第六回島清ジュニア文芸賞「散文賞」(中学生の部)「夏と空と自転車と」その5

ページ番号1002731  更新日 2022年2月15日

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美川中学校一年 居村理美

何度考えても分かんないものは分かんない。何で愛華が私の前に現れたのか。なんで私だったのか。分かんない。分カンナイ。ベットの下に置いてある時計を持ち上げて目をこらして見ると2時をまわってる。眠れない。眠いなんてウソッパチ。ちょっとだけ現実を見たくなかったから。少し、目を背けた。現実があまりにもキレイで残忍だったから。
「ミキ。起きてんでしょ。」愛華が話しかけてきた。なぜか、私といっしょに布団の中にいる。
「あっ。てめっ。なにココにいんの。」
「いいじゃん。女同士なんだし。」
「そういうコトじゃなくて。せまいんだよ。てか、お前ユーレイのくせになんですけねぇの。足ねぇのに。」
「足ないのはカンケーないじゃん。なぜか私のコト見える人にはすけないの。」
「ふぅん。」
はぁ・・・。心の中で小さくため息。
「ねェ。ミキ私のコトしか考えてないみたいだけどもっと他に気にするコトあんじゃない?」
「え?てかその言い方やだ。」
気にするコト?うーん・・・。ん・・・?あずみ・・・?そうだ!!あずみだ。ケンカ・・・。したのか?
「アンタ、ホントにぶいんだね。あの子、ミキが自分の前から消えるのが怖いんだよ。強がりで、さびしがり屋で、自分をうまく伝えられない。あなた達付き合い長いんでしょ。そのぐらい気付いてやんなきゃ。ミキって心がキレイだからこそ、他人の意志をくみとるのが苦手なんだよ。あの子不安になってるよ。」
「そっか・・・。ダメだね。私。」そこでやっと自分の情けなさが身にしみた。
「明日あやまる。」
「ハァ?ミキ、バカじゃないの?あやまってどうすんの。あの子自分が独りぼっちになんのがイヤなんだよ。しかもなぜかイキナリ自分達の前に現れた、私がミキとすごく親密そう。不安になんのはあたり前。ちゃんと不安を取り除いてあげなくちゃ。」
「・・・・・・分かった。じゃおやすみ。」
私は目を閉じた。眠れるかな。眠れるよ。
朝だ。朝日が窓から射す。少し気温が高くて、カラッと晴れた7月の朝。
今日は終業式。でも行きたくない。
行かない。「行ってなんかやんない。」
「ミキ。あずみにあやまるんじゃなかったの?」
愛華が起きだした。ベットの上。
「あやまるだけじゃダメ、なんでしょう?」
私の言葉に愛華は少し笑って「そうだね。」とうなずいた。
あやまらない。でもその代わりにあずみの気持ちを分かってあげる。たくさん。

多分、あずみも今日は学校に行かないと思った。妙なところで通じ合う仲だから、ね。
だから今日はあずみの家をたずねる事にした。あずみの家は両親が共働きでいつも家にいない。だからこそなんだろうね。あずみが独りぼっちになるのをとても怖がっているのが。しかってくれるほうがまだマシ。何をしても反応を示してくれる人さえいなかった、あずみの日常。
「じゃ。あずみの家に行ってくる。」愛華にそう言って家を出た。
「いってらっしゃい。」

あずみの家は街から少し外れたところに建っている。一昨年前に建てた新築。でも、ここでまともに生活してんのはあずみ一人だけ。たった一人で家族の誰かが帰るのを、待ってる。人生って不平等なんだね。日常がとてもつらい人もいれば、すべての恵まれた環境にいてもまだ何かを求める人もいる。でもあずみの日常と他人の日常を比べて批判する権利なんて私にはないし、だから今私は今自分に出来る事をする。まずあずみの家に行って、インターホンを押す。それくらいしか出来ないかもしれない。でもいいんだ、別に。
今、あずみの家の前。大きな扉の前に私は立ってる。インターホンを押す。
しばらく間をおいて、扉が開いた。あずみが立ってる。
「やっぱ、終業式行かなかったんだね。」
「ミキ、私なんかより愛華といればいいじゃん。」
「愛華はカンケーないよ。入らしてもらうから。」
「お好きにどーぞ。」
あずみの家はとても広い。でも少し違和感を感じた。人の家ってなんか住んでる人がいるんだって感じがたいがいする。でもあずみの家は誰も存在していないような空気が流れている。不思議。
リビングのソファに座る。しばらくするとあずみが私のトナリに座った。
「なんで私のとこに来たの?」
「友達の家に来るのにそんな深い理由が必要なの?」
「・・・・・。」
私達は黙りこんでしまった。話しかけにくい。そのまま時間が過ぎる。何か言わなきゃ。じゃないと愛華がせっかく見送ってくれたんだから。でも、あずみは今、何を考えてる?私の事?自分の事?それとも愛華の事?どの事を考えてるの?分かんない。そういえば、あずみが泣いたのを見たことがない。思いっきり転んだ時も、クラスのバカな男子にイジメられた時も、一度も泣いたコトがなかった。あぁ。そうだ。そうなんだ。やっと分かった。あずみの気持ち。やっと、やっと分かった。
「あずみ、逃げてもいいんだよ?」
「え・・?」あずみがふり向いた。
「あずみはもう十分に現実を見てる。だから、逃げてもいいんだよ。だって今まで見てきた現実はあずみの力ではどうしようもできないんでしょう?私やっと分かった。あずみの気持ち。ホントは怖くて仕方ないんだよね?あずみがなかないのは心配させたくないからなんだよね?いいんだよ。泣いたって、おびえたって。どうせなら、一晩中私にグチったっていいんだよ。どんなに小さな事でも真剣に聞いてあげる。だから、逃げてもいいんだよ?私の前で泣いたって。だって私達・・・・・友達でしょ?」
私はそういって、あずみを見つめた。するとだんだんあずみの目から涙があふれてきた。声も出さずに泣くあずみを見て、私は少しだけ胸をしめつけられた。でも、あずみは悲しくて泣いているんじゃないことはちゃんと、ちゃんと理解できた。

