暁烏敏賞 平成16年第2部門本文「『つながり』という支援 教育相談機関における電話相談の実践を振り返って」1

ページ番号1002568  更新日 2022年2月15日

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第20回暁烏敏賞入選論文

第2部門:【青少年の健全育成に関する論文または実践記録・提言】

  • 論文題名 「つながり」という支援 教育相談機関における電話相談の実践を振り返って
  • 氏名 上農 肇
  • 住所 石川県金沢市在住
  • 職業 小学校教諭

1 はじめに

少年犯罪の事件がマスコミによってセンセーショナルにとりあげられるためか、最近では必要以上に不安を煽られ日々の子育てに戸惑う親が多い。そして「もしかしたらうちの子も」と、向ける眼差しに迷いを持ちながら子どもと接するため、親子関係がぎくしゃくし、子どもから親への「家庭内暴力」や親から子どもへの「虐待」など、心ならずも暴力という招かれざる客が居着いてしまっている家庭も少なからず見受けられる。

一方、学校では「いじめ」や「学級崩壊」などの問題が山積しており、子どもたちは人間関係に緊張しながら学校生活を送っている現実がある。そして、その中で息切れしてしまう子どももかなりの数に上り、外向きの問題行動として「非行」に走ってしまったり、逆に内向きになり、「不登校」や「ひきこもり」などの状態を示す子どももいっこうに減る気配が見られない。

そのため、家庭・学校の別を問わず、こと「子どもの教育」という切り口から見れば、悩みや問題を抱えながら、不安な毎日を過ごしている子どもや親は決して少なくはない。

そこで本稿では、このような家庭や学校での様々な悩みや問題を抱える子どもや親たちを支援するための教育相談機関における電話相談の取り組みを振り返りながら、子どもの教育を巡る問題の実相を眺め、併せてその解法を探りたいと思う。

2 電話相談について

(1) 活動の概要

紹介する電話相談は中核市教育委員会の出先である教育相談機関での実践である。この機関では、電話相談の他にも以前から小中学生とその親・学校関係者らを対象とした面接相談や、不登校児のための適応指導教室と家庭への訪問相談が続けられてきたが、行政の機構改革に伴い、当該市内の子どもの教育に関わるどのような相談にも応じようと平成13年度からは少年補導部門が加わり、更に15年度以降は福祉分野の乳幼児相談部門とも合流し業務を続けている。

電話相談は昭和48年の機関の開設から現在まで一貫して続けられているが、開設当初は「一般相談電話」として業務用の電話番号を窓口に相談が始まった。その後、平成6年12月には当時社会問題化してきたいじめ防止の目的で「いじめ相談テレホン」が新たに開設され、2種類の電話相談体制が確立した。そして、先に述べた事情により13年度以降はそれまでの少年補導部門で取り扱ってきた電話相談を、15年度以降は乳幼児の子育てにかかわる相談をも併せて受信するようになっている。

次節では先ず、統計を公表済みの平成8〜13年度の6年間の受信結果の一部を示しながら、この活動を通して見えてくる、子どもの教育にかかわる悩みや問題の全般的な傾向を明らかにしたいと思う。尚、この間の受信時間帯は月曜から金曜の9時から17時であり、平成8年度からは月曜と木曜に限って夜間電話相談と称して20時まで延長した。相談の担当者は、専任の非常勤職員1名と所長の他、筆者を含む常勤の指導主事数名に限られていた。また、電話相談以外の活動では対象を当該市内の子どもに限定しているが、電話相談では、その特性から地域を制限せずに相談を受けていることを付記しておく。

(2) 相談の実態
(a) 全般的な傾向

6年間(電話相談実施日合計1492日)の電話相談総数は3、132件で年平均522件あり、そのうち「一般相談電話」は2,509件(80.1%)で年平均418件、「いじめ相談テレホン」は623件(19.9%)で年平均104件だった。相談日1日あたり2.1件受信し、5本に1本の割合で「いじめ相談テレホン」を受信したことになる。

