第六回島清ジュニア文芸賞「奨励賞」散文(高校生)「ダブル」その2
小松明峰高等学校三年 足立 沙樹
「ちょお面貸せや。」
「・・・・・・。」
──けど、そう上手くはいかんかった。
昼休み、当番でプリントを職員室に持って行くんを渋ってぐだぐだしとるタッちゃんと喋っとる最中、昨日の三人組がやって来た。俺が立つより先にタッちゃんが立って、三人を睨んだ。
「お前らシンちゃんに何の用やねん。」
「関係ないやろ、俺らコイツに用あるんや。」
「あぁ?!関係ないことないわ!俺はシンちゃんの親ゆ──」
「おい由本龍也!お前早ぅプリント持ってこんか!ついでに説教したる、ちょお来い!!」
「いや、センセ俺それどころやないねんやて!」
「いいから来んかい!」
担任がなかなかプリントを持ってかんタッちゃんに痺れを切らして呼びに来た。タッちゃんは抵抗も空しく、担任に耳を引っ張られて教室から去っていった。タッちゃんの喚き声が廊下響いた。
そして体育館裏(何てベタや)。
後ろは壁、俺を三人が囲む。
「昨日は見逃してやったけど今日はそうはいかんで」
「他人の事に首突っ込んだんが悪いんや。」
「せやせや」
一人一人言って、さらに詰め掛かって来る。
「・・・他人に何や言われる様な事せんときゃええねん。」
「何やと!?」
正面に立っとった奴が拳を上げた。ヤバ、嫌やな、痛いの。
反射的に目ぇ瞑った瞬間──
パシャ
フラッシュと写真を撮る音がした。あと、ものごっつ聞き慣れた声も。
「俺の相棒に手ぇ出さんとってくれへん?ってか、殴った後、後悔すんのそっちやでぇ?」
そこには担任に引っ張られてったはずのタッちゃんがそこにおった。一人がタッちゃんの正面に立った。タッちゃんは怯える様子もなく、むしろケラケラと笑って向かい合った。
「どういう意味やねん」
「今お前がシンちゃん殴ろうとしたの撮ったさけ、先生にバラしたろっかなぁ〜。」
「なっ?!」
「しかも、タッちゃんのオトンはヤクザやさかい、息子を殴った奴は指詰めんなんのとちゃうかぁ??嫌やったら手ぇ引いて卒業まで大人しゅうしとれや。」
「く・・・っくそう!お、お前ら戻るぞ!!」
「「お、おう・・」」
三人は慌てて走り去っていきよった。誰も「覚えとれ」とは言わなんだ。タッちゃんは小さくなってく三人組に満足そうに手を振った。
「・・・誰のオトンがヤッさんやて?」
「さぁな〜いつシンちゃん家のサラリーマンのオトンがヤッさんになってんろなぁ?」
ケラケラと笑う。
「何で助けに来てくれたん?担任にも呼ばれとったやん。」
「あ〜あん時は『便所行きとぉなった』言うて逃げたんや。そんでイビリは体育館裏やろ思てきたら、ドンピシャリや。相棒のピンチには駆け付けな。『ダブル由本』の名が廃るわ!」
「・・・おおきに。タッちゃんが親友でホンマ良かったわ。」
「それに、最後の日くらいエエことせな。」
「え、何て?」
「いや、ええねん。それより昼休み終わってまう、戻るで。」
タッちゃんが小さい声で何か言うた気がしたけど、聞こえなんだ。しつこく聞いたら頭をはたかれた。
あまり痛く感じんかった。
「そんじゃ、また明日。」
夕日が茜色よりほんの少し明るく、オレンジ色に染まった空の下、校門の前でタッちゃんに言うた。タッちゃんは何や少し寂しそうな顔をした。
「俺、シンちゃんこと好きやで。一緒おると楽しいねん。俺、シンちゃんの事一生忘れんで。せやからシンちゃんも忘れんとってな。明日もちゃんと憶えとってな。」
「・・・・・・何や、変なもんでも食ったんか?まだ夏休みまで3日あんねんで?」
「・・・・・・せやな。ほんな、またな。」
「また明日。」
タッちゃんが俺に背ぇ向ける時、泣きそうなっとったんは気のせいやったんやろか。
──あれが君の最後に見た顔やった。
何で言うてくれんだんや、親が縒り戻して・・・転校せなあかんくなったこと。
タッちゃんの転校の話を担任がした時、俺は頭ん中が真っ白んなった。その真っ白の世界に、昨日のタッちゃんの寂しそうな顔が浮かんだ。
机の中のインスタントカメラを取り出す。
いつの間に入れたんか知らん、今はおらんタッちゃんのいつも持っとったインスタントカメラ。
「こんなもんより、ちゃんとした言葉が欲しかったなぁ・・・。」
帰りにインスタントカメラを現像に出した。
出来上がりは三日後──夏休み1日目。
タッちゃんがおらんくなった夏休みの3日間は気怠く過ぎてった。
冴えん顔の奴に礼言われたり、あの三人組から「頼むさかいオヤッさんには言わんでくれ」言うて頭下げられたりもした。
俺ん中にはぽっかり穴開いてしもて、何も感じんかった。俺はタッちゃんに会いたいと思うばっかやった。
夏休みに入って、現像してもろた写真を取りに行った。
家で一枚一枚見た。俺が寝こけとった時の写真に、あのピンチん時の写真・・・何枚も撮ってどれがいつのか分からん、タッちゃんが腕伸ばして撮ったツーショット。
「あ・・・これ。」
最後のは、タッちゃんと最後に過ごした日の放課後に撮った写真。これだけはタッちゃんがクラスの奴に頼んで撮ってもらったやつ。
『俺らのラブラブっぷりを最大限に表現できるように撮ってな!!』
そん時のタッちゃんの言葉を思い出して、何や涙が出た。
タッちゃんに初めて会うた時のこと思い出した。
『『ダブル由本』やで!運命感じんか!?』
せやな、今思えば、運命やったんかもな。
俺も君のこと好きやで。一緒おると楽しかったわ。君のこと忘れん。忘れたくても忘れられんわ。
君は俺のこと覚えとるんやろな?忘れとったりしたら泣くで、俺。こっちは2年も君のこと考えてんやさかい。
こんなグチ、届きもせん手紙に書いてどうすんねん。直接会うて、今までのグチ全部ぶちまけたいわ。
何で黙ってどっか行ってもうたんや。相棒置いて、どこ行ってもうたん?
なぁ。
会いたいで。
そこまで書いて、俺は手紙を半分に折り、封筒に入れ、封をして立ち上がった。
ポストまでの道を、俺は空の入道雲を眺めながら歩いた。あぁ、タッちゃんに初めて会うた時の雲もこんなやったなぁ、と思い出しながら。
ポストに手紙を入れた。コトン、とポストの底に手紙の角が当たる音がした。届かんの分かっとって、俺は目を瞑って願い事をした「どうかタッちゃんに届きますように」と。
パシャ
突然フラッシュと写真を撮る音がした。
あと、ものごっつ聞き慣れとった声も。
「もうかってまっかぁ?」
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