第九回島清ジュニア文芸賞「奨励賞」散文(中学生の部)「空の下で」

ページ番号1002709  更新日 2022年2月15日

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美川中学校 二年 上尾 彩夏

「日常」

あー。暑い。今、何度だ??暑すぎてとけちゃいそうだ。
2008年7月18日、快晴。気温は現在33.5度。そして、俺がいる場所は、授業がタンタンと進む教室…。俺の学校には、クーラーが付いておらず(当たり前だけど)窓が全開になっているだけというとてつもなく暑苦しい所だった。そして、今日は、明日から夏休みだってのに終業式の他に2時間も授業があるという最悪な日なのだ。
あと5分…。そう思いながら時計をニラんでいるのは俺だけじゃないだろう。今、4限目の真っ最中…。つまり、俺の腹は限界をむかえていた。
『カチャッ……キーンコーンカーンコーン』
チャイムが鳴る。今、何人のやつが心から喜んだだろうか?室長が元気な声で
「起立、礼」っと号令をかける。
『終わりまーす!!』とみんな元気な声で挨拶をする。それは、次は給食だからだろう。
やがて廊下が騒がしくなってくる。
「ハァー暑ッ!!お腹すいたー!!」
と言って隣の席の彩葉(いろは)がドタッっと音をたてていすに座り込む。彩葉は、けっこう気が利いてクラスでも人気者だ。
「龍(りゅう)ぅー。腹減った。早く手ぇ洗いに行こうよ!!」と俺の首に抱き付いてきたのは功雅(こうが)だ。功雅は俺の一番の親友であり、みんなからは弟のようにかわいがられている。
「功、待て…わかったから離せ。く…苦しい…。」
「おぉ!ごめん、ごめん。」
「二人ともいいコンビだねぇ。」
と言いながら変な目で俺たちを見てきたのは頼られ役の陸(りく)だ。陸は俺たち3人の家庭教師であり、クラスでもとても信頼されている頼もしいやつだ。
そして、俺たち4人の関係っていうのは物心ついたときからいつも一緒、いわゆる幼なじみといったやつである。
功雅と手を洗いに行く。窓から心地いい風がやってくると同時に額にうっすら浮かぶ汗が少しずつひいていくのがわかる。教室の方の窓からは給食のいいにおいがしている。今日のメニューを思い出そうとしていたその時、彩葉がやってきて満面の笑みでこう言った。
「龍ぅー!今日はあたしが大好きなメロンパンだよー!!だから、半分ちょうだい!!」
「どうゆう理屈だよ。」とか内心つっこみながら俺は、
「ダーメ!!」っと舌を出して笑ってやった。
——こういうのが俺の日常なんだ。

「来年と今年」

ついに夏休み。相変わらず暑い日が続いている。外ではセミが命を無駄にしないよう一生懸命、鳴いている。
俺たちはいつものように4人で功雅の家に集まって遊んでいた。
「やったー!勝った!私の勝ち!」
「お前、強ッ!ありえねぇ。」
「ハッハッハ!!」
ゲームに負けた俺は功雅に八つ当たりしてやろうと功雅の横へ座ってみた。すると、
「なぁ?来年って受験だよな。」
そう聞いてきたのである。
「そうだねー。嫌だなぁ…。高校行ったらみんなとあんまり会えなくなっちゃうよ。」
彩葉はそう答え、ため息をついた。そう考えればそうだ。俺たちは来年受験生。それが終われば俺たちは高校生なのだ。
「・・・。」
しばし沈黙の時間が流れる。すると陸が、
「じゃあさ!!今年の夏休みは、4人で思い出作りに行かない!?」
『おぉー!!ナイスアイディア!!』
「じゃあ、決定ね!!」
行き場所は【小さいときに4人で連れて行ってもらったあの場所】となり、目的は【自分の大切な何かを見つけること】に決まった。でも、俺たちは中学二年…部活の中心であり、なかなか休みがない。唯一4人が同じ日に休み!という日はお盆休みだけだった。やっぱりみんな忙しいのだ。
お盆休みまであと4日である。