主訴別の件数一覧を表1に示すが、全く相談がなかったのは「身体・精神」領域の21「視覚障害」だけであり、電話相談として様々な子どもの教育にかかわる悩みや問題が持ち込まれていることが分かる。

表1 主訴別件数一覧
領域 No 主訴 件数
知能・学習 1 知的障害 42
2 学習障害 60
3 学業不振 22
4 その他 40
性格・行動 5 不登校 576
6 怠学 24
7 集団不適応(いじめられる) 383
8 集団不適応(いじめる) 14
9 緘黙 5
10 情緒不安定 37
11 無気力 16
12 自殺念慮・未遂 5
13 家庭内暴力 18
14 校内暴力 16
15 盗み・金銭持ち出し 41
16 家出 12
17 不良行為・喫煙・薬物 27
18 性的問題・男女交際 48
19 その他 215
身体・精神 20 肢体不自由 4
21 視覚障害 0
22 聴覚障害 4
23 発育不全・病弱 1
24 精神疾患(疑) 12
25 脳器質障害・てんかん 3
26 自閉性障害 14
27 言語障害・吃音 23
28 夜尿 3
29 チック 12
30 神経症(疑) 39
31 その他 43
進路・適正 32 適正就学 8
33 進路(進学・就職) 150
34 転校 82
35 その他 116
教育一般 36 家庭生活(しつけ) 381
37 学校・教師との関係 330
38 その他 306

尚、表中の4「知能・学習のその他」とは主に学習意欲にかかわる相談であり、19「性格・行動のその他」とは友人関係でのトラブルや自分の性格や行動の評価にかかわるものを、31「身体・精神のその他」とは主に習癖の異常に関するものをそれぞれ相談内容に含んでいる。また、35「進路・適正のその他」とは進路や就学に関する情報提供がその主な内容であり、38「教育一般のその他」とは学習での疑問を解決したいと、図書館に情報を問い合わせるようなもの(レファレンス)やその相談先を尋ねる電話での相談を指している。
主訴の主なものを全体及び電話別にまとめたものが表2である。全体では1割以上を占める上位に「不登校」「集団不適応(いじめられる)」「学校・教師との関係」と学校教育にかかわる問題が多くを占めているが、「家庭教育(しつけ)」も3番目に多かった。電話の種類別に見ると「一般電話相談」では「不登校」が547件(21.8%)と最も多く、次いで「家庭教育(しつけ)」「学校・教師との関係」がそれぞれ相談件数全体の1割を超えていた。一方、「いじめ相談テレホン」では、「集団不適応(いじめられる)」が281件(45.1%)と圧倒的に多く、概ね設置目的に沿って相談があることが分かった。

表2 全体・電話別の主訴の上位項目

全体
順位 主訴 件数 比率
1 不登校 576 18.4
2 集団不適応(いじめられる) 383 12.2
3 家庭教育(しつけ) 381 12.2
4 学校・教師との関係 330 10.5
5 教育一般のその他 306 9.8
6 性格・行動のその他 215 6.9
7 進路(進学・就職) 150 4.8
8 進路・適正のその他 116 3.7
9 転校 82 2.6
10 学習障害 60 1.9
  上記以外 533 17
合計   3132 100
一般電話相談
順位 主訴 件数 比率
1 不登校 547 21.8
2

家庭教育(しつけ)

338 13.5
3 学校・教師との関係 270 10.8
4

教育一般のその他

240 9.6
5 進路(進学・就職) 145 5.8
6

性格・行動のその他

137 5.5
7 進路・適正のその他 115 4.6
8 集団不適応(いじめられる) 102 4.1
9 転校 79 3.1
10 学習障害 59 2.4
  上記以外 477 19
合計  

2509

100
いじめ相談テレホン
順位 主訴 件数 比率
1 集団不適応(いじめられる) 281 45.1
2 性格・行動のその他 78 12.5
3 教育一般のその他 66 10.6
4 学校・教師との関係 60 9.6
5

家庭教育(しつけ)

