暁烏敏賞 平成7年第1部門本文「「理性」の<深み>へ 合理・王義と教養教育」3
第11回暁烏敏賞入選論文
第1部門:【哲学・思想に関する論文】
おわりに 理性と教養
科学主義、あるいは「科学的」なる「得体の知れない言葉」(小林秀雄)こそ、理性を、我々の生きた思考過程に対してつねに外在的な、明示化された規則体系に還元するという操作を可能ならしめた。筆者はオウム真理教事件のような現象をもたらした根源はそこにあると考える。我々の生きた思考に対して外在的であるから、それはつねに皮相なものにとどまり、我々の精神全体に秩序を与えるものとはなり得ないのだ。ヨーロッパにおいて、科学主義は、キリスト教文明と古典古代の思想に鍛えられ支えられた生きた教養による、よい意味での抵抗にあってきた。それは、科学もまた宗教や歴史と折り合い、結びついていかなければならないということである。しかし、わが国、特に戦後のわが国では、そういう、歴史の中で鍛えられた宗教的文化的基般皿は喪失されてしまった。こうして、科学主義が無制限に解放されると同時に、カルト的な宗教への抵抗線も同時に失われてしまったのである。かくて、科学主義とカルトとは奇怪な結合を遂げた。それが、かの集団ではなかったか。
したがって、今問題なのは科学教育の強化だけではなく、また宗教教育の復活だけでもない。科学も宗教も含め、多様な人間の精神的営みに内側から参入させ、それらを個人の教養の中で統合する、そういう教育なのである。生きた教養が、教師と学生との絶え間ない人間的接触を通じて、学生が教師をモデルとし、その模倣に身を投げ出すことによって、はじめて得られるのだとしたら、取り分けて高等教育に必要なことは、例えば我が教育伝統の中にあった、「師弟同行」の「私塾」の魂を復権することではなかろうか。
注
- (1)クィンティリアーヌス(小林博英訳)『弁論家の教育』、明治図書、昭和56年、179頁。
- (2)田中美知太郎『哲学談義とその逸脱』、筑摩書房、昭和63年、163頁。
- (3)M・ハイデッガー(桑木務訳)『存在と時間』中巻、岩波書店、昭和46年、29−30頁。
- (4)H・G・ガーダマー(轡田収他訳)、『真理と方法』、法政大学出版局、平成3年、29頁。
- (5)T・パーソンズ(稲上毅・厚東洋輔訳)『社会的行為の構造-総論』、木鐸社、昭和51年、97頁。
- (6)T・パーソンズ、前掲書、97頁。
- (7)J.Dewey,Logic,The Theory of Inquiry,H.Holt,1938,p.14.
- (8)B・ラッセル(平野智治訳)『数理哲学序説』、岩波書店、昭和29年、254頁。
- (9)D.Hume,Treatise of Human Nature,Oxford Univ.Press,1978
- (10)M.Black,Critical Thinking,Prentice Hall,1952,p。4.
- (11)向山洋一 『教師修行十年』 明治図書、昭和61年、75頁。
- (12)向山洋一 『教師の腕を上げる法則』 明治図書、昭和60年、10頁。
- (13)向山洋一 『教師腕を上げる法則』、10−11頁。
- (14)R.Barrow,The Philosophy of Schooling,Wheatsheaf,1981,p.48.
- (15)R.Barrow,ibid.,p.45.
- (16)G.E.Grant,Teaching Critical Thinking,Praeger,1988,p.35.
- (17)H.Siegel,Educating Reason,Routledge,1988,p.8.
- (18)K.Strike,Education and the just Society,Univ.of Illionis Press,1982,p.12
- (19)K.Strike,ibid.,p.12.
- (20)M.Scriven,Reasoning,Macgrow Hill,1976,p.10.
- (21)M.Scriven,ibid.,p.30.
- (22)E・フッサール(立松弘孝訳)『現象学の理念』、みすず書房、昭和47年、46頁
- (23)E・フッサール(細谷恒夫・木田元訳)『ヨーロッパ諸学の危機と超越論理的現象』、中央公論社、昭和49年、26頁
- (24)M.Polanyi,Personal Kuoulege,Univ. of Chicago,p.295
- (25)M.Polanyi,ibid.,p.53
- (26)M.Polanyi,ibid.,p.88
- (27)M.Oakshott,Rationalism in Politics,Methuen,p.90.
- (28)M.Oakshott,ibid.,p.11.
- (29)F.A.Hayek,Law Lagislation and Liberty,Univ,of Chicago Press,1973,p.5.
- (30).SPeters,Reason and Passions,in R.F.Dearden,P.H.Hirst,R.S.Peters,Education and the Development of Reason,Routtledge,1972,p.225.
- (31)K.R.Popper,Logik der Forschung,J.C.B.Mohr,1976,p.57
- (32)R.SPeters,ibid.,p.225.
- (33).SPeters,Mental health as an Educational Aim,in T.H.B.Hollins,Aims in Education,Allyn and Bacon,1966,p.257.
- (34)日本教育学会教育政策特別委員会『道徳教育に関する問題点』(昭和33年)、『日本教育論争録』第4巻、第一法則、昭和55年、386頁。
- (35)前掲書、386頁。
- (36)宇佐美寛 『思考指導の論理』、明治図書、昭和48年、191頁。
- (37)宇佐美寛、前掲書、191頁。
- (38)宇佐美寛、前掲書、191頁。
- (39)宇佐美寛、前掲書、191頁。
- (40)宇佐美寛、前掲書、191頁。
- (41)B.Gothuysen,Rationalism,in Encyclopedia of trhe Social Sciences,Macmillan,1963,p.113.
- (42)T・パーソンズ、前掲書、102頁。
- (43)堀尾輝久『子どもの発達と学習の権利』、東京大学公開講座『子ども』、東京大学出版会、昭和54年、299頁。
- (44)L・ヴィットゲンシュタイン(藤本隆志訳)『哲学探究』、大修館書店、昭和51年、32頁。
- (45)L・ヴィットゲンシュタイン、前掲書、32頁。
- (46)R.Trigg,Resaon and Commitment,Cambrigge Univ.Press,1973,p.139.
- (47)L・ヴィットゲンシュタイン、(黒田亘訳)『確実性の探求』、大修館書店、昭和58年、49頁。
- (48)K.R.Popper,Logik der Forschung,J.C.B.Mohr,1976,p.68
- (49)K.R.Popper,ibid.,p.69
- (50)K.R.Popper,ibid.,p.71
- (51)K.R.Popper,ibid.,p.70
- (52)K.R.Popper,ibid.,p.23
- (53)K.R.Popper,ibid.,p.22
- (54)K.R.Popper,ibid.,p.16
- (55)K.R.Popper,ibid.,p.12
- (56)福田恒存『伝統に対する心構え』(全集、第5巻)、文芸春秋、昭和62年、185頁。
- (57)L・ヴィットゲンシュタイン、(黒田亘訳)『確実性の探求』、154頁。
- (58)R.Trigg,ibid.,p.44.
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