。朝の出来事で盛り上がっていた。
「そっかぁーよかったね、愛美」
「ありがとっ。早く元気になって遊びに行きたいなー。」
幸せそうな愛美を見て優梨はとてもホッとした。
「すみませーん、面会の時間もう過ぎてるんで申しわけありませんが・・・・。」
「あっすみませんっすぐ帰りますっ。」
どうやら今日はもうおしまいらしい。帰ろうとしたとき、優梨は愛美の主治医の先生に呼び止められた。そして、よくない知らせを聞かされた。
「愛美ちゃん、もうそろそろ限界だよ・・・・。本人が一番わかっていると思うけど、体がボロボロなんだ。笑ってる顔を見るのが辛くなってくるよ・・・・。」
やはりかなり無理をしてるらしい。もともと体が弱いから、よけい状況が悪い。食事もろくにとれてないらしい。食べてもすぐもどしてしまっていて、先生は日に日にやつれていくのが嫌でもわかってしまうと言う。
「治療法・・・見つからないんですか?」
辛い顔をしながら優梨は聞いた。
「うん・・・・。少しは良くなる可能性がある手術もあるけど絶対とはいえないし、下手にあれこれ手術を行ってたら愛美ちゃんの体がもたないからね・・・・。申しわけないけど、本当にわからないんだ・・・・。」
「そう・・・ですか・・・・。」
優梨も先生も、もちろん愛美も辛い立場だ。
「医者なら何とかしてくれよ!!」
バッと振り向くと直人がいた。
「直人!?何でこんなとこに・・・・!?」
直人は走って先生のところへ行って両肩をつかんで言いまくった。
「医者は人の命を助けるのが仕事なんだろ!?だったら愛美の病気、キレイに治せよ!!人の命預かっといて救えなかったなんて言えると思ってんのか!?」
「直人君・・・。ま、まぁ落ち着きなさい。」
「あいつ自分で『もう長くないんだぁ』とか言ってるんだぞ!?先生、何年かかってもいいから絶対治してくれよ・・・先生・・・!!」
「だから少し落ち着けっつーの!!」
バシッと直人の頭をたたいたのは勇希だった。
「あのな、イキナリ『愛美が気になる!!』とか変な発言だけ言って家をとび出すな!!」
どうやら直人を追ってきたみたいだ。するとその時、カラカラと点滴をひきずって愛美が歩いてきた。
「みんな・・・・どうしたの?」
きょとんとした顔でフラフラしながら歩く。
「愛美ちゃんっダ、ダメだよ出歩いちゃ!!危ないだろう!!ほら、せめてこのソファーに座って・・・・っ。」
そう言いながら先生が相手をする。
「先生、私やっぱりダメかもしれません。元気になれない気がします・・・・。だって何年たっても良くなんない。それどころか悪くなってますよね・・・・。朝はわりと大丈夫だったけれど、今、何だか辛くって・・・・。」
そう言って愛美は窓から見える狂い咲きした桜を見た。そして、覚悟とでも言うべきか、愛美は続けてこう言
った。
「この桜の花が全部散るころには、きっと私死んじゃうんだろうな・・・・。」
また風が強く吹いた。風で髪がなびいて愛美の顔が少し見えた。—涙がこぼれていた。
それに気づいた直人は愛美のところに駆け寄り、ギュッと抱きしめた。
「絶対死なせない・・!!だから諦めるな!!」
「直人・・・っ。」
優梨は勇希にコソッと言った。
「帰ろ・・・2人にしてあげようよ。」
「え?」
「え?じゃない!!とにかく帰るの!!」
優梨は勇希をひっぱって帰った。勇希は優梨にひっぱられて帰った。先生もその場を離れた。
「絶対治る。治るから泣くな。」
「うん。ありがと直人。ありがと・・・・。私、がんばるからね・・・・。」
そして2回目。2人の唇が触れ合った・・・・。
あれから1週間たった。その1週間、愛美が発作を起こさない日はなかった。ヒドイ時は吐血する日もあった。窓から見える桜の花もだいぶ散ってきた。愛美の命に合わせているのか、たくさん散る日もあれば、あまり散らない日もあった。起き上がることも許されない日が続き、面会など問題外であった。ガラスごしに見る愛美の姿はいつも苦しそうで、見てられないときもあった。もしかしてこのまま・・・・と、思ってしまうほどの日も何度もあった。

