第六回島清ジュニア文芸賞「奨励賞」散文(中学生の部)「奇妙な再会」

ページ番号1002733  更新日 2022年2月15日

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美川中学校二年 玉井 菜月

ポツリポツリと降り出した雨が、やがて幾千もの雨粒となった。その中で、大野正志という名の中年の男は山道に車を走らせていた。時刻は、夜の十時を告げようとしている。豪雨のため、ワイパーを最大に速くしても、次々と窓に打ちつける雨で視界はさえぎられた。
「失敗したな・・・」
と、彼は舌打ちをした。キャンプの下調べにわざわざ遠いところから来たというのに、帰り道、こんな雨に見舞われるとは・・・。
雨が降り出してから三・四十分ほど経った頃だろうか。人気のない山道なのに、彼は人影を見た。うす黄色いカッパに淡いピンクの長靴を履いた、小さな女の子だ。
「こんな時間に何をしているのだろう・・・。しかもこんな雨の中、危ないじゃないか。」
彼は顔をしかめた。そして、女の子のいる場所を少し過ぎた所で、車を止めた。傘を取り出し、車から降りて女の子に駆け寄った。そして、
「こんな時間に危ないじゃないか。お家はどこだい。送ってあげるから。」
と話しかけた。すると女の子は驚いた顔をして彼の顔をじっと見つめた。
「どうしたんだい?おじさんの顔に何か付いているかい?」
女の子の様子を見て、彼はそう言った。女の子は二・三歩後ずさった。それからしばらく間を置いて、女の子がやっと口を開いた。
「おじさん、私のこと知ってる?」
不思議な質問を受け、彼は躊躇した。でも少し経つと質問の意味がなんとなく分かってきた。女の子は私を不審者だと考えているのではないか、と
「おじさんは君を知らないけど、怪しい者じゃないよ。」
彼がこう答えると、女の子は少し安心した様子になった。
「お家ではお母さんやお父さんが心配して君の帰りを待っていることだろう。何であんな所にいたんだい?」
女の子を車に乗せてしばらくすると、彼がそう質問した。
「迷子になっちゃったの。それにね、私にはお父さんはいないよ。」
答えを聞いて彼は気まずく感じた。
「一年くらい前にね、山に行って土砂崩れで死んじゃったんだ。」
女の子はまだ続ける。
「そうなのか・・・。ところで君はいくつだい?」
彼が話題を変えようとした。
「5才。もうちょっとで6才。」
女の子は嬉しそうに答えた。少し明るい空気になってきたので、彼もつけ加えた。
「おじさんにも丁度君と同じ年の娘がいるんだよ。」
しかし女の子は彼の期待とは逆に、黙りこくってしまった。何故なのかはわからない・・・。
そうこうしているうちに、彼の車は女の子の家に着いた。田舎風の大きい家だ。
「ほら、着いたよ。」
彼は女の子にそう言った。女の子は知らせを受け、車から降り、ドアをバタンと閉めた。女の子は家を見つめ、ホッと一息ついた。そして
「ありがとう、おじさん。」
と言うと同時に振り返った。しかし、車はない。
最初から勘付いていたのだ。最初に話しかけられたときから疑っていたのだ。あの人が何の指示もなくこの家に辿り着けたことも、べつに驚きやしない。ただ、4才のときの記憶がなかなか信用できなくて、気付くのが遅かっただけのことだ。

あの人はお父さんだったんだ。

女の子は家へ向かって歩き出した。家の玄関には今も「大野正志」の表札が残っている。

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