第十回島清ジュニア文芸賞「奨励賞」散文(小学生の部)「魔法使いになるために」

ページ番号1002700  更新日 2022年2月15日

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美川小学校 六年 佐々木 恭子(きょうこ)

「ハッピーバースデー千春!!」
「誕生日おめでとう!!」
私は、12本のろうそくを「ふう〜」と息をふきかけてろうそくの火を消した。
「さっ!!ケーキ食べよ。」
「いただきまぁす!!」
いつもバースデーケーキはお母さんの手作り。クリームがふわふわで、スポンジも上手にふくらんでいて、とってもおいしいんだ。
「千春ももう12才ね。千春には、将来の夢とかあるの?」
「うん。魔法使いになるんだ。」
「え〜!!ねえちゃん、六年生なのに、まだそんなこと言ってるの〜?恥ずかしい〜!!」
「自分だって仮面ライダーになる!なんて言ってるくせに!!」
「でも千春、学校の先生になるとか、どこかの高校に行きたいとか、そういうもっと現実的な夢はないの?魔法使いなんてなれるわけないでしょ。」
「…ごちそうさま。」
「えっ、千春、ケーキ残すの?」
もうおなかいっぱい。そう言って千春は自分の部屋にもどった。
「なんでみんな分かってくれないの!!」
千春は大きな声でそう言って、枕にパンチした。どうしてみんな分かってくれないの?夢があってすてきじゃない。空を飛んだり、時間を止めたり…。こんなにすてきなのに、どうして分かってくれないの?千春の大きな瞳から涙がながれた。
「うわぁーん。」
それから、千春は涙が止まらなくなって、千春はとうとう疲れて寝てしまった。

「いってきます。」
「いってらっしゃい!!」
千春は学校へむかった。今日は終業式。これで一学期が終わって、楽しい楽しい夏休みだ〜!!というのに千春はまぶたがパンパンに腫れてお岩さんみたいになっている。嫌だ〜学校行きたくないよ〜。絶対にこの目バカにされるぅ。帰りたい!!
そんな事を思っているうちに、もう学校についた。千春は黄色帽子を深くかぶって目が見えないようにした。ああ、どうかばれないで!!バカにされるなんて絶対に嫌。教室についたら、そっと帽子をとって、そろりそろりとランドセルと帽子を片付けてとっとと教室からぬけだそう。
「木ノ下!!」
ドキ!!後ろから声がした!!この声は隣の席の和也!!和也、私に何の用があるの!?
「昨日俺、おまえにのり貸したよな。」
「う、うん。」
「それから返してもらってないんだけど。返せよ。」
どうしよう!!今返したら確実に今、私がお岩さん化している事がばれる!!
「ていうかなんでさっきから後ろ向きのままなんだよ。」
和也が私の顔をのぞいた。
「アッハッハ!!何だその顔!ブッサイクだな。」
ああ、今までの努力が水の泡。
「アッハッハ!!おもしれーな!!」
「ちょっと!!朝から千春の悪口言わないでくれる?」
「千春に謝って!!」
「うわ〜女のくせに怖〜い!!」
和也は教室からでていった。
「ありがとう!優子、翔子。」
「いいよ。別に。どうしたの?目。」
千春は昨日の事を二人に話そうとして、昨日の事を思い出したら、目の奥が熱くなった。
「泣いてもいいよ。」
優子の優しい声を聞いた千春は赤ちゃんのように泣きだした。
「優子ぉ〜翔子ぉ〜!!うわぁ〜ん!!」
千春は泣きながら昨日の事を二人に話しだした。
「…。」
ど、どうしたの二人共!?すっごく困った顔して…。
「ゆ、夢があっていいと思うけどさ…。」
翔子と優子が目をあわせて言った。
「もう少し現実みないと…ねぇ?」
「お母さん、千春の将来が心配なんじゃないかな?」
そ、そんな!!同い年の翔子や優子なら分かってくれるって思ったのに!!そんなはずは…。
「あっ!!終業式始まっちゃう!!早く体育館行こう!!」
「う、うん。」
千春は、終業式の間ずっと心の中がもやもやしていた。私って変?周りと違う…。みんなだって保育園のころは、お姫様になりたいとか、ウルトラマンになりたいって言ってたのに…。みんなが急に大人っぽく見えてきた。
終業式が終わったら通知表渡し。いつもなら「お願い!!大変よいがたくさんありますように!」なんてはしゃいでるけど、千春は通知表なんかどうでもよかった。そんなことより——。
「私って変なんのかなぁ。」
千春は深いため息をついた。
「木ノ下!!」
ビクッ!!先生!!
