暁烏敏賞 平成13年第2部門本文「中学校「心の教室相談員」のあり方について『きっかけ探しの部屋』づくりの実践事例と考察」2

ページ番号1002583  更新日 2022年2月15日

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第17回暁烏敏賞入選論文

第2部門【青少年の健全育成に関する論文または実践記録・提言】

4 中学校にできた「きっかけ探しの部屋」

(1)生徒の自然な回復力が湧き起こってくる部屋
2 自由な場所、受け入れてくれる人

「きっかけ」は生徒が自分で見つけるものであるかもしれない。しかし、そこには、そういった生徒の全てをいつでも受け入れてくれる誰かが必要なのだと思う。自由であり、かつ保護された時間と空間があり、それにいつでもゆったりと待っていてくれる人がいる場所、そこで自分の心を大切にし、ゆっくり心のエネルギーを蓄え、自分自身の力が内から湧き起こって来るのを待つ部屋、そんな部屋が求められているのではないだろうか。

(2)中学校で始めた「きっかけ探しの部屋」づくり

その後、中学校の相談員となるにあたり、そういった場所が中学校にも作れないだろうかと考えた。他からの批判や評価を気にせず、自己本来の感情を表現できる場での「きっかけ」探し。その「きっかけ」を通し、生徒に何らかの問題が生じた時に、それが最も自然な形で表現され、最も自然な形で解決へと向かってゆける空間が必要なのではないか、と考えたのである。

そして、教育相談担当の教師と話し合い、相談員の活動について職員会議で理解を求めるなどのプロセスを経て作られたのが、「きっかけ探しの部屋」である。これは、何にもないガランとした空き教室からスタートした。そこにソファーやじゅうたんを運び込み、カーテンも明るく暖かい色のものに変えていただいた。鉢植えの植物を置き、ぬいぐるみが並べられ、司書教諭の協力も得て、棚には、本、雑誌が並ぶ。折り紙、毛糸や刺繍糸、ビーズなどを自由に使って楽しむこともできる。将棋やドミノたおしなどゲームの中には、生徒たち手作りのオセロゲームやビリヤードもある。けん玉、だるまおとし、パズルなどの遊具も置き、生徒が自由に入って、ゆっくりすわったり、横になって休める居心地の良い場、自由に遊んだり、話ができる場となっている。

この部屋で相談員は生徒に何かを要求することは無い。生徒が思い思いに遊ぶ場面では、生徒が相談員に対して、不安、警戒、または防衛的態度を取り去って自己の内部世界を自由に行動に表現できるような心理状態を作っている。そうして、どんな感情や欲求をも遊びなどの行動を通じて言語的に自由に表現してもよい、といった雰囲気を作ってゆくのである。しかしそこから来る許容的雰囲気は、放任的な行動の自由を意味するものではなく、生徒が自由に行動するように配慮し、そしてその感情を理解しようと努めていることであり、相談員にとって受容は、生徒の行動の基底にある感情に対する共感的理解でなくてはならないと考えている。

ここで生徒の感情が解放され、より深層の感情世界が、ここですごした「何か」に反映される結果、生徒は自己の感情を正しく、客観的に理解できる機会を与えられると思われる。その「何か」の中に様々なメッセージ、あるいは体験が示される。それを、相談員が見てこそ、そこで真に生徒のおかれている状況や感情を受け止めていけるという考えである。そうして、そのきっかけから、必要な場合には個人面接へとつなげてゆくこととなる。その為の相談室も別に設けられた。

(3)「きっかけ探しの部屋」と相談員

【事例D君のこと】

D君は中学二年の男子生徒。「きっかけ探しの部屋」に来て、だるそうにしていることが多い。他の生徒とも相談員とも話したがらず、本やゲームを手に取ることもなく、「頭が痛い。疲れた。」を繰り返す毎日である。

ある日、相談員がちょうどプラレールを出している時にD君がやってきた。D君はいつものようにソファーに横になったが、すぐに起きあがり、黙ってプラレールにさわり始めた。だるそうな様子はなく、集中して組み立てている。

相談員「たくさんつながったね。」

生徒「うん。これ、おもしろい。」

相談員「小さい頃、好きだったの?」

生徒「そんなことない。やったことない。買ってもらえんかった。家の中が散らかってかたつかんやろ。かたつかんもんは買ってもらえんかった。」

相談員「じゃ、どんなもので遊んだの?」

生徒「おもちゃはだめ。テレビ見るかゲームくらい。何もかたつけんでいいし、家の中がきれいやろ。」

相談員「プラレールとか、やってみたかったの?」

生徒「別に。でも、やったらおもしろいよ、これ。」

と、今まで見せたことのない生き生きとした表情を見せ、「次の昼休みも来るからね。」と、頭の痛い様子も全くなく、元気に授業へもどっていった。その後もD君は度々来て、プラレールにむかっている。走る電車を眺めながら、「今日の朝、超むかついた。」などと、内面を見せるようになり、それと共に、身体的な不調は出なくなった。