43 6.9
6 不登校 29 4.7
7 神経症(疑) 14 2.2
8 情緒不安定 7 1.1
9 集団不適応(いじめる) 6 1
10 身体・精神のその他 6 1
  上記以外 33 5.3
合計   623 100

この2種類の電話相談について通話者の違いを比率で調べてみると(図1)、「一般電話相談」では親が80%を超え、一方「いじめ相談テレホン」では親が51.4%、本人が41.9%とほぼ半々だった。また、2種類の電話を合わせて親の性別をみると(図2)、母親が91.6%と圧倒的に多い。

グラフ:一般相談電話
図1 通話者の違い
一般相談電話
グラフ:いじめ相談テレホン
図1 通話者の違い
いじめ相談テレホン
グラフ:親の性別
図2 親の性別

次に、子どもの成長とともに悩みがどのように変わっていくのかをみるために、幼児・小学生・中学生・高校生の成長段階別に主訴をまとめたものが図3である。

図3 成長段階別の主訴の上位項目


グラフ:幼児に関する相談(196件)


グラフ:小学生に関する相談(1130件)


グラフ:中学生に関する相談(997件)


グラフ:高校生に関する相談(409件)


幼児の相談は全体で196件と件数自体が他の段階に比べて少ないが、これは電話相談を実施していた教育相談機関が市教育委員会の所轄で小中学生を相談対象にしていたことによると考えられる。相談件数は「進路・適正のその他」が62件で多数を占めるが、保育所や幼稚園の入所(園)に関する問い合わせが多く、他機関へのリファー(紹介)がほとんどだった。市役所のこども福祉課、私立幼稚園協会などの該当する機関を紹介することが多かった。

小学生の相談は「集団不適応(いじめられる)」「学校・教師との関係」「家庭教育(しつけ)」「不登校」が1割以上あり、主訴の上位を占めていた。義務教育が始まり、家庭の外に新たな人間関係を拡げていく過程で、母子共々様々な問題に直面し、それが電話相談の形であらわれてくるのだろう。

中学生では、「不登校」が300件と他の主訴に比べて際立って多い。ただし中学生本人からの「不登校」相談は6件と少なく、専ら母親からの相談となる。小学校と中学校とでは学校教育の仕組みが大きく異なることは広く知られているとおりだが、小学校の時期を無事に経てきた子どもにとっても、中学校進学で生じる様々な変化は想像以上にストレスの多い成長の節目なのかも知れない。

高校生に関するものは409件で幼児同様に比較的少ない。これも電話相談の活動を行っていた教育相談機関が小中学生を主な対象にしていることによると考えられる。高校生についても「不登校」が110件と他の主訴に比べて多いが、第2位に「進路(進学・就職)」50件、第4位に「転校」26件となっているのが高校生段階の相談の特徴であり、次にどのような進路があるかを相談するものが多かった。

これらの結果からは、子どもが成長するに連れ、具体的な悩みは幾分違ってはくるものの、学校教育には確かに「不登校」「いじめ」などの様々な問題があり、そのような問題の解決を協同で図るべきはずの「学校・教師との関係」に困惑し、自らの「家庭教育(しつけ)」に自信を持てないでいる母親と「いじめ」の問題に悩んでいる子どもがいることが分かった。無論、多くの家庭ではそこに父親がいるはずなのだが、実際の電話を通して伝わってくるのは、悩みや問題に振り回される子どもと母親のことばかりであり、父親が前景にあらわれることは極めて少なかった。子育てのモデルを持ち得ず、にもかかわらず子育ての責任を一身に負わされている母親の心理的な負担は大きいものと思われる。

それでは、次に事例を取り上げ、子どもの教育にかかわる様々な悩みや問題とその支援としての電話相談の実際を示したい。相談全体のうちの主訴の上位4項目「不登校」「集団不適応(いじめられる)」「家庭教育(しつけ)」「学校、教師との関係」のそれぞれの事例の他に、主訴の上位4項目が含まれていない「知能・学習」「身体・精神」「進路・適正」の領域から、この3領域での電話相談の主な役割であった「情報提供と紹介(リファー)」に該当する「学習障害」の事例を、そして最後にチームプレイで対応した「家出」の事例の合計6例を示す。