そんなある日、やっとで面会が許された。愛美の瞳の輝きはだんだんかすんでいっているように見えた。話すことも辛そうだった。
「何でみんなそんな辛気臭い顔してるのー。私は大丈夫だよーっ。体はこんなんだけど心はすっごく元気なんだから!!桜だって散らないよう〜!!だってあの桜は狂ってるんだもんっ。」
愛美は力強く言った。たったこれだけなのに、もう息を切らして辛そうにしていた。と、
「あー、また4人で遊びてぇなっ!!」
直人がこの辛気臭い雰囲気を吹き飛ばすように大声で言った。それにノッて優梨も、
「じゃあ次は旅行とかしたいかもっ。」
明るく言った。続いて勇希も、
「一気にフランスとか?」
などジョークをいってみる。愛美の反応は、
「・・・・フランスは遠いよぉー。」
ウケたようだ。愛美は笑った。でも3人から見ればその笑顔でさえ、悲しかった。刺されたように心が痛んだ。もう、桜が全て散ってしまうときのことを考えずにはいられなかった。それくらい愛美は弱っていた。そして面会時間が終わった。たったの10分だった。これ以上の会話は体力を失うだけだと主治医の先生が判断した。

愛美の病室を出たとき、優梨が言った。
「外出許可、もらえないかなぁ・・・・。」
とんでもない考えに2人はタメ息をついた。
「アホウ。そんなんもらえるワケねーだろ。」
「まず無理だな。」
完全に否定されて優梨はムッとした。そして白分なりの考えを言った。
「こーなったら気持ちの問題だと思うのっ。明るい気持ちでみんなで遊べたら少しはよくなる気がする!!」
「あのなあ・・・・っ。」
否定しようとする直人の話も聞かずに、次々と話す優梨。
「そう!!海とか!!また行きたいよねぇ。」
「だからそんなん愛美の体がもたねーって。」
勇希の言葉も流す。優梨は振り向いて2人に背を向けまだ話す。
「それとか、本当にフランスいっちゃう!?」
「優梨、俺らの話を聞けって。・・・・優梨!!」
そう言い叫んで勇希は優梨の腕を引っぱって顔を自分の方に向かせた。
「わかってるよ・・・・っこんなの無理なことくらい・・・!!でも、本当にもう助からないようなら逝っちゃう前に思い出、つくりたいじゃん・・・・!!何か永遠に残るモノ持っていたいじゃん!!」
優梨の目から涙が落ちていく。頬を伝って落ちていく。そしてまた狂い桜の花が1つ散っていく。

次の日、直人は優梨と勇希を置いて1人で病院へ行った。『みんな』でより『2人』で会いたかったらしい。そして病院に着いた直人は、いつもなら愛美の病室ヘダッシュなのだが、なぜか今日は主治医の元へとダッシュして行った。何の用だったかというと・・・・
「先生、外出の許可がほしいんですけど!!」
昨日、散々否定していたくせに何を言っているのだろうかこの男は。もちろん返事は、
「愛美ちゃんかい?ダメだよ、ダメ!!絶対にダメ!!こんな危険なときに外をふらつくなんて自殺行為だよ!!」
そのとおりだ。それに対して直人は、
「・・・そうですか。わかりました・・・・。」
嫌に素直だ。そしてそのまま愛美の病室へと走って行った。

今日はとくに具合が悪いのか、愛美はとても辛そうだった。しかし、愛美は口を開け、話し始めた。直人も真剣に耳を傾けた。
「あのね、直人・・・・。お願いがあるんだけど聞いてくれる・・・・?」
「ああ、何でも言え。」
かすかに涙目になって愛美は言った。
「海に・・・・行きたい・・・・。」
すっかり日が沈んだころ、愛美と直人は海にいた。
「やべーよなー。ぬけだしてきたしなー。今ごろ病院大騒ぎかも。」
そんな心配をよそに、愛美は妙に明るかった。
「大丈夫だよー。気にしない、気にしないっそれより海だよぉー。うーみー」
辛いはずなのに、立っているのさえ無理してるはずなのに、120%の笑顔で直人を見る。そんな愛美を見た直人は、辛気臭い顔なんてしている場合じゃない、『2人の思い出』をつくるんだ!!と思いながら夜の海で遊び惚けた。