【事例Eさんのこと】

Eさんは中学二年の女子生徒。

「なんだかガラスでも割りたい気分や。」と言って入ってくる。そこで相談員がパズルを片付けているのを見て

生徒「あっ。それ、にこにこぶんのパズルや。うち、もつとった。」とやってくる。

生徒「あっ。この、ちびまる子のやつも持つとった。」

相談員「なんだか、数がたりないようなので、一度どこがたりないか作ってみてくれないかなあ。」

生徒「いいよ。うち、こんなの得意や。」全部組み立てる。

相談員「ガラスわりたいんだったら、このパズル、バーツとこわしたら、ちょっとすっきりしないかな。」

生徒「いやや、もったいな一い。別にガラスわりたいつていうわけじゃあなくって友達のことでイライラしてて…」

と言って、友達とのトラブルについて話しはじめる。その後この生徒は度々相談員と面接するようになる。相談室では相談員と一緒にパズルを組み立てながら会話することも多く、生徒は「こうやっているだけで、少しストレス解消になるわ。」と言っている。

D君は幼児期に見ていて心の奥に引っかかっていたプラレール、Eさんは楽しい思い出のあるジグソーパズルという一つの遊具が「きっかけ」となり、その遊びに立ち返ったことにより、机をはさんでの面接では決して出てこない言葉を、友達へ、家族へ、自分の過去へ、未来へと広げることができた。自己の感情を自由に解放した場合、感情の解放は、言語的表現に表れる場合と、そうでない場合があり、非言語的に表現する生徒に、なにかきっかけを与えることにより、言語を通して、自己の感情を明確にし、現在の自分の内的世界をより明らかに示してあげる必要を感じる。

【事例F君のこと】

F君は中学三年生。毎日「きっかけ探しの部屋」に来る生徒である。

一学期は友達とゲームをしたりしてよく遊び、相談員にも、「よっ。さみしいと思って、来たぞ。」というように、毎日声をかけてくれていた。ところが、二学期になり、全く遊ばなくなり、「きっかけ探しの部屋」に入る時も、いすを蹴りつけながら来て、ソファーに腰をおろし、本を読み、チャイムが鳴ると、また何かをひつくり返したり、蹴ったりして、授業に行くようになったのである。相談員が声をかけても、返ってくる言葉はなし。そこで、毎日F君のいつも読んでいる本のシリーズを家から運んで来て、「今日持ってきた本は感動するよ一。涙出るかもしれんよ。」などと言いながら渡していた。

部屋の端の床にすわり、本を読むF君に、「おしりが冷たくなるよ。」と座布団をわたしたり、体育で汗びっしょりな時、「はい。かわいいうちわやろ。」など、反応はなくても、一日一回は話しかけるようにし、相談員もなぜかそのことが楽しみになってきた頃のことである。

F君が授業に行く前に、いつも読んでいる本を投げつけて行こうとするので、相談員が、「私が小学校の時から大事に持っていた本だよ。宝物なんだよ。二十年以上もだよ。」と、大声でF君の背中に向かって叫んだその時、長い間何の反応も示さなかったF君が突然振り向いて、こう言ったのだ。「二十年以上じゃなくって、五十年以上やろ。……」、相談員は一瞬、頭の中が真っ白になり、それから、「プアッバッハッハ。」と大笑いしてしまった。F君もついに吹き出し、「あたったやろ。」と、大笑いしている。それからしばらく間をおいて、「なんでそんなに優しいん?」と、まじめな顔で聞くので、少し驚いて、「F君がかわいいからに決まっとるやろ。」と言うと、「うっそ一。」といって、また二人で大笑いしてしまった。そのことがあってから、F君はまた、知恵の輪やだるまおとし、けん玉などを手に取るようになり「できたぞ。天才やろ。」と言っている横で相談員も真剣にそれにつきあって遊んでいる。

最近では高校のことなど将来についてや、自分の成績についてもよく話している。「テスト○○点やぞー。」と報告してくれ、とてもすてきな笑顔を見せてくれてもいる。

生徒の消耗したエネルギーを取り戻すまでの時間に相談員が生徒に共感し、一人の人間として同じ立場で本気で遊び、本気で笑い、本気で苦しみながら生徒の内からの力が起こるのを待ち、それが動き出したら、支えてゆくことの出来る場所が「きっかけ探しの部屋」なのである。

5 「受け入れてもらえる」「認めてもらえる」こと

毎日「きっかけ探しの部屋」にはF君のような、また様々な生徒たちが大勢来ている。そうして不安や不信の中で相談員に、「味方か?」と聞いてくる。達成や到達を認められてきた生徒たちは、一見、無意味とも思える休息や退行に、つきあってもらえる中で、「こういう所も認めてもらいたい。」「こういうことをしてみたい。」という何かがわき起こってくるように思える。

中学生が幼児でも使うようなおもちゃを手に取って遊ぶ、それがとても上手にできて、ほめてもらう、そんなことの中にも、「見ていてもらえた。」「認めてもらえた。」と、生徒は感じ、とびつきりの笑顔をみせてくれている。

生徒が、大人から見ると、とてもつまらない、また、「中学生には幼稚すぎる」もので遊ぶ時、私たちは、それを快しとせず、到達度や成果の上がることを「遊ぶ」ことの中にまで求めがちである。

