暁烏敏賞 平成20年第2部門論文「言葉で心と心をつなぐ子をめざして 俳句・短歌を取り入れた授業の創造」3

ページ番号1002548  更新日 2022年2月15日

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第24回暁烏敏賞入選論文

第2部門:【次代を担う子どもの育成に関する論文または実践記録】「言葉で心と心をつなぐ子をめざして 俳句・短歌を取り入れた授業の創造」 三野 陽子

三 連歌の授業

(四) 協同で創る授業のポイント

ア、子どもの作品を例に表現技法を押さえる
上の句が良くなければ、下の句をがんばっても良いものにならない。
導入時に、前時に作った上の句の中から良い句を紹介した。他の表現に触れることによって、子どもたちは仲間がもっている言葉の感覚を自分の中に取り込むことができる。表現のよさに目を向け、句作に生かすポイントの指導となると共に、あとの相互評価の折の観点づくりにもなった。

  • 名詞止め・・観客の 視線受けて もうダッシュ
  • 倒置法・・ 全力しっ走 遠いゴールまで
  • 擬音語・・ バーンとスタート まっすぐに
  • 擬態語・・どきどきしながら スタートを待つ
  • 数字・・一位めざして 一直線 

イ、事前に上の句をつくり同じ土台でスタートする
全員が協同作業に参加できるよう、事前に上の句案を書かせて授業に臨ませた。
まず、上の句の修正時間を与え、情景が分かる句になっているかもう一度考えさせた。
T 注意あったね。上の句は読んで分かるようにしましょう。下の句の人は、上の句が分からないと作れません。

上の句

  • 持久走 ゴール付近で ぬきかえす
  • 中きょり走 ぬきつぬかれつ 大接戦
  • 空のした 若い力を おどりきる
  • 短きょり走 タイムが気になる もうダッシュ
  • 手の海だ 若い力に 大かんせい
  • 若い力 二千人の手 大空へ
  • 持久走 ふみだす足と あらい息
  • バーの上 高くジャンプ 新記録
  • ふみきりで コの字でジャンプ 新記録
  • とべなくて むねんの記録 残念だ
  • 二千人 若い力で つながり合う
  • 若い力 きれいなものだ 手の動き
  • ヨーイパン とんぼもいっしょに ゴールイン
  • 中きょり走 記録をめざし つっぱしれ
  • ふみきって マットに着地 大成功
  • 持久走 ぬいてぬかされ もうゴール
  • 大勢の 若い力は きれいだな

ウ、助け船が出せる三人でグループ活動にする
初めての連歌づくりである。
大岡信氏も教材文の中で「初めて連詩のテーブルを囲んだ人は、だれでも衆人環視の場で詩を作るなんて難しくて、とてもできやしないと思うものですが、やがて場にとけこんでくると、たがいに助け船まで出したりして、全員の作品としての連詩をうまく運んでいこうとするようになるのです。」と述べている。
俳句でも、ぱっと句が思い浮かぶ子は限られている。ほとんどの子は、あれこれ悩みなんとか句ができあがる。今回は、「他人の作った句の下につながるようにつくる」と言う条件がある。ペアを作り、短冊を交換し合い下の句をつけ合うことも考えた。が、ペアでは個人差が大きくなると活動が停止してしまう。実際、句作が苦手な子もいる。そこで、お互いに顔をつきあわせて相談し、助け合ってつくることができるようにと三人グループにした。

  • T 机を移動して三人グループで下の句をかこう。もしできなかったらどうする?
  • C 助け船。
  • T そう、助け船を出してください。いっぱいつながる短歌ができるといいね。楽しみです。

教材を読んだときに、「助け船」という言葉を意識させておいたので、子どもたちに、どのグループも相手の気持ちを推し量りながら、懸命に上の句にあった下の句をつくろうとしていた。

エ、相互評価を二度入れる
授業の終盤に、グループごとに相互評価をさせた。各グループで選歌し、一番よいと思うものを黒板に書いてもらった。そして、一つ一つ全員で読み上げ、それぞれの優れていると思う点を発表させた。

  • A 短距離走 良い記録 めざしてはしれ ゴール地点 友達が待っている
  • B 高跳びの 空中芸は 鳥のよう ふわっと体が うき上がる
  • C 高跳びで マットに飛び込む 大ジャンプ 一しゅん空で 鳥になる
  • D 太陽の 光あびて 走り出す 向かい風の中 地面をけって
  • E 飛べなくて むねんの記録 涙する 次のリレーで 勝利の涙
  • F 手の海だ 若い力に 大かんせい オーッの声で あふれるスタンド
  • G 短距離走 ピストルの音が なりひびく ゴール目指して もうダッシュ