ただし、電話相談の枠組みとして重要な守秘義務(秘密保持)に配慮し、記載にあたっては本質をゆがめない程度に加筆、フィクション化して紹介する。事例中のCaは通話者(caller)、Woは受け手(worker)である。

(b) 電話相談の事例

事例1 一般相談電話 主訴No.5「不登校」 小5(男) 母親

Wo:「はい,相談電話です」
Ca:「もしもし」
Wo:「はい,何かご相談でしょうか」
Ca:「もしもし,…実は子どもが学校へ行かないんです。朝になると『頭が痛い』『おなかが痛い』『気持ち悪い』って泣いて行かないんです」
Wo:「それはお困りですね。少し詳しく事情をお聞かせいただけますか」
Ca:「…実はこの3月までF市に住んでいたんですが…」

離婚をきっかけに他県から実家を頼って転入してきたとのことで,本人は新しい学校に馴染めなかったのか4月当初数日登校したが,その後朝になると登校を渋りだしたという。そこで,叱ったり宥めたりし強引に行かせようともしたが,実際に熱があったり吐いたりするので学校を休ませると,その後はケロッと治り,元気に用意した朝食も食べ出す。それが一月近くも続き,連休後にも動きだす様子が全くない。どうなっているのかさっぱり分からず心底困っているとのことだった。現在仕事を探しているものの,実家の援助もあり当面の生活に支障はなく,子どものことを何とかしたいと話された。
そこで,先ずはCaのこれまでの心労をねぎらい,電話相談を利用してくださったことにお礼を伝えた。そして「離婚が悪かったのか」「育て方が悪かったのか」と自罰的になりがちなCaの心情の理解に努め,Caの話を急かさずに積極的に傾聴することに留意しつつ,一方で,何か問題解決のための手がかりはないかと,Caの話に沿いながら,本人の性格的な特徴や担任の先生との連携の様子などを伺った。その経過の中で,「F市の小学校では私服だったのに,こちらでは標準服ということを知らず,登校初日子どもと一緒に驚いた」というエピソードと,その折の「何ともいえない不安な気持ち」をCa自らが思い出され,自分と似てどちらかというと内気な我が子にとっても,新たな環境に入っていくことは大きなストレスに違いないことに思い至り,子どもは学校へ「行かない」のではなく「行けない」のだと問題を意味づけし直された。
そして,転校初日には母親である自分も不安だったことを先ずは知らせ,離婚後一緒について来てくれた我が子に対して,登校だけを強要して毎日接していたことを謝りたい,その上でこれからの登校について話し合ってみたいと話された。こちらからは,自ら当面の目標を見いだされたことを支持した上で,市内の小学校で相談室登校や母親が同行しての登校の例があり,完全な登校の前段階としてこれら様々な柔軟な登校形態が可能であることをお知らせし,機関の性格上,Woが学校へ支援のための介入ができることも伝えた。しかし,Caは何とか自分で子どもと向き合ってやってみたいということだった。そこで,今回は匿名の相談電話として受け止めるが,必要なら再度電話をいただければ面接相談にも移行できることも併せてお知らせし,50分あまりで電話相談は終結した。

電話の後、この母親からの面接相談の依頼はなかった。この電話がきっかけで問題が解決したのかどうかは全くの不明である。不登校状態が続いているのかも知れないし、ひょっとするとまた転校したのかも知れない。結果の可能性はいくらでもあるが、電話相談には、通話者主導性(開始も終了も、切る権利もCaにある)、匿名性(Caのプライバシーを守る、と同時にWoにとっては覆面性が維持される)、そして一回性(原則としてあたかも一期一会といえる出会い)にその特徴がある。この相談では電話という一本の糸を通してWoはCaと先ずつながり、問題の解決を探る共同作業の中でCaが自ら見いだされた、我が子とつながりなおそうとするその意志を支持した。そして必要な場合には、家庭の外に支援を求められることもお知らせした。