「うまくいった?」愛華が私のベットの上に腰かけて聞いてくる。
「あずみの気持ちは理解できたから、十分だよ。」そう答える。
「それは良かった。」ニッコリ笑う。でも目が笑ってない。
「愛華ぁ・・・・。」
「んー何ぃー?」
「私に何かかくしてるでしょ。」
「ハ?何言って──・・・。」
「誤魔化そうとしてもだめだよ。愛華分かりやすいもん。」
「・・・・・・・・ハァ。言わなきゃだめ?」
「だめ。」
「分かったよ。言う。ただし、あずみも呼んで来て。そうだね、私達が出会った場所に行こうかー・・・。」

今、私達はあの白い花の木の下。愛華は真剣な顔つきでこちらを見ている。
「・・・私、そろそろ行かなきゃいけない。」
「え?」あずみと私。そろって聞き返す。
「どこに?」
「天国?いや地獄かな・・・。」
「・・・何で?」
「そんな気がする。多分絶対に行かなきゃいけない。ほら多分もう行かなきゃ。今すぐ。」そう言って愛華は天を見上げた。
「なんで地獄なの?」
「生前たくさん悪いコトしたから・・・ね。」力なく愛華が笑った。
「あ、ホラ、もう行かないと。呼んでる。」
「え・・・ちょっとまってよ。どうして?ずっといっしょにいちゃいけないの!?なんで!?別にいいじゃん!行かないでよ!!ううん、行かせない!!」道行く人がこちらを見てる。そんなコトどうでもいい。私達は愛華の腕にしがみついた。ぜったい離さない!!「・・・・・私だってどこにも行きたくない。でも仕方がないの!!さからうことなんて私にはできないんだよ!!」愛華がうっすら涙を浮かべている。行かないで。行かないで!!でも愛華の体がすけてきた。私達は理解した。私達にはどうしようも出来ない。でも・・・。でも!!!愛華の腕を離したくない。もう愛華の体はほとんど消えていた。ちょっと置いてかないで!!
「バイバイ。ミキ、あずみ。」愛華は消えた。
「え・・・。ちょっと待って!!ヤダ!!行かないでよ!!。」
私達はただぼう然としてひざまづいた。そんな。そんな。そんな!!私は思いっきり息をすいこんだ。
「愛華ぁ──!!あんたキレイな気持ちで死んだんでしょー!!だったらねェ、地獄なんかには行かないわよ!!キレイな気持ちで死んだ人はねェ、みんな天使になるんだから!!」
私はそのまま泣き崩れた。
ざぁっと一陣の風が吹いた。

後から知ったコトだけどなんで愛華が白い花の木にいたかというとあそこで自殺したからなんだって。でもそれの他にも理由があった。愛華が初めて生まれた時にもらった物の中にあの木の苗があった。愛華はその木をずっと大事にしてたらしい。だから愛華があの木の下で死んだことにはちゃんと意味があったんだよ────・・・・。

「ミキー!!早く行くぞぉー!!」
「んー!!今行くー!!」私はバタバタと階段をかけ下りた。玄関の扉を開ける。
「はい。おまたせ。」
「よし。行こうミキ。」そういって自転車をこぎだしたあずみ。前のカゴには大きな花束が乗っている。
行き先はあの白い花の木の下。

「おっしゃ。とーちゃーく。」自転車から降りる。
「ホラ。愛華、花束持ってきたよ。」あずみが花束を木の下に置いた。私は少し独り言を言う。小さな声で・・・・。ひっそりと・・・。
「愛華・・・。それからどうなってる?私達は元気だよ。「日常」は全く変わってないけど、今から変えていく。たいくつなんて考えるヒマもないぐらいの「日常」に。愛華に会えて良かったなぁ。変わろうとすることが出来るようになれたし。少しだけ強くなれたし。もしも私が年老いたらまた会おう。そん時はそっちの世界案内してね。だから少しまってて。私達は愛華には悪いけどまだこっちの世界を楽しんでくよ。永遠の別れ、じゃないでしょ?」
「ミキー!!行くよー!!早くー!!」
「オーゥ!!」
2つの自転車はまた動き出した。

空から一枚の白い羽がふってきた。
ふわり、ふわりと。

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