「GO!」

時は過ぎ、俺の部屋では『ジリリリリリリ!!』っと6時52分にセットした目覚まし時計が大きな音をたてて鳴り響いていた。
「あっつー。」
俺の部屋は蒸し風呂状態だった。窓を開けて顔を出す。すると、いい感じに風が吹いてきて少しずつ目が覚めてくる。天気は晴れ。俺はまだ少し開いていない目をこすりながらリビングへ行く。母さんが作ってくれた朝ご飯を食べながら天気予報をチェックする。
「あら、龍、おはよう。」
「おはよ。」
「お弁当作っといたわよ。」
「あっ、サンキュー!」
こんな何気ない会話が俺は好きだ。たぶん母さんもそうだろう。母さんは話をしている時、いつも笑ってるから。
8時25分、天気予報は快晴だ!俺は自転車に飛び乗って待ち合わせ場所であるいつもの公園へと急いだ。
「りゅうー!!」
3人が手を振っている。
「お!ごめんごめんお待たせ!!じゃあ行くか!」
「よしっ!」
『レッツゴー!!』
こうして俺たちの旅は始まった。そう、大切な何かを見つける旅が。

「到着」

『ある日〜森の中〜クマさんに〜♪』
4人のテンションは初めから常に高く、5分ほど前から【森のクマさん】がエンドレスで流れている。もう、こぎ続けて20分ほど。
「ねぇ?まだ着かねぇの?」
功雅はすでに飽きてきたようだ。そんな功雅を気遣いながら、彩葉は
「もうちょっとだよ。…あっ!ほら、見えてきた!!あそこだよ。みんなで言ってたあの場所って!」
っと満面の笑みで答えた。
駐輪場に自転車を止めて俺たちは走って公園へ向かう。
「ひっろーい!!」
「スゲー。」
「きれぇ。」
「うわぁ。」
青空の下には広い芝生、右横にはひまわり畑と風車。そして、1本の大きな木。言葉を失うぐらいきれいだ。
『よっしゃー!!遊ぶぞー!!』
そう言って俺たちは駆けだした。思い出を作るために。何かを求めて。

「お昼ごはん」

午後0時3分。汗だくの俺は、
「あっちぃ。もう、ダメだ。」
と言って陸がいるレジャーシートに倒れ込んだ。
陸は一足先にギブアップしたらしい。
「汗だくじゃん。はい、お茶。」
「サンキュ。俺、あいつらにはかなわねー。」
そう言いながら俺はお茶をがぶ飲みする。
「そろそろお昼にしよっか!」
そう言ってた数分後、彩葉と功雅が俺と同じようにレジャーシートに倒れ込んだ。
「お昼ご飯、食べようぜ!」
『ラジャー!!』
このいい返事は彩葉と功雅だ。俺たちは大きな木の下でそれぞれのお昼ご飯を食べた。木の下は風が通りすぎてとても心地いい。いろんな話をしながらお昼を食べた。
しばらくして、功雅と陸はまた遊び出す。
彩葉と俺はしばらくシートの上で寝ころんでいた。

「陸side」

今、私は功雅とキャッチボールの真っ最中。功雅は野球部で投げるのが上手い。私は陸上部だから体力には自信がある。でも、功雅のボールはとっても力強くって取れないことの方が多い。だから功雅は私とキャッチボールをするとき、軽く投げてくれる。優しい人なのだ。
「ねぇ?功って進路とか決めてるの?」
「んー?シンロ?」
「そう。私はね今まで進路ってどうでも良かったんだけど、こないだ功が言った言葉思い出して、みんなやっぱり進路決めてるのかなぁって…。なんか置いてかれてる気がしちゃって。」
「俺は、野球好きだし、野球強いとこ行きたいなぁって。そんだけ。」
「だよね。学校とか親とかなんか中学生って疲れるなぁ。」
「あっ!それ、思う思う!勉強、勉強って耳にタコできるし!」
そう言いながら功雅は思いっきりボールを投げた。でも、きちんと力は抜いてくれてる。
「功、ホントに野球好きだね。」
「おうよ!俺、将来、息子とキャッチボールすんのが夢!」
功雅はニッ!と笑って嬉しそうに答えた。私も負けずに笑い返した。それからなんだかホッとした。急がなくてもゆっくりじっくり考えろ!って言われた気がして。