月が真上にきたころ、2人は遊び疲れて浜辺に座って喋っていた。
「愛美がお願いしなくても海に連れてくるつもりだったんだ。」
「何で?」
「来たかったから。でもあの先生な、ダメダメ言いまくりでさ、外出許可くれねーんだぜ!?だから聞きわけイイふりしてやった。」
「あははっ直人らしーいっ。」
そして2人は沈黙した。愛美は辛いのを必死で我慢しているのを隠し、直人は色んな思いを胸に抱えていた。そして愛美が話し出した。
「この世には、『永遠』なものなんて何一つないよね。」
突然こんなこと話されても何を言えばいいのか直人はわからなかった。
「物だっていつか壊れちゃうし、人にも寿命があるし、この地球自体もいつかはなくなっちゃうかもしれないし・・・・。なのに、何で『永遠』なんて言葉あるんだろうね。」
愛美が何を言いたいのか、直人にはさっぱりわからなかった。だから聞いてみた。
「何が言いたいんだ?」
波が大きく打ち寄せたと同時に愛美は答えた。
「・・・・『永遠』をつくることが、私の夢・・・・なんだ。」
少し照れながらそう言った。それでも直人はよく意味がわからなかった。
「な、何・・・・?『永遠』?どーゆーコト?」
体が辛いコトも忘れて、愛美は瞳を輝かせて言った。
「ありえない『永遠』だから、それをつくることができたらステキだなあ・・・・って。」
やわらかい風が吹いた。その風を感じながら愛美は体を直人の肩にあずける。
「愛美はどんな『永遠』をつくりたいんだ?」
直人は愛美の肩を抱いた。少し間をあけて愛美は答えた。
「名前のとおりかな・・・・。」
「名前?」
「うん。”美しい愛”あ、別に美しくなくてもいいんだけどねっ。・・・・『永遠』の愛をつくりたい・・・・。直人との『永遠』・・・・。」
「愛美・・・・っ。」
声が震えていた。体じゃない、心が辛かった。
「なんて・・・・無理だよね、『永遠』なんて。とくに私は・・・・。言ったそばからリタイアだよね・・・・。」
言葉をつまらせ、溢れそうな涙を抑え、体を震わせながら話す。やわらかい風は激しい風に変わり、心臓を貫いていく。体じゃない、心が痛かった。
「死にたくないよ・・・・。」
まばたきをするだけで涙は落ちていった。
「直人と・・・・いっしょにいたい・・・・ずっと、ずっと・・・・っ。」

こんな短期間でこんなに好きになるなんて考えられなかった。気づいたときにはこの気持ちは溢れてて、止らなかった。大ゲサに言えば運命だったのかなぁ。だけど、神様はイジワルです。今までわがままなんて全然言わなかったし、入院生活にも文句なんて言わなかった。なのに、私、もう死ぬんですね。夢を叶えられないまま死ぬんですね。今まで頑張ってきたご褒美をくれたっていいじゃないですか。それとも、やっぱり私の夢は無理なんですか?『永遠』なんて無理なんですか?
「叶えたい・・・・。私の夢、『永遠』・・・・。」
「叶う!!だって、俺達の気持ちは『永遠』だろ!?つくれる、つくれるさ・・・・!!」
風も、波もやんだ。静かになった。この時、たくさんの桜の花が散っていた。それとほぼ同時に愛美の状態が急激に悪化した。急いで病院へと戻った。当然、直人は主治医を加え、3人にこっぴどく叱られた。女には数回叩かれた。愛美は無菌室へと入れられた。本当にそろそろヤバイらしい。