「さっきから呼んでるのに、何でこないんだ。先生が直接お母さんに渡そうか?」
先生がいじわるそうに笑った。
「あ、えっと、今いきます。」
みんながジロジロ見ている中、私は先生の所にむかった。
「う〜ん…。木ノ下は国語と社会が良いんだが、算数と特に家庭が苦手みたいだな。夏休みの間に、いっぱいお母さんのお手伝いをするんだぞ。」
「は、はい。」
千春は通知表を受けとった後、ちらっと評価を見てみた。確かに国語と社会は良い。算数は、少し悪い。家庭科は…ええ!!ダメダメじゃん!!うっそ…。千春はそっと通知表を閉じた。見なかったことに、見なかったことに。
「これで一学期が終わって夏休みだ。一学期の勉強のおさらいをたくさんするように。二学期にはまっ黒にやけた元気な顔を見せてくれよな。では、さようなら。」
さようなら!!とみんなは元気に返事して、ゾロゾロと教室から出ていった。
「千春〜元気出して〜。」
「う、うん。元気だよ。」
帰り道、千春がトボトボ歩いているので優子が声をかけた。
「本当に、もう大丈夫だよ。」
千春は両手をあげてジャンプした。優子と翔子は千春を見てクスッと笑い、「ならいいんだけど。」と言った。
家につくとお母さんがクッキーを焼いていた。しかもすっごく嬉しそうに。鼻歌なんか歌っちゃって。
「健、お母さんなんでクッキーなんかつくってるの?」
「ぼくの通知表がすっごく良かったから、お母さんがクッキー焼いてくれるって。ねえちゃんは通知表どうだった?」
「ま、まあまあね。」
千春はお母さんに気づかれないようにそっと自分の部屋にもどろうとした。
「あら、千春おかえり。」
「た、ただいま。」
ばれるの早っ!!なんでいつもこうなのよ!!しかもお母さんはニッコニコ。
「千春、通知表見せて。」
「う、うん。」
お母さんに通知表を渡した。
「あら、国語がいいのねぇ。」
お母さんはぶつぶつ通知表をにらみながらつぶやいている。怖い。そして一瞬にしてお母さんの顔は鬼に変わった。
「千春は家庭がダメダメねえ。お母さんのお手伝いをしないからでしょ。夏休みはたくさんお母さんのお手伝いをしてね。」
うう…。なにも先生と同じことを言わなくても…。ああ、なんか頭きた!!
「い、いいの!!魔法使いになって、ちょちょいのちょいで料理でも手芸でもできるようになるから!!」
「まだそんな事言ってるの!いい加減にしなさい!!」
「うるっさいな!ほっといてよ!」
千春は走って家から出た。
「うわあーん!」
みんなに分かってもらえなくて、悔しくて、イライラして…気持ちが張り裂けそうだよ。
千春はしばらく泣きながら全速力で街を駆け抜けたが、とうとう疲れてしまって、トボトボと行く宛もなく歩きだした。外に出たって魔法使いになれるわけないのに…。とは思ったけど、家に帰る気分にはなれないので、涼しい図書館に入ることにした。
「すずしい。」
ずっと街を走っていた千春にとって天国だった。
千春はしばらく図書館のいすに座って休んでいた。
少し落ちついた千春は、魔女になるための本みたいなのはないかな?と思って本を探し始めた。
すみからすみまで探していたら、ぶ厚い本がズラーっと並んだ図書館の誰も来ないようなところに来てしまった。
こんなところあったんだ。こんな辞典みたいなぶ厚い本、誰が読むんだろ…。私みたいな三日坊主には絶対むり…。あれ?この本、すごく目立つな。
黒や灰色の地味でぶ厚い本の中に一際目立つ赤い本。手に取ってみるとほこりをかぶった古い本。ずっしり重い。千春はほこりをはらってみた。その本の名は…
「魔法使いになるための本!?」
うそ!?すごい!私がほしかったのはこの本だ!!