「龍&彩葉」

「あー。気持ちー!ねぇ、龍、空見てみ!?めっちゃきれいだよ。」
彩葉に言われるがままに空を見ると、大きな入道雲が空いっぱいに広がっていた。
「おぉ!スゲーな。」
「だよね。あたしさぁ、空見るの好きなんだよね。空見てるとね、嫌なことも忘れれるでしょ。」
「俺もだよ。どんなに暑い日だって空見たくなったら見に行く。そんで、いつも思うんだ、この空の下で俺は何人の人と繋がってんだろう?って。」
「この空は世界中の人に繋がっているよ。」
「えっ?」
「だから、この空はどこまでもどこまでもたくさんの人と繋がってるんだよ。」
彩葉の言葉は何かに気づかせてくれたり、背中をポンッっと押してくれる。
「彩葉は夢ってある?」
「夢?」
「そう、夢。俺はさぁ、写真撮るの好きだから、その…なんていうか…写真家ってやつ?写真家じゃなくてもいいんだ。趣味で写真を撮ってるぐらいでもいい。夢っていうかなんていうか…。」
「あたしはね。詩を書いてそれに絵をつけて本を作りたいんだぁ。」
人は、夢を語るとき、とても輝いている。
夢って人によって違う。だけど、ひとつ、【自分が好きなこと】っていうことが共通してる。そして、その夢のためなら頑張ることが出来る。
「俺、何かを見つけたよ。」
そう、俺は見つけたんだ。心の中のもやもやが消えて自分を信じろ!やりたいことなら精一杯やれってこと。
「あたしもそう思ってたところ。今日、ホントに幸せだよ。…じゃあ、遊ぼっか!ちょうど2人も呼んでるし。」
「うん。」
そううなずいてかけだした。今日という日を精一杯、楽しかったと思えるように。

「大切なモノ」 最終章

時間はあっという間に過ぎていって、もう空は茜色に染まりかけていた。
「もうそろそろ帰らなくちゃなぁ。」
「そうだね。なんだか、寂しいなぁ。」
「でも、楽しかった!」
「…なぁ?写真撮らね?!俺、カメラ持ってきたんだよ。」
俺がそう言うと3人はうなずいてこう言ってくれた。
『さんせーい!!』
こうして俺たちはこの場所のちょうど真ん中で写真を撮ることにした。準備をしているとき、俺はあの言葉を思い出していた。
「嫌だなぁ…。高校行ったらみんなとあんまり会えなくなっちゃうよ。」俺は思わず呟いた。
「なぁ。俺たちってずっと一緒だよな?高校行っても、大人になっても…。」
「何言ってんの?今更、当たり前じゃん。」
「そうだぜ。龍!」
「そうだよ!!」
「だよな!安心したわ!ってことで準備完了!!いくぞー!」
『ピピッ』10・9・8…タイマーがカウントダウンを始める。
今、俺、すっごく幸せ。これも今日があって、この3人が居て、この時間あるからだよな。
7・6・5…
またこようぜ!もちろん4人で!!
3・2・1…
これからもよろしくな!
『カシャッ』
この空は、どこまでもどこまでも繋がってる。いずれ俺たちはバラバラになってしまうだろう。でも、もし寂しくなったら空を見上げてみればいい。だって俺たちは、どこにいてもどんなときでもこの空の下にいるんだから。

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