暁烏敏賞 平成14年第2部門本文「心に翼が生えるまで 不登校生徒への実践的対応」1

ページ番号1002576  更新日 2022年2月15日

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第18回暁烏敏賞入選論文

第2部門:【青少年の健全育成に関する論文または実践記録・提言】

  • 論文題名 心に翼が生えるまで 不登校生徒への実践的対応
  • 氏名 加藤 宣彦
  • 住所 東京都
  • 職業 私立武蔵国際総合学園校長

はじめに

文部科学省がこのほど発表した、平成13年度『学校基本調査』の中間集計によれば、1年間に30日以上欠席した児童生徒の中で、心因性の、いわゆる、「不登校」の児童生徒数は、過去最多の、13万8千人に達したという。

中学生についてみると、その数は10年間で倍増し、36人について1人の割合になるというから、平均すれば、中学校の各クラスに1人の不登校生がいてもおかしくないということになる。

子どもたちは、なぜ学校に背を向けるのか、なぜそうなったのか、その原因や背景については、これまで、多くの学者や教育評論家から語りつくされている。

そして、カウンセリングや適応指導も、まずは、不登校の原因追求、いわば、過去の、「犯人さがし」から始まる事が多い。しかし、そうした解決の手法は、不登校になった子どもを前にした家族や学校の現実的対応には結びつきにくいだけでなく、表面的な理由を開いて、「なるほど、そうか、それが原因か」と、みずからの責任がないことに納得してしまうことのほうが怖い。

それよりも、もがき、苦しんでいる不登校になった子どもに、今、家族や学校が、それぞれの立場から具体的に何ができるのかを、いっしょになって考え、できることから実行に移していくことが大切だと痛感している。

私が、これまで向き合ってきた、1000人近い不登校の子どもたちの心の叫びを通して、不登校の経過と、その時期に応じた具体的な対応について、事例を交えながら提言しておきたい。

もちろん、私は、これが不登枚への対応の特効薬だとは考えていない。100人の不登校には、100通りの違った対応が求められることを実感しながら、なお、そこに共通する思いを記してみた。

できるだけ多くの方々に読んでいただき、さらに多くのご意見やご提言を得て、子どもたちの新しい明日に役立てばと願っている。

なお、子どもたちのプライバシーにかかわる事例については、あえて加筆してフィクション化してある場合のあることをお許しいただきたい。

不登校の経過とその対応

1、潜伏期 ふつうの子に起きる不登校
「とにかく、学校に来させてください」
「このまま休みが続くと進級にも差し支えますよ」
担任の先生からお電話をもらって、そのとき、わたしはいらだっていました。
「あしたは、ぜったい、学校に行くのよ。わかったわね」
こう宣言したわたしから目をそらすように、息子はだまって自分の部屋に閉じこもりました。そして、翌朝、きちんと支度をして、わたしのつくったお弁当を持って家を出ました。
「いってらっしゃい」
思いっきり明るく声をかけると、息子は一瞬立ち止まってわたしの方を振り返りましたが、何も言わず歩きだしました。
そして、そのまま、息子は学校には行かず、家にも帰って来ませんでした。
(中2男子の母)

A男の登校しぶりは、2年生の2学期が始まって間もなく始まった。

  • あれほど部活の野球部の朝練習に元気に参加していたのに、ぐずぐずしてぎりぎりの時間に出かけるようになった。
  • 体調が悪いと訴えて休む日がちょくちょくあった。
  • 夕食の時に、前はよくしゃべったのに黙々と食べて、すぐ、自分の部屋に行くようになった。

どんな不登校にもその前兆はある。「いや、あの子の場合はまったくなかった」と周囲は言うが、それは気づかなかっただけで、あとになってみると、「そういえば」と思いあたることが多い。A男の母親の訴えを聞いた学校が調査をしてみると、

  • ほとんど休まなかった野球部の練習を、理由をつけては休むようになった。 クラブ顧問
  • 授業中、質問をしても、ぼんやりとして答えないことがあった。 英語科教諭
  • あまり来室したことのない彼が、「頭が痛い」と2・3度訴えてきた。 養護教諭
  • 周りを笑わせてばかりいた彼が、あの頃から無口になった。 同級生

家庭だけでなく、学校でも彼は、いくつかの救援信号を発していたのだが、だれも、深くは気に止めなかった。担任も、彼の心を読み切れず、ただ、元気を失ってきたA男に、「元気をだせよ」と声をかけていたという。

3日後に深夜の神戸駅で保護され、疲れきって自宅に連れ戻された彼を風呂場で裸にした母親は、背中や尻の青あざを見つけて仰天した。

問いつめた結果、それは、2年生なのにただひとりレギュラーに選ばれた彼に嫉妬した野球部の先輩が、彼のわずかなミスを責めて「けつバット」のしごきを与えた跡だった。

A男の例を見ても、いじめや不登校を予期させるサインは、周囲が異常と感じるほど顕著ではない。しかし、部活動の練習中はもちろん、授業の中で、保健室で、家庭の食卓でと、多くの場で発した彼の心のSOSのサインに気づけば、何かに悩み、苦しんでいた彼の心に寄り添うことが出来たかもしれない。

中学校、高等学校では、ひとりの生徒に、かなり多数の教師がかかわっているが、そこで得た観察や情報を焦点化しにくい側面を持っている。それだけに、生徒たちが、ひとりでも多くの教師や友人に心を開き、本音がさらけ出せるような、ゆったりとして、あたたかい学校の雰囲気づくりが求められている。

同時に、多くの情報が焦点化できるようにするためには、校長→学年→学級、という縦のラインだけでなく、生活指導、教育相談、養護教諭等をふくめた、横のスタッフによる観察組織を考えることが、不登校やいじめ等の早期発見につながる対応策のひとつだと提言しておきたい。本校では、次のような「心のサイン、チェックリスト」をもとに、気になる生徒について、担任、養護教諭、カウンセラー、生活指導主任、それに、生徒が所属するクラブ顧問等が加わってケース・カンファレンスを開き、SOSのサインを出している生徒に対して、学校や家庭が、今、何をしてやれるかを考え、即、実行に移している。

こころのサイン(潜伏期)

【生徒の状況で思い当たる事項があれば、□にレ印を記入してください】

〈家庭で〉(保護者記入)
1 朝、起きない、いつまでも布団の中でぐずぐずしている
2 朝の支度に時間がかかる、トイレに頻繁に行く
3 食事のとりかたが不規則で、過食や拒食がみられる
4 登校をしぶりがちで、途中で帰って来ることもある
5

あちこちと身体の不調を訴える

6 物事に対するこだわりが強くなる
7 友達が減り、家で独りで過ごすことが多くなる
8 情緒が不安定で、家族に当たり散らす
9 家族との対話が減って、不機嫌なことが多い
10 学校のことを話題にするのを嫌がる
〈学校で〉(担任記入)
1 授業に集中しなくなる
2 なまあくび、手いたずら、チック症状がめだつ
3

理由のハッキリしない欠席、遅刻、早退が増える

4 休み明けの欠席がめだつ
5 ひとりでぼんやりしていることが多くなる
6 給食や弁当を残すようになる
7

たいした疾病でもないのに保健室によく来る

8 学習意欲が低下し、成績が極端に下がる
9 クラブ活動への参加がへったり、いきいき活動しなくなる
10 全体として無気力になる

□の中のレの数が、家庭と学校合わせて10項目以上あればなんらかのメンタルヘルスケアが必要と考えられる。

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