問題の解決に向けて、内的資源(問題に対応していけるCa自身の力)、外的資源(教育、医療、福祉などの専門機関のスタッフ)との何らかのつながりを志向することで成り立った、そんな事例である。

事例2 いじめ相談テレホン 主訴No.7「集団不適応(いじめられる)」 小1(女) 本人

Wo:「はい、いじめ相談テレホンです」
Ca:「もしもし」
Wo:「はい、どうしました、何か相談ですか」
Ca:「これっていじめですか」
Wo:「えっ、どうしました」

「帰りにズックがなくなっていて、友だちがさがしてくれたら、げんかんのゴミばこのうしろにおいてありました。これっていじめですか」。女の子の口調はとても実直に聞こえ、話す様子からは真剣さが感じられた。こちらからは、先ず勇気を出して電話をかけてきたことをねぎらい、名前は名乗らなくてもよいこと、秘密は守られること、問題を一緒に考えたいことを知らせた。そして、ズックが見つかってよかったというWoの正直な思いを伝えた後で、これまでにも同じようなことがなかったかどうかを尋ねた。数日前にもよその学年の下足箱に入っていることがあったという。そして、その時も今回もとても嫌な気持ちがしたという。悪ふざけやいたずらであっても、あなたをそんな気持ちにさせることはいじめに違いないと思う、これからも同じことがあると繰り返し嫌な思いをしなければならない、離れた電話では直接解決する手伝いができないので、近くにいる大人に助けてもらう必要があると思うと伝え、お母さんか先生かのどちらかに話せるかどうかを聞いたところ、直ぐにどちらにも「話せる」という返事。「是非話してみて」と伝えると、「はい、わかりました」と言う。
Wo:「そんなことはもうなくなるといいですね。うまくいかなかったらまた必ずこの番号に電話してくださいね」
Ca:「わかりました。ありがとうございました。さようなら」
この電話でのやりとりは5分足らずであった。

電話の翌日、同じ頃に本人から再度の連絡があり、母親にも先生にも話したとのこと。そして、母親が学校の先生へ電話をしてくれたこと、先生が「帰りの会」でこのことを取り上げ、何人かの友だちから「こんどなくなったらいっしょにさがしてあげるね」といわれうれしかったことを話した後、「お母さんから『電話のおじさんにもお礼を言いなさい』といわれたと告げ、前日同様「ありがとうございました。さようなら」と丁寧に礼を述べて、電話は切れた。電話をきっかけに、Caが周囲の大人につながり、問題解決へのよりどころが先ず確保され、更に友だちとも新たなつながりを得られたようである。

電話相談は当然ながら、事例1で示した特徴の他に、即時性(いつでも予約なしに)・超地理性(どこからでも)・親密性(口から耳元への親密なコミュニケーション)がその特徴である。そこでは、通話者の声とことばに積極的に耳を傾けることよりほかに相手の理解を深める方法はなく、そのため面接での相談に負けず劣らず相手の存在や人柄を感じとりやすい。このたった5分足らずの電話でも「これっていじめですか」というはじめのひと言から伝わってくるものは極めて大きかった。困難に出会ったその時に、自分の思いを手持ちのことばで精一杯、真剣に表現しようとするそんな子どもに対して、大人として真摯に向き合い、つながることの大切さを教えてくれた、そんな事例である。

