第三回島清ジュニア文芸賞「散文賞」(小学生の部)「森の危機を救え『勇気ある小さな森の仲間たち』」その1

ページ番号1002748  更新日 2022年2月15日

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美川小学校5年 熊田圭祐

1.町ねずみマインド

あのきびしい日射しの暑い夏も過ぎた、ちょっとはすずしくなったのどかな午後、森が近くにある町の風景が広がっています。その町の中心から少しはなれ、どちらかというと森に近い場所に、大きな家があります。その天上うらになにやら動きまわっているものがいます。
一匹のねずみが、おずおずと顔を出した。
名前はマインド。
ここの天上うらは、広くてとても気持ちよく風が入り、住みやすいところでした。しかもこの家には、いろんな食べ物があり、食べ物には不自由しませんでした。マインドは、一匹でくらしているので、食べ物を食べても家の人は気付きません。それに、走るのは速いし、力もあったので、いろんな部屋の食べ物を少しずつ食べて、毎日を幸せに過ごしていました。
ある日、友達のイートが、マインドのもとに訪れました。
「マインド、たまには外に行かないか。」
と元気な声が聞こえました。
「外か。でどこに。」
と顔を半分の食べ物の中からのぞかせ、マインドは、たずねました。
「この家から見える森に遊びに行こう。」
とイートは、言いました。
「森。いくら森に近いったって。数キロメートルは、はなれているじゃないか。」
マインドは、くるりとふりむいて、森の方向を見つめながら言いました。
「だから、楽しいんじゃないか。」
イートが、マインドの顔をじっと見つめて言いました。
「楽しい。どこが。ぼくは行かない。」
マインドは、早口でそう言うと、しばらくだまっていました。
「そこまで言わなくても。」
イートは、小さな声でつぶやきました。
「わかったよ。行こう。」
とイートの顔を見ながら言いました。
すると、イートは、声を高ぶらせて、
「よし。森に、栗を食べに行こう。」
「イート、だれも森に、栗を食べに行くとは聞いていないよ。それに、栗ならこの家にあるよ。」
と、ちょっと困った表惰で言いました。
「いや。栗の木についている新鮮なものが、いいんだ。」
イートが、マインドの顔をゆっくり見て、言いました。
「あっそうか。わかったよ。」
イートは、心の高まりをおさえながら、
「じゃあ、明日の朝、町はずれの巨木に集合。そして、森にある物置き小屋まで行く。」
と、マインドに伝えました。
「おい。なんで森の物置き小屋なんだ。新鮮な栗を食べるんだろう。」
マインドは、イートに問いかけました。
「そうだよ。なあマインド。もしかして知らないの。秋に一度、山の幸を味わうので、食べたい者は、森の物置き小屋に来てください。と言う手紙が、来たんだよ。」
イートが、そう言い終わらないうちに、
「はあ。そんな手紙を、もらった覚えはないぞ。」
と、マインドは、イートの顔を見ながら言いました。
「わかったから。とにかく、明日の朝、町はずれの木の下に集合。話は、それからにしよう。」
と言って、イートは、さっさっと帰ってしまいました。

2.知らない動物

やがて夜が明け、次の日の朝早く、マインドは、町はずれの木へ、行きました。行ってみると日の光に反射して、イートの目が、キラリと光ってみえます。
「イート、いつもとちがって早いな。」
と、イートに言いかけると、
「当たり前だろう。今日の昼までには、森へ着く予定なんだ。さあ、行こう。」
と言い、イートは、走りだした。マインドは、その後ろをため息をつきながら、走って行きました。
「ニャオー。」
と大きな声がして、イートとマインドは、立ち止まって後ろを見ました。
すると、一匹のねこが、つばをのみこんでいました。
「イート、なんだぁ。このへんな生き物。」
と言って、マインドは、ネコの足を、かるくたたいて見ました。実は、マインドは、天上うらから出たことが、ほとんどなく、ネコがネズミにとっておそろしい相手だということを知らなかったのでした。
「ニャーオ。」
と、ねこは、左足で、マインドをとばしてしまいました。
イートは、あわてて、
「マインド、にげるぞ。」
マインドは、ますますあわてて、
「なんでだ。」
と言いかけました。
「こいつは、ねこと言って、ねずみをパクパクと、食べるんだ。しかも、このねこは、この辺ののらねこで、一番強いんだ。」
と早口で言いました。
「なに。それを早く言ってくれよ。」
そう返事をしたと同時に、ねこは、マインドに、とびかかってきました。
「ニャオーン。」
マインドは、ぎりぎりのところでよけました。しかし、ねこのしっぽで、
「ボーン。」
と、とばされてしまいました。
だがすぐさま、体勢を整えて、まっしぐらに走りだしました。イートも、それにおくれをとらずにけんめいに走りました。10メートルぐらい走って、2匹は、後ろをふり返りました。なんとかにげきったようだ2匹は、暑い日ざしをうけながら、よろよろと歩きだしました。そして、ふるえた声で、ハァハァと、言いながら、
「イート、ねこみたいなてきは、この先いるのか。」
「森の近くの道路では、とんびやたか。それに草むらの中では、へび。森のおくまで行かないから心配はいらないよ。」
「よかった。」
とほっとした顔で、言いました。
「なにが。」
とイートがたずねました。
「知らない動物がでてきたら、さっきみたいになるからさ。」
とマインドが、ぼそりと言いました.
「そうか。あわてててもしかたがない。これからは、気をつけていこう。」
とイートは、言いました。
そして、マインドとイートは、ふたたび森へ向かつて歩き初めました。