生徒が自分の小さい頃遊んだおもちゃについて話す時、「ひらがなや数字を覚えられる本やゲーム、ビデオとか、あと、頭を使うパズルやブロックは、ためになるからつてすぐ買ってくれたわ。そんなもんばつかし…。」というようなことをよく聞く。

このように達成や到達を求められてきた生徒は「中学生らしい」成果を期待されず、拒否されないという安心感の中で、「受け入れてもらえた。」「認めてもらえた。」と感じているのだと思う。

「きっかけ探しの部屋」はそういった許容的雰囲気を持つ、心地よい空間だが、しかしそれをそのまま学校生活全体にまで持ち出すことのできないものである。
そこで、ここへ来た生徒たちの持つ自然な本来の力を信じ、一緒になにかきっかけを見つけた生徒たちが示してくる様々なメッセージを受け止め、また元気にここから外へ出てゆける場を作ってゆきたいと考えている。

6「きっかけ探しの部屋」を機能させるもの

(1)学校における位置づけと共通理解、サポート

学校は教育の場であり、教師と生徒という縦のある種の緊張した関係が学校の秩序を成り立たせているとも言える。そこに「きっかけ探しの部屋」という許容的雰囲気を持つ空間を設置し、教育に関して第三者的な心の教室相談員を存在させるということは、学校全体にとって、ある意味で異質な存在を内包するということでもあったが、生徒のために敢えてその存在を許容していくという、教職員の共通理解が求められたことが、「きっかけ探しの部屋」が機能している大きな要因であると考える。

学校では次のようなサポートが行われている。

  1. 教育相談担当教師の設置
    学校の方針、行事計画等について、担当教師と情報交換を密にし、職員会議などでも担当教師から共通理解を求めるなどが行われている。
  2. 生徒が出入りしゃすい環境づくり、PR
    「相談だより」の発行や掲示板の活用、集会やPTA総会などでの紹介・説明などを通じ、存在や活動内容をPRするとともに、生徒にとっても「必ずしも問題がある人が出入りするところではなく、気軽に出入りしてよい場所である」という雰囲気づくりに努めている。
  3. 生徒の安心感を醸成するための「相談員」の位置づけ
    「教えない、生徒を評価しない人」という位置、、つけとなっており、これが、秘密は大丈夫か、評価につながるのではないかといった生徒の不安を取り除き、相談員としての信頼感の基礎となっている。
  4. 教師との共通理解・連携
    生徒に直接かかわる場合以外に、教師と生徒の間にあってコンサルテーション的にかかわる場合があり、その何れの場合においても必要に応じて教師と連携がとられている。
    相談員は、学校の、相談員に対する期待やニーズ、生徒の状況を把握し、教師と連携、協力しながら活動することが必要であると考える。教育相談担当の教師との情報交換を密にし、協力しながら活動のレベルアップを図っていかなければならないと考えている。
(2)相談員としての取り組み

女子生徒が手に取った「きっかけ探しの部屋」のミルク飲み人形のミルクが、彼女の幼児期の内的イメージを象徴的な形として表したものであった例、コラージュ(雑誌などの切り抜きで切り貼りを作って自分の潜在的意識を確認してみる)により見えてきたかすかなサインが、人格全体に接していけるようになった例など、きっかけ探しの為の素材は個人個人様々である。

生徒一人一人がどのような世界に心を開いているのかを知り、必要な場合には内面を表現するのにふさわしい素材を選択し、適切にきっかけが提供できるよう努めていきたい。

また、「心の教育相談員連絡会」などで研修を深めるなど、様々な知見を重ねてさらに活動を向上させていきたいと考えている。

7 これからの相談活動

「キレる」という言葉で形容されることの多い中学生が複数のストレスを抱えながら、「放っておいてほしい。」「かまわないでほしい。」と叫び、しかし、自分をわかってほしい。見守ってほしい、甘えさせてほしいと、両極の間を揺れながら、乗り越えてゆくための心のよりどころを探している。

自分の感情の背景、またはその中核に言語化されていない、押し込められたものについて、誰にも踏み込んでもらいたくない、聞いてほしくない、かまってほしくないと思いながらも、もし、何か話してしまうようなきっかけがあったのならば、しゃべってしまいたい、そうして様々な葛藤から脱却したいと望んでいる。そんな時に、この「きっかけ探しの部屋」という、自由であり、かつ保護されている場所で、生徒が無意識に求めているきっかけにより、いま抱えている問題の輪郭を語ることができるのである。

相談員は、生徒の感情世界を敏感に受けとめ、それに波長を合わせ、共感的に応じ、必要に応じて、その感情を明確な形で示してあげながら、生徒自身の持つ潜在力が、それにより活性化してゆけるよう努めていきたいと考えている。

参考文献

  • 佐藤修策・山下勲]九七八『遊戯療法』福村出版
  • 伊藤美奈子一九九九『スクールカウンセラーによる学校臨床実践評価ならびに学校要因との関連「教育心理学研究47(4)5211529』日本教育心理学会
  • 本間友巳一九九六『子どもと居場所 不登校児への援助を通して』暁鳥敏賞入選論文集

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