千春は、その本を借りてスキップで家に帰った。千春はお母さんと喧嘩したことなど、忘れていた。
家に着くと、すぐ自分の部屋に戻ってすぐ本を読んでみた。
魔法使いになるには
その一、八月のただいま祭りでラッパを青年団のみんなとふきなさい。そのために、毎朝五時から六時の間に練習しなさい。
その二、手作りで、くまのぬいぐるみを作りなさい。
その三、オリジナリティあふれるケーキを作りなさい。
「え〜!!」
この本を読んだ千春は目を丸くした。
魔法使いになるには、こんなことするの!魔法の呪文とか、空を飛ぶ練習とかじゃないの?私、ラッパなんかふけないし、家庭科だめだめで、ぬいぐるみなんて、ケーキなんて絶対ムリ…。
…でも、このままじゃ、くやしい。魔法使いになって、みんなをおどろかせてやる!!よっしゃー!!そうとなったら明日からラッパの練習だ!でも、ラッパなんてどこにあるんだ?
うーん、うーん、ラッパがなきゃな〜。千春は、一生けん命考えた。…そうだ!
「お父さん!!昔、青年団に入ってたよね?ラッパある?」
「うん。あるよ。」
お父さんは、自分の部屋にいって、それから五分くらいしてもどってきた。
「あったあった。」
お父さんの手にはピカピカかがやいているラッパがある。
「貸してもらっていい?」
「いいけど、なんで?」
千春は、「内緒。」と答えておいた。魔法使いになって、びっくりさせてやる!!
よし。これで準備はできた。今日は七月十七日。お祭りは八月二十二日だから、一ヶ月ちょっとある。よし!がんばるゾ!
千春は、さっさと夕飯を食べてお風呂に入ってすぐに寝た。
ジリリリリリ!
目覚ましの音で千春は起きた。ラッパを持ち、家の人にばれないように、住宅のない土手のところにいって、そこで練習を始めた。ここなら人のじゃまにならない。
でも、どうやってラッパってふくんだ?千春はしばらく息を吹きこんでみたが、スゴク変な音しか出ない。
もう、分かんない!と思っていたら、ラッパを持った青年団の人がいっぱい来た。
ヤバイ!子どもがこんな時間に、一人でラッパふいてるなんておかしいって思われる!かくれなきゃ!
「あっ、木ノ下さん家の千春ちゃんだ。」
あ、ああ、どうしよう。
「千春ちゃん、早かったね。さあ、みんなで練習するぞ。」
あ、あれ、あやしまれなかった。
プープー!!
