暁烏敏賞 昭和63年第2部門本文「青少年健全育成活動の在り方」1

ページ番号1002659  更新日 2022年2月15日

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写真:暁烏敏像

第4回暁烏敏賞入選論文

第2部門:【青少年の健全育成に関する論文または実践記録・提言】

  • 論文題名 青少年健全育成活動の在り方
  • 氏名 山崎健治
  • 年齢 38歳
  • 住所 長野県東筑摩郡
  • 職業 児童福祉専門員

第1章 人間性形成の素地

1 乳児期の母子関係

胎児と母は生命共同体としての}体感の関係にある。
母の安定・不安定がそのまま胎児のものとなり、生理学的、心理学的な影響を与えている。生後は授乳によって一体感が継続され、母子関係の絆が形成されていくのであるが、適切な授乳ができなかったり、離乳に無理が生じると、新生児は生命の危機に晒されたときに類似する不安状態となる。
人間性形成の最も深い部分である「生きることへの安心感」については、現代は忙しさのなかの育児という面から、乳児を不安状態に追い込む環境が多くなっている。
イスラエルのキブツ社会でも、6ヵ月までは両親の手元で育て、その後も集団保育では満たされない面を、親子関係を密にすることによって充足している。殊に親子同寝を大切にし、親子の絆で結ばれながら社会の一員としての成長を図ろうとしている。
人間性形成の基礎となる「生きることへの安定感を与える母子関係」を重視することを第一の条件とする。

2 幼児期の人格形成

自己中心的思考は、幼児期のもっとも顕著な特性である。
縫いぐるみの人形にも、草花にも、自分と同じ心が存在すると思い込む汎心性、架空のものでもすべてが実在すると信じる実在性、世界は全て人工的に造ることのできるものと思考する人工性の心理は、幼児に独特の世界観を形成している。
このアニミズム的思考の世界観にある幼児期の体験は、信仰のごとく心に染み込み、パーソナリティの基礎的な面を形成するものであるから、この時期に愛情に満ちた親のイメージが刻まれると、それを基盤にして大人感が広がり、総ての人を愛情と信頼の姿勢で受容しやすくなり、親のイメージが冷たいと受容し難い姿勢が形成されやすい。
さらに、アニミズム的世界観の時期に、楽しい体験と情緒豊かな生活を送ることができると、これからの世界にも思いが広がり希望と意欲が生れ易くなる。反対にこの時期が辛い生活であったりすると、未来に夢が持てなく消極的となりやすい。
このように、幼児のアニミズム的世界観の時代に、人生や人をどのように感じやすいかの心のフィルムが出来、児童期以後の人生に長く影響を与え続けるものである。
このことは、同じような環境や体験をしても同じように感じとるものではなく、明るく感じとりやすい人と、悲観的に感じとりやすい人との違い、人間関係を受容的・拒否的になりやすいという違いになって現れるもの.である。
「人間の性格は4才までにつくられる」と言われる所以もここにあるのであるから、健全で豊かな幼児期体験を保障することが第二の条件と考える。

3 幼児期の社会適応学習

児童が社会生活に適応していくための学習は健全育成上大切なことである。
従来はこのことを「家庭のしつけ」と言われていたが、本稿では適応学習と呼ぶこととする。
幼児の本体は本来自己中心的で衝動的である。その幼児が社会生活に適応するためには、自我の発達を促すことにより社会のなかに自己の存在を洞察し、自我の解放と抑制のできる健全な自己統制力が育成されなければならない。
最近は親の忙しさと物質的過保護により、社会適応の学習ができていない子どもが増えている。学習されない子どもは、対人関係や社会生活のなかに溶け込んでいく術を知らないために多くの不適応を生じる。
学習された子どもが不適応場面に突き当たったときは、気付きにより再適応ができるが、学習をしていない子どもの場合は混乱するばかりで、無軌道な行動をとればとるほど悪循環を繰り返してしまうので、心は傷つき、孤独となり、結果的には社会に背を向け、非社会的、反社会的な行動の世界に落ち込んでしまいやすい。
幼児期の社会適応学習は、健全な社会性の発達上もっとも重要な事柄であるから、これを第三の条件とする。

4 愛情の伝達

現代っ子の一般的な傾向として、愛情の価値に対する希薄性が見られる。特に親子の愛情の絆の弱さが目立っている。
価値ある人から愛情の確証を得ていることは、精神的安定が得られるための大切な要件であり、人間性形成上の核ともなる重要な問題である。
愛情の確証は孤独からの救いであり、自己の存在価値を高めることとなる。また、愛情の充足感は心に喜びと安定感を生み、思いやりや協調の姿勢をつくりだすものである。
いかなる物質文明社会になろうとも、人間が孤独を嫌うかぎり愛情の価値に変わることはない。
この価値ある愛情も相手に伝わらない限り意味がない。後段で詳述するが、現代社会の人間関係は、愛情伝達上の混迷期におかれていると考えられる。
愛情が伝わるときとは、危機的な場面に当面したとき、親が必死な愛情を示してくれたときにキャッチできるものである。
日本が貧困のどん底におかれていた時代は生活そのものが危機的場面にあったために、親が子どもに衣食を与えることで愛情を伝えることができていたが、物質文明社会のなかでは、特別な病気や事故がないかぎり危機的場面に当面することがなくなり、愛情の伝達が困難になっている。
しかるに、貧困時代に生きてきた人達のなかには、自分の人生体験から、物を与えることにより愛情を伝えることができると思い込んでいるが、子どもの側から見ると、有り余る物質社,会のなかでは、物を貰うことだけで親の愛情をキャッチすることはできないために、愛情の欲求不満に陥りやすい。
青少年の健全な育成を図るために、人間性形成の基本的部分に当たる愛情の充足と安定のあり方を、現代社会にマッチしたなかから見出すことが第四の条件となる。