3.きこりねずみとの出会い「森の危機」

太陽がらようど真上にきたころ、やっと森の物直き小屋に、着きました。雲のわれ目から明るい日ざしがもれ始め、屋根は、茶色く光ってみえました。小屋のまわり一面は、ノバラアザミが赤むらさきに、ツリガネニンジンがうすむらさきに咲き、カエデやツタの葉が生き生きと赤や黄色になろうとしています。
マインドとイートは、一息ついてから、小屋のすきまから入りこみました。マインド達は目を見張りました。小屋の中には、栗やりんご、ぎんなん、まつたけ、どんぐり、やまぶどう、かき、くるみ、ざくろなどいっぱいの食べ物が山積みにされ、大勢のねずみ達も住んでいました。
「そこの君達、何をしているんだね。ここに来て、いっしょに食べなさい。」
と一番先頭にいたねずみに言われ、マインド達は、そのねずみの横にすわりました。
「わたしは、きこりねずみのマウンテンだ。君たちはだれ。」
と、きっぱりした声でたずねました。
「ぼくは、町ねずみのマインドさ。そしてぼくの横にいるのが、友達のイート。」
と、答えました。
「それは、それは。町ねずみとはめずらしい。」
と、マウンテンは言いました。そして、
「ここにすわっているねずみ達は、すべてきこりねずみで、右から順に、フォーレスト、リバー、ヒル、トゥリー、リーフ、レイクだ。」
とそう言ってマウンテンは、立ち上がってあいさつをすると、みんなも立ち上がり、マインド達にあいさつをしました。
「よろしく。」
「ぼく達のほうこそよろしく。ところでみなさん、きこりねずみは、ふだんどんな仕事をするのですか。」
と、マインドはたずねました。
「まあ。木の枝を、たまに切ったりするぐらいで、あとは木の上で、ゆっくりしているんだ。」
と、マウンテンは答えました。
「じゃあ、楽しく気ままなのですね。」
「いや。木の調子を聞いてたまには枝をいっぱい切らなくてはならないこともある。それに今問題が一つ…。いや、なんでもないか。」
マウンテンは、手をふりながら言いました。
「えっ。今、木の調子を聞くと言いましたね。」
「ああ。そうだ。私達は、木と話せるんだ。」
とマウンテンは、そっと言いました。
「本当なんですか。それはすごい。あとで、聞いてみたいです。いいですか。」
「いいよ。」
「それに、ぼくもしゃべれますか。」
「ああしゃべれるさ。」
「やったぁ。あっ、それともう一つの問題とは何ですか。」
とたずねると、マウンテンはだまってしまいました。
そして、そのほかのきこりねずみ達もだまってしまいました。
しばらくすると、リバーが
「みんな、仲問になろうとしているマインド達に、話すのが礼儀かもな。」
と、落ちついた声で言いました。
そしてマウンテンが、しずんだ声で言いました。
「わかった。私が、話を教える。この山には、世界一と言っていいほどの大きな木がある。だが、人問は知らない。森の奥深くにあるからだ。そして、その巨木は、赤い実を付ける。その巨木は、ライフと呼ばれている。ちょうど今ごろ実って、私達は、その巨木と話をしながら必要な分だけ赤い実を食べていた。それは、とてもおい.しいんだ。しかし、今、見てわかるように山づみにされている山の幸の中に、その実はない。それは、うばわれたのだ。きつね達に。」
そう言ってマウンテンは、だまってしまいました。
「つづきはおれが言う。」
とレイクが、かん高い声で言いました。
「ライフのそばに、ぼく達のかくれ家があるんだ。森一番のな。しかし、ある日きつね達が、おそって来た。なぜなのかぼくたちもわからなかった。とにかくがむしゃらににげた。にげないと、大変なことになろからだ。それから、きつね達は、ライフに住みついてしまったんだ。だから、赤い実を取りたいだけとって食べる。しかしそんなことをすると、来年になる実が、青色になってしまうんだ。もしそんなことになってしまうと、森のみんなが、こまる。青い実には、毒がふくまれているんだ。しかも、その毒は木をからしてしまうんだ。もし、その実が土に落ちて、土にとけこんで、ほかの木が根からすってしまうと、みるみるうちに、かれてしまう。そんなことが起きると、森で、それぞれの命が生きるという営みができなくなり、たちまち山はあれてだれもいなくなり、森の命が、くずれてゆく。しかもあのきつね達は、この山のきつねじゃないんだ。この山のきつねは、毛の色もみんなふつうで、赤い実をいっぱい取ると、山がだめになってしまうことを知っている。しかし、あのきつねたちは、毛が赤色で、この山のきつねじゃない。来年にはこの山も終わってしまう。それでマインドやイートの町ねずみにも、山の幸のおいしさを知っていてほしい。これが最後かもしれないと。」
と、レイクは、いい終ると、ザクロにかみついた。
「そういうことだ。」
とマウンテンは、しぶい声で言いました。
「みんななんで、きつねを追いださないんだ。きつねは、いたちなどにくらべたら弱い方じゃないか。」
とイートが、力強く言いました。
「それは、無理だ。いくらいたちより弱くても、一対一ではかなわない。それに、きこりねずみ全員でも、追っぱらえないよ。きつね達は、20匹はいるんだぞ。だから、この森はもう終わりだ。」
マウンテンは、しずんだ声でそう言いました。その言葉を聞いてマウンドが、
「あのー、この森のことを全然知らないで言うのもなんですけど、ほろびると思っていたら、本当にそうなりますよ。それに、まだ青い実がなったわけでもなく、戦かってもいないのに、そんな思いこみはいけないと思います。」
「森のことは、ひとまずおいといて、木とお話してみてはいかがですか。」
と、イートは、言いました。

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