みんながラッパで演奏しだした。私、ふけないよ〜。
千春が下を向いていると、となりにいたお兄さんが、
「どうしたの。」
と、優しく声をかけてくれた。
「あ、あの、ラッパ初めてで…。」
「あ、そうなの。」
それからそのお兄さんは優しくラッパの演奏の仕方を教えてくれた。それから千春は「ありがとうございます。」と言って、一人で練習してみた。
よし、強く息をふけば高い音になって、弱く息をふけば低い音になるんだな!さて、練習しよう!と思ったら、もう五時五十八分。いけない!あと二分でお家へ帰らないと。家族も起きちゃう。
千春は走ってお家へ帰って、リビングでまったりしていた。するとお母さんが起きてきた。
「ふぁ〜。おはよう、千春。…どうしたの?ラッパなんか持って。」
「昨日、お父さんからもらったんだ。ステキだから見ていたんだ。」
「ふうん。」
千春は、とっさにうそをついた。
それから来る日も来る日も千春は毎朝五時から六時に練習をした。三日目くらいで千春は、朝五時起きがつらくてやめよっかな、と思ったけど、いいや、魔法使いになるんだ。と、強く思って練習した。雨がふった日もカッパを着て、ラッパにタオルをかけて練習をした。そのせいで次の日から頭が痛くてたまらなかったけど、千春は一生けん命練習した。息が続かなくてくるしい。なかなかうまくできない。くやしくて、くやしくてたまらなかったけど、千春は練習した。つらい。と思う時もあったけど、上手に演そうできた日は、心の中がいっぱいになった。
そして本番、胸のドキドキが止まらない。口から心臓が出てきそうだ。
ラッパを強くにぎったその手から汗が流れてきた。
「そーれっ。」
団長のかけ声とともにラッパが一斉になった。千春も思いきり息をふきかけて、一生けん命演奏した。
演奏はとてもすばらしいものになっていた。
演奏が終わると、観客たちが、大きなはく手をした。
千春は今までの努力を思い出して、涙が止まらなくなった。
家に帰ると、千春は急に疲れが出た。魔法使いになるためのその一はクリアできたし、なにより、自分が満足できる演奏ができて、千春はとても嬉しかった。
次の日の朝。千春はもう五時に体が目覚めていた。ラッパの練習をしていたら、いいくせがついた。
さて、今日は魔法使いになるためにはのその二、手作りでくまのぬいぐるみを作りなさい、にチャレンジしよう。
でも、私一人では絶対にムリ。だれかに教えてもらおう。…そうだ!!よく私にマフラーを作ってくれるおばあちゃんに教えてもらおう!
「おばあちゃん!くまのぬいぐるみの作り方を教えて!」
「うん。いいよ。」
やった!小さくガッツポーズ。
「まずは…。」
おばあちゃんは、優しく教えてくれた。
なるほど。とは思ったけど、こんな事、自分に出来るのかな。と少し思った。
千春は布を切って、チクチク糸で布をぬい始めた。細かい作業はイライラする。
「あ〜もうっなんでこんなとこから針が出るの?あ〜真っすぐぬえない〜。…痛っもう最悪〜!!」
「千春。」
あばあちゃんがやさしく見てる。
「何?」
「千春はあわてすぎ。ゆっくり。ゆっくり。一回ぬうたびに、かわいくなれ。かわいくなれ。と思いながらぬってごらん。」
へえ。呪文みたい。よし。かわいくなれ。かわいくなれ。おお!魔法だ!ゆっくりだけどすごくきれいにぬえる。かわいくなれ、かわいくなれ…。すると、くまのぬいぐるみの形ができてきた。しっぽの形が少し変だけど、けっこうかわいく仕上がってきた。
ゆっくりだけど、毎日毎日ぬって、あとは目をつけるだけのところまできた。
千春はくまのぬいぐるみを机の上におきっぱなしにして、その日は寝た。
「ああっ!」
次の朝。ペットのポチがくまのぬいぐるみをおもちゃにして遊んで、ぬいぐるみがぐちゃぐちゃになっていた。多分、机の上においてあったぬいぐるみが気になって、ジャンプしてとったんだろう。
「ひ、ひどい。」
千春の目からボロボロ涙が流れた。おばあちゃんは何とも言えない顔でボロボロになったぬいぐるみを見ていた。
「そんなに大事なぬいぐるみなの?買ってあげようか?」
お母さんが言った。
「ちがうわ、今日子さん。あのぬいぐるみは千春が…。」
おばあちゃんが言いかけたところで千春は大声で言い放った。
「ポチ、ひどい。そんなことするなんて!!サイテー!!」
そして近くにあったポチのボールを思い切りけった。
「ポチなんか大っきらい!」
千春は走って部屋に戻った。ポチはさびしそうに千春を見ていた。
部屋にもどって思い切り泣いた。まくらにだきついて泣いた。ひどいよ!ポチ…。
しばらくたって千春は思った。ポチは悪くないかも。ここずっと魔法使いになることに夢中で、全然ポチと遊んでなかったし。ポチはさびしかったのかもしれない。だから、私が作っているぬいぐるみが気になって、ただぬいぐるみと遊んでいただけかもしれない。ぬいぐるみは…作り直そう!!