事例3 一般相談電話 主訴No.36「家庭教育(しつけ)」 中3(女) 母親

Wo:「はい、相談電話です」
Ca:「もしもし」

電話を通して伝わってくるのは、何日か前にもきき覚えのある声。月に何度かはかけてこられるお母さん。「どうかされましたか」と問いかけると「娘が携帯電話を欲しがるんですけど、どうしたらいいでしょうか」と今日の悩みを話された。具体的な問題が出てくるとその都度相談の電話をしてこられる方である。
Wo:「うーん、どうしたらいいでしょうかねえ。今はどうしようと思ってますか」
Ca:「わたしはまだ早いと思うんです。でも友だちがみんな持ってるって言うし、…」
「最近の中学生って携帯持ってるもんですかねえ」「出会い系サイトとかもあるし、携帯電話って子どもには危ないですよねえ」、今回もそれまでの相談と同様に判断の基準を、先ず世間の一般論に求めようとされた。こちらからは、「急に娘さんから言われて戸惑ったんですね」「確かに、非行のきっかけにでもなったら、心配ですよね」とCaの話す内容を手がかりに気持ちに焦点を当てようとしたり、うなずいたり相づちをうったりしながらCaの訴えに耳を傾けた。そして、Caの話が一段落した頃合いを見計らって「何のために使うつもりなんですかね」「料金はどうやって支払うって言ってますか」と、問題の明確化を図る意図で状況を尋ねると、「ああ、まだそこまでは話し合ってません」との返事。毎回、昂じた不安と動揺が少しずつ収まってくると、娘さんと向き合っていないことに気づかれるCaである。その後は、発言を支持していくと安定していくのもこのCaの特徴であり、心理的な背景には娘を立派に育てなければならないという焦りと、もう一方では過保護になりがちな自分を反省し、子離れをしなければならないという、どちらも「ねばならない」という二つの信念間での葛藤が見え隠れするCaである。
Ca:「ありがとうございました。娘ともう少し話し合ってみます」
Wo:「できれば、その前にお父さんとも話し合っておかれるとよいと思いますよ」
Ca:「分かりました。どうもありがとうございます。ごめんください」
ほぼ60分ほどで相談電話は終了となった。

頻繁に電話をかけてこられる方は、継続通話者、頻回通話者とかリピーターなどと呼ばれている。事例3のCaもそのひとりだったが、この後も何度も相談があり、その都度同様に対応し、いずれの場合も動揺が収まると、自ら具体的な行動目標を決めて電話相談は終結となった。電話を受けるWoは当面する問題についての解答を求めるCaに対して、その質問に安易に答えることは避け、どちらかというとその背後にある気持ちや感情に応えながら、そこに焦点を合わせようという試みを何度も続けた。問題の対象者は確かにこのCaの娘さんには違いないが、問題の提起者はCaその人であり、Caがどうしたいか、あるいはどうなりたいかが本当の支援の目標であり、Woの価値観や一方的な指示はそのためのCaの自己決定を遠ざけ、益々電話への依存を高めると考えたからである。それでも、ともすると、毎回の同じ相談パターンの繰り返しにWoの側も無力感を抱くことがないでもなかったが、そのような電話もこの活動のニーズと考え、毎回の相談に応じた。電話相談には大きく「危機介入(緊急援助)」「電話カウンセリング」「情報提供と紹介(リファー)」の三つの役割が考えられるが、事例3はこのうちの「電話カウンセリング」の一例だと思われる。WoはCaとのつながりを模索し、その関係性を通して解発されるCaの内にある問題解決能力を信じて相談にあたったのである。

本来なら、家庭というシステムの中では夫婦が向き合い、共に子育てについて考えることで、その家庭の価値観と子育ての方針を共有すれば、日頃直接の養育に携わることが多い母親も自信を持って、直接子どもに向き合うことができるはずである。しかし、この電話のように家庭での父親の代用となるような電話相談もかなりあった。「ひとりでは不安で決められない」母親のそんな呟きがきこえてきそうな事例である。