C 最後の「鳥になる」がいいです。分けは、高跳びをしてたら本当に鳥のような気持ちになるからです。
C Fの「オーッ」のところがいいと思いました。そこで、たくさんの観客がいるのがわかります。
C Dの「太陽が」がいいと思います。元気に運動しているのがわかるからです。
C Eは、最初残念だったけど、リレーでうれしくなったっていうのがいいです。
T この残念な気持ち書いたのは、Mさんだったね。それを友達が勝利っていい風に変えたのがいいね。Mさん、自分だったらこうなった?
ねらいである協同制作の良さにせまるには、ここでの具体的な支援がもう少し必要だった。例えば、違う人がそれぞれ作って合わせた句なのにきちんと仕上がっていることや、上の句と下の句の表現上の照応を取り上げて評価することである。教師が、つながりという視点での評価観点をしっかりともつべきであった。

他にも、次のような子どもたちの作品が生まれた。

  • H 二千人 若い力で つながり合う 白と赤の コラボレーション
  • I バーの上 高くジャンプ 新記録 うれしくばんざい 手を挙げた
  • G ふみきって マットに着地 大成功 次も絶対 とびこえたい
  • K 声えんが 聞こえてくるよ スタンドから みんなの笑顔と 笑い声
  • L 若い力 きれいなものだ 手の動き ポーズ決まって 大歓声
  • M 太陽が 若い力を ながめてる いっしょにえんぎを したいのか
  • N 若い力 二千人の手 大空へ スタンド中に オーッのかん声
  • O 大勢の 若い力は きれいだな 観客席から 声えんひびく
  • P 短きょり走 きんちょうして フライング 次はがんばる スタートダッシュ
  • Q 短きょり走 タイムが気になる もうダッシュ 記録を見たら 飛び上がった
  • R 用意ドン ライン飛び出し 走り出す ゴールめざし 一位になる
  • S 青空を 見上げながらの 運動会 みんなの声で 勇気あふれる
  • T 若い力 青い空が みているよ みんなの動きが そろってる
  • U ピストルと いっしょにスタート がんばるぞ うでをふり ゴールにいちもくさん
  • V スタンドは 観客の声で うずになる ピシッと決める 感動のうず
  • W 跳んだけど 記録が伸びず 残念だ 両足着いたら もう一回
  • X 持久走 走り終わっても 胸がなる 自分のベストを 出しつくせ
  • Y ジャンプして マットに着地 大成功 跳べてばんざい 手を取り合う
  • Z ジャンプしてマットに着地大成功 跳べたしゅんかん 鳥のよう
(五)学習感想にみる効果
授業の学習感想

もう連体は終わったのに、またそこにいるような感じになれる短歌がたくさんあり、もう一回やりたくなりました。

私の作った句は何となく残念というような句だけどAさんが勝利という句にしてくれてうれしいなと思いました。だから連歌は人と人とを結び付けることがわかりました。

友達と一緒に作ると自分が思いつかなかったこと場や表現が出て来ていいなと思いました。一人で考えるよりかはやりやすかったのでまたやりたいと思いました。

上の句の様子は分かったけど難しい言葉だったので書きにくかった。でも、友達の句と自分の句がいっしょになって一つの句ができるってことは本当にすごいことなんだなと思った。

友達が書いた短歌を読むとすごくみんな上手だった。連体のその場にいる時の様子がみんなでていたからすごいと思った。

日記から

土曜日に連歌を作りました。私はすごく楽しみでした。連歌には人と人とを結び付ける力はないと思っていたけど、実際に友達と作ってみると人と人とを結び付ける力があったので、すごいと思いました。友達の下の句をつくるのは大変だったけど、一人だけじゃなく友達といっしょに作った方が楽しいんだなと分かりました。

今日、土曜日に授業がありました。連歌のことについて勉強しました。昨日、上の句を作ったので、今日は、友達が作った句の上に自分が下の句をつくりました。下の句がちゃんと作れなかったけど、本当に連歌には、人と人とを結び付ける力がありました。それは、助け船を出し合って仲良くなれたからです。これからも助け船を出し合いたいです。

九月三十日に連歌を作りました。きのう、先生が考えた上の句に自分で下の句を作りました。「バーンとスタートまっすぐに」と書いたら紹介されてうれしかったです。次に上の句を自分で考えました。上の句が相手に伝わるか心配でした。でも、ちゃんと下の句を書いてくれてほっとしました。ちゃんと伝わってうれしかったです。

土曜日に連歌を作りました。私が一緒に連歌を作った二人は、BさんとCさんです。私は、Bさんの下の句を作りました。でも、なかなか思いつきませんでした。でも、二人が助け船を出してくれたので書けました。Cさんは、私の句にいい下の句を書いてくれたのでうれしかったです。今後またやりたいです。

上の句と下の句をつなげるという言語活動は、なかなか難易度も高いが、子どもたちは大変意欲的に学習に取り組んでいた。出てきた言葉もとても豊かであった。特にHの句の「コラボレーション」には、驚かされた。これまでの俳句作りや日記など書くことの指導の積み重ねが生きていた。この授業を通して、以下のような成果があった。