そう思って部屋を出たら、
「ポチ!」
ポチが部屋の前でおすわりしていた。
「千春、ポチは、千春が出ていって、部屋に入ってからずっと待ってたんだよ。」
おばあちゃん…。
「千春、ぬいぐるみは作り直せばいいじゃない。ポチと仲直りしてあげて。」
「ポチ…。」
ポチは千春の目をじっと見て、ク〜ンとまるで「ゴメンネ。」といっているように鳴いた。
「ポチ、私こそ大っきらいって言ってゴメンね。」
千春はそう言ってポチをギュッとだきしめた。
「よし。じゃあぬいぐるみを作り直しますか。」
千春は一から作り始めた。もちろん、かわいくなれ、は忘れずに。少しずつ、ぬいぐるみはできてきた。千春はどんどん形を表してくるぬいぐるみをみて、今まで手芸は大きらいだったけど、今は、きらいじゃないなと、思った。そしてついに…。
「出来た〜!」
やっぱりしっぽの形は少し変だけど、しっかりしたぬいぐるみになった。
「すごいねぇ。」
おばあちゃんも感心していた。
千春はぬいぐるみをベッドの近くの本棚にかざった。
その二、クリア〜!!やったね。
さて、次はその三、オリジナリティあふれるケーキを作りなさい、にチャレンジだ!
そもそも、基本のケーキを作れないと、そんなケーキは作れないので、基本のケーキを作ってみよう!
しかも我が家にはケーキ作りの名人、お母さんがいる!強力な助っ人だ!
「お母さん!ケーキを作る方法を教えて!!」
「?いいけど。」
お母さんからケーキを作る方法を教えてもらった千春はさっそく作ってみることに。
「う〜ん…う〜ん…。」
生クリームがなかなかふわふわにならない。う、うでが…。よし、もっと、ふわふわにしなきゃ…。ガチャガチャ…。
「だめよ。そんなまぜ方じゃ。」
お母さん。
「えっ、じゃあどうするの?」
お母さんは私がまぜていた生クリームをとり、ボウルをななめに持って、手際よくまぜ始めた。カチャカチャカチャ。
「こうやって、空気をだきこむようにしてカチャカチャするんだよ。」
へぇ。よしっ!
カチャカチャカチャ。
すごく時間がかかったけど、なんとか生クリームはオッケー。
さて、次はスポンジ。小麦粉六十三グラム、砂糖六十三グラム…。細か!
…まぁ、だいたいこんなもんだろ!カチャカチャ。チン。
さあ、これでスポンジがふくらんでいるはず。
あれ?全然ふくらんでない?なんで?
「ちゃんと分量量った?」
「量ったよ?少し大ざっぱだったけど…。」
「だめよ!きちんと量らないと!おかし作りの基本よ。」
そ、そうなんだ。私って、本当向いてないな。
「大丈夫。また作り直そう。」
お母さん。ありがとう。
よし。気を取り直して、もう一度作りますか。
カチャカチャ、空気をだきこむように。やっぱり時間はかかったけど、なかなかの出来映えだ。
次は問題のスポンジ。ちゃんと分量を量って、しっかりまぜて、チン。ふぅ。しっかり量るのって、すごく集中するな。こんな作業、私、よくできたな…。
仕上がったスポンジはモコモコにふくらんでいた。すごい!あんな液体がこんなモコモコになるなんて。魔法みたい…。
さあ、お待ちかねのデコレーション。でも、これもむずかしい。生クリームをスポンジ全体に均等にぬるのがむずかしい。でも、クリームをしぼってかわいくするのは楽しい。もともと、ふで箱とかかわいくするのは大好きだし。
そして、いちごをのせて完成!すごい!不器用で家庭科がだめな私でも、できるんだ…。
「あ!!ケーキだ!」
「健!」
パクッ!
「おいしい〜!これ、ねえちゃんが作ったの?」
健の顔は最高の笑顔になっている。おいしい〜!って言った?本当?嬉しい!