目を覚まさない日が数日続いた。酸素吸入がないとすぐ発作を起こしていた。眠っているときは、ピクリともうごいていなかった。死んだように眠る愛美は少し恐かった。
「嫌な予感がする・・・・。」
優梨がつぶやいた。そして主治医の元へ走って行った。
直人と勇希も後を追った。
「面会・・・・?」
「はい。この頃全然話してないから、すごく不安なんですっ。もしもこのまま・・・・って思うと・・・・恐くて・・・・。」
ダメもとで頼んでみたら、何とOKしてくれたのであった。
「けど、これを頭にかぶって、あとマスクも着けなさい。無菌室だからもちろん走り回るようなことはしないようにね。」
そう言って愛美のいる個室へと向かった。すると、みんなが来るのに気づいたのか、数日ぶりに目を覚ました。
「愛美ちゃん、大丈夫かい?ほら、みんなが来てくれたよ。」
うつろな目で愛美は3人を見た。しかし・・・・
「・・・・・・・・誰?」
先生も合わせ、全員耳を疑った。寝ぼけているのか、それとも本気で言っているのか・・・・。
「愛美?」
眉間にしわを寄せて直人は愛美の顔を見る。
「本気で言ってんのか?」
勇希も動揺する。そして先生も慌てた。
「愛美ちゃん!?何を言ってるんだい!?ほら、優梨ちゃんだよ!!それに直人君と勇希君だよ!?じょ、冗談だろう・・・・!?」
「・・・・・・・・・・・・あぁ。みんな・・・・?何、どーしたの?マスクとかしちゃって・・・・。カゼひいたの?そのかぶってるものは何?手袋もして・・・・。何で?どうしてそんな目で私を見るの・・・・?」
全員、悲しい目をしていた。優梨にいたっては、涙もうかべていた。

桜もあと少し。もしも、今、台風でも来たら全て吹き飛んでしまうだろう。せかすように風が強く吹き荒れる。1枚、また1枚と散っていく。どうしようもできない。誰も、止められない。時は誰にも操れない。止められない。愛美はどんどん天国への階段を登って行くばかりだった。それを止める者がいても、振り返ることもなく進む。どんどん・・・進む。愛美自身もブレーキをかけられない。そして、天国への扉のノブに愛美は触れた—
「時問の問題だって・・・・。」
「治療法がねえなんてな・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
三人は病院近くの公園にいた。そろそろ覚悟を決めなくてはいけない時がきていた。だが、一人だけ認めきれない人物がいる。
「やっと見つけられたのにな・・・・。」
直人はそうつぶやいた。『本気の恋愛』を見つけたのに。『永遠』のつくり方だってわかってきたのに。悔しくてたまらなかったのだ。それほど暑くない日だったが、みんな、体が熱かった。でも、愛美の体だけは冷たくなっていく・・・・。そして、その日の真夜中、とうとうこの時がきてしまった。

真夜中なのに病院内はとても騒しい。看護婦さんがバタバタと急がしそう。色々な道具をガラガラと運んだり、ザワザワとしている。病院内のほとんどの医者達が同じ所へ吸いこまれて行く。そこは愛美のいる無菌室だった。愛美の発作がかなり激しい。ぜんそくのように咳が止らない。血も吐いた。すごく、ものすごく苦しそうだ。主治医も必死だった。

目が、チカチカする・・・・。お医者さんがいっぱい・・・・。苦しい、早く治して・・・・。直人は?優梨ちゃんと勇希君は・・・・?今は、夜?あ・・・・桜・・・・。あと、6枚・・・・?やだ・・・・やだよ・・・・。あれが全部散ったら、私・・・・。ねえ直人、あれが散ったら『永遠』、つくれなくなっちゃうよね?やだよ・・・・。あ、あと5枚・・・・。散らないで・・・・散らないで・・・・っ!!
「愛美!!」
連絡をうけた直人達が来た。入ろうとしたが無菌室なので、入室を止められた。
「おい、あの桜・・・あと3枚しかねえぞ!!」
「愛美、がんぱって!!死なないで!!」
「み・・・・んな・・・・?」
「愛美が死んだら俺どーすんだよ!!『永遠』つくれねーだろ!?」
みんな窓ごしに愛美を励ます。医者も、看護婦さん達も全員必死だった。しかし、どうも神様は味方にはなってくれないらしい。桜がまた1つ散った。愛美の呼吸が薄くなり、脈も弱くなる。
「みんな・・・・そこに、いるの・・・・?もうみえな・・・・。」
愛美の目にはもう何も見えていなかった。優梨や勇希、直人の姿があるかさえわからなくなっていた。ただ、声だけが・・・・耳に届いているだけだった。
「愛美ちゃん、がんばるんだ!!」
主治医も愛美を励ます。愛美はまぶたが重くなってきた。桜が・・・・また散った。—あと1枚・・・・。
「みんな・・・・、ありがとう。たくさんの想い出、ありがと・・・・。すごく楽しかった・・・・。きっとこの想いは、『永遠』・・・・だよね?『永遠』の友情・・・・つくれたよね・・・・?私はそう思うな・・・・。『永遠』の愛も・・・・つくれたよね?ね、直人・・・・。私の夢のカケラ、集まったよ・・・・。直人の、おかげ・・・・。みんな、ありがと・・・・、本当に・・・・ありがと・・・・。」
最後の桜が散った。愛美の目が閉じた。それと同時に涙も流した。夏に似合わない、冷たい風が吹いていた。
「愛美—!!」
直人はドアをブチ開けて愛美の所へ駆け寄った。看護婦さんに注意されてもその腕を振り切った。他の人達も直人を止めようとしたが、主治医の先生は直人を止めようとする人達を止めた。そしてみんなはその場を去り、2人きりにさせた。優梨と勇希もロビーで直人を待つことにした。