  • (一)協同で連歌を創ることは、子どもたちの創作意欲を高める効果がある。
  • (二)友達の作った上の句を読み解き、合致するように創らなければならないという条件が、子どもたちにより高いレベルでの言葉選びをさせ、表現の幅を広げることにつながる。
  • (三)子どもの作品を目に見える形で提示し評価することによって、言葉の感覚や技法を子ども自身の中に取り込ませることができる。

四 音読・暗唱で親しむ

「好きな俳句は」と聞かれたら、すぐ答えられる子どもにしたいものである。
優れた俳句や短歌にたくさん触れさせるために音読・暗唱にも取り組んできた。
例えば、朝の会で、芭蕉、蕪村、一茶、など代表的な俳句を五つずつ、○○の俳句と画用紙に書いて紹介する。何度か声に出して読んだ後、暗唱に挑戦させる。できた子は、みんなの前で言う。間違えずに言えれば合格、シールをカードに貼る。子どもたちの暗記能力は大人よりずっと優れていてあっという間に覚える。
ふるさとの俳人にも親しませたいので、千代女の句も紹介することにしている。
音読暗唱は、優れた言語活動である。短時間でも腹から声を出すことを繰り返していると、脳が活性化され、学習に集中できるようになる。また、全員で声をそろえたり、分担して読むようにすると学級の意識が高まり、まとまりが生まれる。さらに、大勢に人の前で暗唱することに慣れると、話すことへの抵抗感がやわらぐ。声が大きくはっきり出るようになり、授業中の発表が増える。

五 百人一首に親しむ

中学年以降は、百人一首に取り組ませてきた。
「五色百人一首」と呼ばれる、二十枚ずつ赤、青、黄、オレンジ、緑の五つに色分けされたセットを使用している。これは、一般の百人一首と異なり、絵がなく取り札の裏に上の句が書かれている。字も読みやすく、並べている間にも覚えることができる。
まず、二十首印刷した画用紙のカードを配る。みんなで五つずつ音読し暗記するまで読む。正確に暗記するため、始めの五文字が書かれたミニテストも時々行う。
大体覚えたところでカルタ取りを始める。一日に五分から十分だけする。班の二人一組で一色二十枚だけ札を並べる。いつでもちょっとした時間があればできるのが魅力だ。子どもに「百人一首を家庭でしたことのある子は?」と尋ねるとごく僅かである。少子化、核家族化の影響を受け、家族でカルタ取りやトランプなどの経験がほとんどない。コンピューターではない、この顔を合わせて遊ぶゲームに子どもたちはとても喜んで取り組む。
二週間ぐらいたつと、次の色二十枚に挑戦する。やり方は同じである。
意欲を持続させるためにリーグ戦を始める。強さが拮抗しているとよりゲームが白熱しおもしろくなる。チャンピオン席は一番前で、順番に場所が決まっている。勝負に勝つと一つ上がり負けると一つ落ちる。教師が上の句を読むと、子どもたちは真剣に札を取り合う。「ああやられた。」「くやしい。」「やったー。」と声が飛び交う。男女関係なく札に向かい本当に楽しそうだ。
百首暗唱した子どもたちも出てきた。ある子は、負けたくないと思い、毎日寝る前に百首、声に出して覚えたそうだ。お母さんも学生時代に親しんだそうで、子どもと一緒に楽しめたと喜んでいた。また、ある子は、興味を持った和歌について意味を本で調べていた。目標に向かってこんなに真剣に取り組んだのは初めてだとほめられたそうだ。これをきっかけに家族でカルタ取りの練習を始め、腕を磨いた子もいた。

六 終わりに

卒業アルバムのクラスの表紙は、「絆」である。
様々な人間関係にもがきながらも、多くの経験を経て、子どもたちは、信頼を回復し、ひとつの学級集団になっていった。自己肯定をし、少しずつありのままの自分を出すことができるようになった。そして、素晴らしい卒業式を創り、巣立っていった。

卒業に寄せて詠んだ句

  • 大切な クラスの思い出 サクラみたい
  • さようなら すてきな恩師と 小学校
  • 通学路 今日が最後の 通学路
  • ありがとう 感謝の気持ちを 忘れない
  • さようなら 毎日使った 机いす
  • 卒業し 友といっしょに 校舎去る
  • 忘れない みんなと笑った あの日々を
  • 春風が 思いで届ける そよそよと

言葉は、口から出る心である。言葉を磨くことによって豊かな人間性を育み、人の心と心をつなぐことができる。言葉で感じ、言葉で表現して人間関係をつくるような子どもたちの育成に俳句や短歌は有効である。
今後も、日々の国語科の授業や学校生活の中で取り入れていきたい。そして、俳句・短歌のみならず、言葉を学習することの意義を理解させ、確かで豊かな言葉を育む国語科授業を構築しなければならないと思っている。

過去の作品

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