事例4 一般相談電話 主訴No.37「学校・教師との関係」 中1(女) 母親

Wo:「はい、相談電話です」
Ca:「学校の先生は子どものいじめを放っておいてもいいんですか」
第一声から強い怒りが伝わってくる電話を受けたのは、木曜日夜間の7時30分を過ぎた頃だった。家族団らんの時と思われるこの時間帯は通常は相談電話自体が少ない。「何かあったのでしたら、少し詳しく聞かせていただけますか」と伝えるとやや興奮した口調もおさまり、部活動の同学年の人間関係で娘さんが孤立し、練習試合の集合場所をひとりだけ教えてもらえなかったり、ユニフォームを隠されたりする明らかないじめがあるのに学校は何もしてくれない、これはいじめの黙認、いじめへの先生の荷担ではないかという訴えだった。こちらからは、事実ならば、娘さんが同級生から受けているのは明らかないじめであるし、学校に対応を求めるのも当然と思うと伝えた。しかし、詳しく話を伺うと、Caが電話をしたのは担任の先生(この年教職に採用されたばかりの初任の先生)にそれも一度のみとのこと、担任から学年主任や部活動の顧問の先生に情報が伝わっていないことも現実には充分あり得ることを伝え、先ず、娘さんの同意を得た上で、電話ではなく学校へ直接出向いてもう一度相談してみてはどうか、そしてできればCaだけでなく父親にも同行してもらい、学校側にも担任の先生だけではなく学年主任や部活動顧問、管理職の先生に同席してもらうように勧め、それでも改善しないようならば、事例1と同様に、電話を受けている機関の性格上、Woが直接この問題で学校に介入できることも伝えた。Caはこの提案に安心感を持った様子で「そうしてみます。ありがとうございました」と30分ほどでこの相談は終結した。

この数日後、今度は父親からの電話があり、両親そろって学校へと相談に出かけたものの、学校側の対応は担任のみで心許なかった上、その当日にまた仲間はずれにあったとの話があり、娘も望んでいるので、Woが学校へ介入してくれるのならば、氏名と学校名を話しても構わないということだった。そこで、匿名性という電話相談の一つの枠を超えCaとWoがお互いにそれぞれ名乗りあい、その後打ち合わせに沿って直ぐに学校長へ連絡を取った。学校長へは、先ずは関連職員で内々に状況を把握するとともに、「チクった」といじめを陰湿化させる愚を避けるためにも、表沙汰にして一方を説諭するだけのような単純な指導で終わるのではなく、当事者同士のかかわりの機会を捉えて関係を再構築できるような実効ある指導をしていただくようお願いした。初めていじめの事実を知った学校長は、早期の対応を約束し、その1週間後再度いただいた父親からの電話でも、「いじめ」の関係を表面化させずに問題が解決したとの連絡をいただくことができた。

電話相談には三つの役割があることは、事例3で述べたが、このケースは広い意味での「危機介入(緊急援助)」にあたるものと考えられる(狭義では自殺企図のCaに対する電話での援助を指す)。教育委員会の出先である教育相談機関では、児童生徒の生命の安全を脅かしかねない問題に対しては、Caの了解が得られれば、積極的に学校との連携をとる必要があろう。生徒とその親とを在籍する中学校の関係者につなぎなおす、これはそのような教育相談機関の特性を示す事例である。尚、この相談では内容に明らかな「いじめ」が含まれていたが、親の当初の主訴を考慮して、「学校・教師との関係」に分類したことを付記しておく。

事例5 一般相談電話 主訴No.2「学習障害」 小3(男) 母親

Wo:「はい、相談電話です」
Ca:「もしもし、Y市から来月そちらへ引っ越すんですけど、…」
話を伺うと、新しい住所も決まっているとのこと。教育委員会へ子どもの転校先の学校名を尋ねた折に、長男が「学習障害」の診断を受けており、Y市の子ども福祉センターへ相談に通っていることを告げると、Woの所属機関にも電話をして転校後の支援について相談してみてはどうかと勧められたという。勉強も難しくなっており、できれば「学習障害」に応じた教育的なサービスを受けたいとのことだった。そこで、Woからは電話を受けているこの教育相談機関にも、「学習障害」を含む軽度発達障害の子どもを対象に継続した相談のシステムがあることや市内の小学校における特別支援教育サービスの現状について説明した上で、サービスを受けるための就学指導委員会での判定の仕組みをお知らせし、併せて、教育以外の福祉領域や医療機関での発達支援の場についてもお伝えした。また、読み書きの難しさという「学習障害」の他にも、落ち着きがない、我慢するのが苦手、注意が散漫になりがちであるという、行動面にも特徴があることがCaとのやりとりの中から分かったので、こちらへ転居後にも、再度専門の医療機関を受診してみてはどうかと勧めた。その方が、転入後の支援を選択する上でも役に立つと考えられたからである。Caにとっても納得のいく勧めだったようで、紹介した小児精神科の専門医への受診を決められたので、電話番号をお知らせするとともに、直接受診の予約を取るよう促し、この電話は20分ほどで終結した。尚、紹介先の医師へはWoからも連絡を入れ、その後の対応をお願いした。