「うん。私が作ったんだ。」
「あれ?ねえちゃん、泣いてる?」
「泣いてない。」
「うそだー!!」
健、嬉しいよ。ありがとう。自分の作ったものがほめられるって、こんなに嬉しいんだ。今までこんな事一回もしなかったから、分からなかった。
その日、ケーキを家族で分けて食べた。みんながおいしいって言って笑顔になった。すっごく嬉しかった。
その日から千春はオリジナリティなケーキは、どんなものを作るか必死になって考えた。いちごが好きだから、たくさんいちごをのせようかな。カラフルなのが好きだから、カラースプレーをつけようかな。いろんなアイデアを思いついた。でも、どれもいまいち。
「ケーキおいしかったよ。千春。」
お母さん!
「初めて作ってみて、どうだった?」
うん。楽しかったし、食べてくれた時のみんなの笑顔が…。ん?笑顔?そうだ!
千春はさっそくオリジナリティあふれるケーキを作ってみた。分量を面倒くさいけどきちんと量って、大好きないちごをたくさん使って、そして、ケーキの中央にチョコでニコちゃんマークを大きく作った。
「完成!」
やった〜!!これで魔女になれるー!!…って、どうやってなるの??千春はもう一度本を読んでみた。どこにも書いてないな〜。
ドンドン!

ドンドン!
何の音?
「あけて〜!」
窓からだ!
窓の外から窓をたたいている青い瞳で金髪の女の子がいた。とんがりぼうしに黒い服。ほうきにまたがっている…。も、もしかして。
おそるおそる窓を開けてみると、
「もう!早く窓開けてよ!」
は、はい。すみません。で、あなたは?
「私は魔法使い検定試験審査員の山崎です。あなた、魔法使いになりたい千春さんだよね?じゃあ、魔法使いになるための、その一から順にやってみて。」
山崎さんはカメラで私を撮影し始めた。
「じゃあ、ラッパふきます。」
プープー。
千春の努力がつまった演奏だった。山崎さんは「すごいね。」と言ってはく手した。その時の山崎さんの目はキラキラかがやいているように千春は見えた。
「次に、このぬいぐるみを作りました。」
ぬいぐるみを山崎さんはまじまじと見てニコッと笑った。
「ど、どうかしましたか?」
「いいえ。あなた、1回ぬうたびにかわいくなれって思いながらぬったのね。」
は、はい。どうしてそれを?
「魔法使いだもの。それくらい分かるわ。」
なるほど…。
「最後に、これが私の作ったケーキです。」
千春は、さっき作ったケーキを山崎さんに渡した。
山崎さんはケーキを見て、
「なんでまん中にニコちゃんマークがあるの。」
「あ、それは、初めて私がケーキを作った時みんなが笑顔でケーキを食べてくれたからです。」
「じゃあ、あなたの思いのつまったケーキってことね。」
山崎さんはケーキを一口食べて、ニッコリ。
「すっごくおいしい。全部食べていい?」
は、はい。山崎さんは、すっごく幸せそうにケーキを食べていた。
「ごちそうさま。」
山崎さんはほうきにまたがった。
「あとは、他の審査員と会議して合格か不合格か決めるわ。じゃあね。」
ピューン。山崎さんは空へ飛んでいった。
「す、すごい。」
千春は本物の魔法使いを見てビックリしたし、山崎さんのケーキを食べている時の笑顔が忘れられなかった。
一週間後、千春に手紙がきた。魔法使い検定試験審査員山崎さんからだ。
結果は、
…不合格。
くまのぬいぐるみのしっぽが原因らしい。
でも、千春は不思議とそんなに悲しくなかった。それは、ふけなかったラッパがふけるようになったし、手芸も楽しいと感じることができるようになった。そしてなにより、自分の作ったものでみんなを笑顔にすることができたから。

「お母さん、今日の夕飯は私が作るよ〜!」
「あら、千春、最近よくお手伝いするようになったじゃない。まるで魔法にかかったみたいね。」
おかあさんがふふっと笑った。
「違うよ、お母さん。私の今から作る料理でみんなに、笑顔になる魔法をかけるんだ。」

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