第六回島清ジュニア文芸賞「散文賞」(中学生の部)「夏と空と自転車と」その4
美川中学校一年 居村理美
三階建ての小さな雑居ビルの前にひっそりとその木は立っていた。
別にあずみについてきてほしかったわけじゃないけど、つれてこなきゃいけない気がした。これから何かあるって思ったから。
私達は今、その木の真下。木の高さは三mくらい。
私はその木をだまって見上げてる。あずみはなぜか道路を行く車を見てる。ある意味この光景はヤバイ。
私のカン。何かが起こるかも知れない。何も起こらないとか?まさかね。
5・・・4・・・・。私がカウントするとあずみも上を見上げた。聞こえたワケでもないのに。妙な所で通じ合う。
3・・・・・2・・・・・・・・・・・・1・・・・・・・・・・・・・・・ゼロ!!
それと同時に木から何かおりてきた。
おりてきたのは女の子。夢の中で見た。
・・・・・・・・え?予想通り?まさか。最初から予想なんてしてない、カンで考えて動いただけ。
「はろ──。」目の前には女の子。今の声は目の前の女の子。でもその女の子には足がない。
「だってユーレイだから。」ニッコリ笑う。
「あぁ・・ハイ。それは、それは・・。」
あずみは動揺して妙な相づちをうっている。
今、私達がいる場所は人気のない裏通り。表の大通りと違ってひんやりした空気が流れている。なんでここにいるかというと──まぁ言わなくても分かるかな──あずみと違って冷静な判断できる人な私は、この子と話すのは人のいない所がいいって思ったから。だってたいがい、ユーレイっていうのはある特定の人にしか見えない。その特定の人っていうのは今の場合私とあずみ。つまり他の人にはこの子は見えないので、もし私達とその子が話してる図はハタから見れば見えない何かと話してるイタイ女の子達ってことになる。なので裏通り。さて話を戻そっか。
「あんたって何者なの?」
あたしからその子に質問。
「そうだね。じゃ、話してあげる。あ、長くなると思うから座っていいよ。」
「そ。んじゃお言葉に甘えて。」
そうして私とあずみはひんやりとしたアスファルトの上に腰を下ろした───。
「そうだなぁ。何から話そう。じゃ名前とかから。私の名前は愛華。えっと確か歳は十三。キミたちとタメだよね。てか私のプロフィールみたいなものはこんだけ。でも他に話すことはあるから聞いてて。私がなんでこうなったか、みたいなの。私さぁ、生きてた頃金持ちのおっさんの娘だったんだよね。まぁそのおっさんが私の父親ってことになるけど。
最初はさ、良かったんだよ。好きなものは頼めば手に入ったし。どんなわがままも許してくれたし。でもだんだんときゅうくつになった。なんでもくれるかわりに習い事とかやらされたし。それもすごい数。バレエから武道まで。しかも、私の母親はまぁ、オバサンでいいや。オバサンは家事は全部お手伝いさんにやらせて自分はゼータク三昧。おっさんは仕事とかいって外に女作ってるし。だから私は逃げ出した。心配させてやりたかった。アイツらのうろたえる姿見たくて。でも、アイツらは私の事を探しにもこなかった。痛感したよ。自分はあの空間にはどうでもいいものだったんだって。イヤになった。金持ってそうなじじいに大金もらって、ガラ悪いにーちゃんたちとつるんで。フラフラして。それでも、まだ何かがイヤで。だから自殺した。にーちゃんからナイフかりて手首切って。不思議とさぁ、痛くもなんともなかったんだよね──────。」
私とあずみはぼーっとしてた。すぐには理解できなくて。愛華は話を続けた。
「最初は、死んだ実感なんてなかった。目の前の最後の映像は真っ赤な血が見えた。その後にどこかに浮いたような感じで。気がついたら、真っ暗な世界でただ一人。怖くはない。ずっとその世界をさまよってた。どのくらいの月日がたったのかな。百年と言われれば百年だったんだろうし、一ヶ月と言われれば一ヶ月だったのかも知れない。私の前にね、ミキが現れた。最初に見たミキは私の大嫌いな人種だった。てゆーか私の前にミキの映像が現れてるんだけど、そこに映るミキは・・・。」
「ちょっと黙って。」私は愛華の話を中断させた。
「あずみ、ちょっとここで待ってて。」そういって私は、愛華を裏通りのさらに細道へと連れてきた。
「ねぇ、あのコトはあずみの前では言わないでよ。」
「あのコト?あぁ、あなたの「望み」でしょ。大丈夫。話はあそこで終わらせるつもりだったから。」
「そう・・・ならいいけど。」
愛華の言葉にはウソは感じられなかった。でも、事実としても受け取れなかった。それだけ、感情のない言葉だった。
私達はまた、あずみの所へと戻っていった。
「ねぇ、何話してたの?」あずみが質問。
「それが言いたくないから細道に行ったの。」私から回答。
「ふぅん。愛華、話の続き聞かせてよ。」
「あ──・・・。なんか、思い出せないんだよね。ごめん。」
嘘だとは分かった。あずみは気づいてないと思うけど。
「そっか・・・。ユーレイだもんね。」
なんでユーレイだったら思い出せないワケ?心の中でつっこむ。
「ねェ。もう帰ろ・・・。」なんであずみの口からその言葉が出たのかは分からない。
「うん。分かった。」私も同意。
「そういや愛華ってずっとここにいんの?」
「あー・・・うん。まね。」
「そ。じゃね。」そういって表の大通りに止めた自転車にまたがる。出発。
帰り道なんて、何事もなく終わるもんだ。今日もそうだ。ビルのすき間から夕やけが見える。そっか、もうこんな時間だ。夕陽が私たちのほほを赤く染める。いつもと同じ。ただ違ったのは、私達のキョリ。あずみ、すごい離れた所を走ってる。何コレ。気のせい?