5 基本的欲求の充足

パーソナリティの形成に基本的欲求の充足は欠かせないものである。
基本的欲求には生理的欲求・社会的欲求、自己探究の欲求とがある。生理的欲求は広義の概念で捉えると、衣食住への安定を求める欲求であり、現代社会ではここからの欲求不満の発生はあまり考えられない。
次の社会的欲求には、下位欲求として愛情の欲求、承認の欲求、優越の欲求がある。
愛情の欲求には愛される喜びと愛する喜びとの価値観がある。
「愛情の伝達」の項でも説明したとおり、深い愛情の喜びを得られない子どもは愛する価値の発見もできにくいので、現代っ子の人間関係不適応は愛情の欲求不満に起因するところが大きいといえる。
承認の欲求は自己の存在価値を高める欲求であり、自分の存在を見詰められていることによる安定を欲する心理である。
当然のことであるが、もっとも価値ある人からみつめられるほど欲求は満足するものである。家庭学習を例にとると、親に見詰められ時々励ましなどの声を掛けられる雰囲気があると勉強への意欲が出やすいものである。しかるに現代は、勉強部屋さえ与えれば家庭学習ができるかのように考えられているため承認欲求が満足されず、意欲の出にくい孤独の部屋となっていることが多い。
ヨーロッパの子どものように、幼児期から自分の部屋をもち、精神的自立と訓練が積み上げられていないと、個室は孤独かエスケープの部屋となってしまう。
子どもは自分の総てを知っていてくれる人が居るとき安定するものである。そして嬉しい時に心から喜び、悲しいときに一緒に泣いてくれる人が居るとき、初めて自分の総てを知ってもらえたという喜びと、自己の存在価値を感じるものである。そのときに共感が生れ愛が伝わるときなのである。
現代の子どもとの育成関係が、情報化社会という外から得た知識だけに振り回され、子どもとの触れ合いから生れる共感もないままに、動物を飼育するような方法に偏りすぎると、子どもの欲する承認欲求は充足されず欲求不満状態となる。このような傾向は現代社会の顕著な特長であるとも云える。
優越の欲求は生きることの自信につながるものである。この欲求が充足していると行動に積極性と建設的な姿勢が形成されやすい。子どもには多様な個性が潜在しているものであるが、その個性がそれぞれの姿で成長するためには、それを受け止め伸長させることのできる環境がなければならない。
しかし、現代社会は学歴偏重の思想が深く地域に浸透しているために、人間的価値観が極端に狭められ、優越の欲求の満足の機会が少なくなっている。
学力偏重の思想は、家庭教育から学校教育、職場に至まで人間評価が偏見に溢れ、結果として学力以外の人間的価値が否定され、個性的な育成が大きく阻害されている。
多くの子どもは有能な個性を潜在させていながら、それを発見する機会にも恵まれず、いたずらに劣等感にさいなまれている。そのために優越の欲求不満は根強く浸透し、社会不適応児増加の原因となっている。
以上、社会的欲求は全般的に不満状態におかれ、子どもの社会的人格の形成ができにくい状況にある。
社会的欲求は人間的欲求とも呼ばれるもので、曲豆かな人間性を育てるためには欠くことのできないものであり、この欲求不満を生み出す社会では健全な人間性が育成できないことともなるので、人間的な欲求の充足できる社会創りが第五の条件とする。

6 親への同一視による学習

未知な幼児が、初めての生活学習をするときのモデルとするものが家族である。とくに愛情と関心のある両親を学習対象に選びやすい。
幼児はもっとも好きな人と同じになりたいという気持をもつものであり、これを同一視の心理といわれている。
親の言動を実に見事に模倣するものであり、特にその人らしさには強い関心を持ちやすいのである。幼児期はまだ判断力が弱いので親の言動を選択することができないし、またモデルとしての大人を選択することもできない。もっとも身近にいる親こそ最大の学習環境となるのである。
また子どもの大きな部分が模倣の時間なので「子どもは親の後ろ姿をみて育つ」と云われているように、親からの大きな影響を受けるのである。
その学習は、人間性の全ての面に亙っているので、将来、子どもが親となり家庭をつくるときにまで影響し、親のような親になるものである。
このときに大切なものは、親の生きる姿勢である。
子どもは、一般的には母親に情緒的な愛情、父親にたくましく頼りがいのある力の愛情を求めているので、このことに応えられる親であってほしいのである。
母からの情緒的な愛情に包まれて情緒が育ち、安定と思いやりなどの心が育ち、父親からはたくましく、頼りがいのある力の愛情に包まれて、勇気や積極性、行動する自信など前向きの姿勢が育っていくものであるから、この欲求を満たす方向で応えられるようになることが第六の条件となる。

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