直人は、愛美の顔に手をそっとあてた。
「冷てぇ・・・。」
愛美はもう氷のように冷たくなっていた。
「何でだよ、何で1人で逝くんだよ・・・・!!」
直人は床に膝をついた。そして両手で愛美の左手を握り、泣いた。恋愛で初めて涙を流したのだった。

夜明けと共に病院を出た3人。優梨と勇希は直人に何て声をかければいいのかわからなかった。しばらく沈黙が続いた。すると、勇希が直人の肩を組んで言った。
「たまにはいんじゃねえの?・・・・『本気の恋愛』ってのもさ。」
「全然よくねーよっ。・・・・終わるってわかってる『本気の恋愛』なんてよ。」
「直人・・・・。」
再び沈黙。そして勇希は優梨に小声で言った。
「今のあいつに何言ったってムダだな。すっげえマイナス思考。」
「・・・・そーかもね。」
「あーっやめやめ!!忘れよ!!さっさと次にいこっと!!何か今回ので遊びの恋愛なんて忘れちまった!!」
マイナス思考・・・・でもなかった。愛美のことはおそらく忘れられないだろうが、どこか、心の奥にでもしまっておくだろう。この夏の一つの恋愛で直人はきっと変わるだろう。いや、変われるだろう。
「あー、どうすっかな。・・・・!なあ優梨、俺と恋愛しない?」
ニカッと笑って直人は言った。だが、
「それはダメ。絶対。」
「なーんで勇希が言うんだよ。決めるのは優梨だろ・・・って・・・・・・は、何?お前らそiゆうこと?だーっ!!何
だよ、早く言えよなー!?」
「隠してたわけじゃないんだけどね。」
「愛美のことで頭いっぱいいっぱいの奴に言っても意味ねーだろうと思って。」
その場に笑いが溢れた。直人にはすぐ隣に愛美がいるような感じさえした。きっと、いつもどこかで自分達を見守っててくれてるだろうと直人は思った。

ある日の夕方、直人は1人であの海に来ていた。風が強かった。波も大きく打ち寄せていた。直人は何を考え、思ったのだろうか。この海を見て何を感じただろうか。と、直人はポケットから何かをだした。—桃だった。そしてその桃を海に向かって思いっきり投げた。そして、
「・・・・『永遠』に、さよならな・・・・。」
とつぶやき、そのまま帰っていった。それから直人は、この海に来ることは、もうなかった。優梨と勇希もまた、この海にくることは『永遠』になかった。しかし、この『永遠』はふつうの永遠とは別のもの。『永遠』は愛美の思う、「ありえないもの」なのだから。直人の言ったさよならも「ありえないもの」なのかもしれない・・・・。

1つの夏が終わろうとしていた。この夏、1人の少年は変わった。ある1つの恋愛で変わることができた。その変われた鍵は1人の少女だった。その少女は夢を語った。変われそうな少年の背中を押したのはその少女が語った夢の内容だった。今となってはこのこともぼんやりとした夢のようになってしまっただろうが、決して消えることはないだろう。少女の夢は叶ったのだから。そしてその叶ったものは永遠なのだから・・・・。

より良いホームページにするために、ページのご感想をお聞かせください。

このページは役に立ちましたか。

このページに関するお問い合わせ

観光文化スポーツ部文化課
〒924-8688 白山市倉光二丁目1番地
電話:076-274-9573
ファクス:076-274-9546
観光文化スポーツ部文化課へのお問い合わせは専用フォームをご利用ください。