近年、学習障害・注意欠陥多動性障害・高機能広汎性発達障害などのいわゆる軽度発達障害の相談が増えている。この事例の場合には、転校をきっかけに電話相談が持ち込まれたわけだが、このような子どもたちへは今後特別支援教育の対象として、様々なニーズに応じた支援の必要性が指摘されている。また、障害の有無を問わず、転校というプレッシャーの大きい出来事では、本人のみならず親の方も多大なエネルギーを使うことになる。そんな時に、事例5のCaように事前に支援のつながりを見つけようとする方はきっと賢明な親なのだろう。そして、この電話ではそのニーズに的確に応えることが重要であり、役割としては「情報提供と紹介(リファー)」にあたる電話相談だったと思われる。また、学校での不適応に対する予防的役割を併せて担っているとも考えられよう。

電話相談を受けるWoは幅広く地域の物的・人的資源や各種制度、関係の法令等々を把握しており、Caのニーズに応じて、橋渡しをすることが必要である。この事例は、そんなことを再確認させられた事例である。

事例6 いじめ相談テレホン 主訴No.16「家出」 高1(女) 本人

Wo:「はい、いじめ相談テレホンです」
Ca:「も・し・も・し…」
Wo:「はい、いじめ相談テレホンですが」
Ca:「そこって、お金貸してくれるの」
Wo:「…、お金ですか…」
夏休みに入って数日が過ぎた月曜日、Woが夜間の電話相談体制に入った夕方5時少し過ぎにこの電話が飛び込んできた。「おじさん、そこって、お金は貸してもらえないの?」と繰り返す声は、十代には違いないものと思われた。そして、ひょっとしていたずらなのかとも思ったものの、「電話代は大丈夫かな。大丈夫なら、困っているお金のこと、少し話してみませんか」と伝えると、「携帯だからお金は大丈夫、でもできたら女の人に聞いてほしいな」と素直な声で話す。通常は電話の途中でWoが交代することは原則的にはしないが、非行に絡む相談の可能性もあり、性の話が話題になることも頭をよぎり、隣にいた女性のWoと交代してもらった。チームで対応したことになる。
この後30分近くの女性Woとの応答の中で、Ca自身はプチ家出と話したが、これで3度目の家出中であること、土日と友だちの家にいたものの、長くいると迷惑になるので出てきたが、今晩の行くあてがないこと、お金はあと千円少しあることなどを話したあと、「どうして家出してるの?」との問いに、Caはためらった後、母親の再婚相手の義父から性的な暴力を受けていることを話した。そして母親には自分が叱られそうで、そのことはとても話せない、少し離れた場所に祖父母が住んでいるが、信じてもらえるわけはなく、恥ずかしくて、打ち明けることはとてもできないと言う。そして、「今晩は街のコンビニと公園を往復して過ごすつもり」と話した。女性Woは何とかCaの安全を確保しようと、近くに頼れるところがないか、信頼して話せる人はないかと問いかけてみたり、警察や児童相談所など一時保護できる場所があることなどを話したりし、「わたしはあなたの話を信じるし、あなたは決して悪くない。今そんな辛い状況にいるあなたは幸せになるべきだし、もっと辛い目や危険な目に遭うことがないように祈っている、どうか自分を大事にしてほしい」と伝えた。脇にいてもその応対の様子からは真剣さがひしひしと伝わってきたが、それがCaにも通じたのか、「今晩は昨日の友だちのところへ帰る」と話して「おばさん、信じてくれて、あ・り・が・と」と電話は切れた。

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