まるでケンカしたみたいじゃん。
まさか。嘘でしょ?
「バイバイ。ミキ。」そういって曲がり角を曲がったあずみの顔が少しだけ悲しそうだったのも気のせい?
私はコドモなの。分かんないよ。
分カンナイヨ。
「ただいまぁ。」家の扉を開ける。その時、自分がどれだけ幸せか分かった。扉を開くだけで家族がいる。それがどれだけ幸せか分かった。少しだけ、泣きそうになった。
「ミキ。ごはんもう出来てるわよ。」母の声。
「はぁい。」今日はごはん食べて寝よ。
今日のごはんは、カレーライス。超辛口。
「うめぇー。」そう言って食べる。
「ほんとぉ?」母がうれしそうに返事する。今日父はいない。出張だってさ。
さーて、カレーも食ったし寝るか。そうして自分の部屋に向かう。階段を上る。
そして、部屋のドアの前。開ける。ガチャ。
「あ、よぅ。遅かったじゃん。」え?
愛華がいる。私の部屋のベットの上。
「ハァァァ!?」
思わずのけぞる。何で!?何!?何んでいるの!?ハァ!?何で!?
「おまっ・・どっから入った!?」
「アハハハ。私ユーレイだよ。カベくらい抜けれますわい。」
「なんで私の家知ってんの!?」
「んー・・カン?(笑)」
だーもうワケ分からん。知らん。もーいいや。私もベッドに座る。
「珍しい人種だねェ。初めて私を見ても怖がんないくせに、部屋に私がいるだけでおどろいてる。」そう言って愛華はベッドに横になった。不思議と心は落ち着いた。
「あっそ。ねェ、話の続き聞かせて。」
「ん。まぁいいや。」そう言って起き上がる。
そうして、愛華は話し始めた。
「どこまで話したっけ?そうだ。ミキが大嫌い人種だったってとこだ。何でだと思う?だってそのときのミキはだれとでも仲良くして、だれにでも良い顔して、しかも今はもう大嫌いな教員の前で猫かぶって。サイアクだったね。でもなんでそんな私が大嫌いなミキ私の前に現れたかは分からなかった。でも私は確実にミキに興味を持ち始めた。それと同時にミキの性格も変わり始めた。八方美人な性格は一八〇度変わって一人の人物にしか心を見せなくなった。教員の前でも反抗的になった。でもそれと同じくしてミキの中にある「望み」が出てきた。それが日常が終わってほしいという「望み」だった。私はそれがうらやましくて。だって私の生前は「ふつう」じゃなかったから。ミキは私のほしかったものを全部持ってたのに。友達も、自由も、家族も。全部。そして「ふつう」も。なのに日常が終わってほしいと願っていた。ぜいたくだよ、「ふつう」よりも良いことなんてないのに。私が死んで出会った人はミキ一人だと思ってたでしょ。でも他にもたくさんの人に会った。でもどの人も日常が終わってほしいなんて心のすみにもなかった。だから私はミキがうらやましかった。そして私はあることを行った。それは────・・・・。」
愛華はそこで言葉を切った。そして少し息をはいてまた話し始めた。
「ミキの心に入ったの。悪い事だとは思ったけどどうしても抑えきれなかった。それがあの時。ミキが自転車で倒れた時。あとミキの夢の中。最初の昼間に見せたのはミキが私の作った映像を見れるかどうか確かめたかった。予想通りちゃんとミキは反応してくれた。夜のは・・何であぁなったかな・・。ミキが怖かった。なんでか分かんないけど。それでも少し話しかけたら、ものすごい力で私を拒絶してきた。そこで私はやっと分かった。この子はキレイ過ぎるんだって。キレイで、キレイで、自分の心に入ってくるすべての物が汚く見えてしまうんだって。だから、抱きしめた。壊れてしまいそうなあなたを。でもミキの心は私の存在を認めてはくれたけど、許しはしなかった。ミキは多分、無意識だとは思うけど、私を心の中から追い出した。とてつもない力で。」
愛華は話し終わると私の方を向いて少しだけ笑った。私は愛華の言葉の一つ一つが信じられなかった。キレイ?私が?まさか。わたしがどれだけ汚れているのか知ってんの?ねぇ。でも考えてるだけじゃ何したって分かんない。今日はもう寝よ。
「あたし、もう寝るから。」そういってベットから立ち上がった。電気のヒモに手をかける。
「え。まじ?早くね?まだ9時だよ。」
「眠いんだよ。寝かしてくれェ。」私は電気を消した。部屋は暗闇に包まれた。
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