暁烏敏賞 平成20年第2部門論文「言葉で心と心をつなぐ子をめざして 俳句・短歌を取り入れた授業の創造」2

ページ番号1002547  更新日 2022年2月15日

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第24回暁烏敏賞入選論文

第2部門:【次代を担う子どもの育成に関する論文または実践記録】 「言葉で心と心をつなぐ子をめざして 俳句・短歌を取り入れた授業の創造 」 三野 陽子

二 俳句の授業 俳句づくりが育てる見方・感じ方

(三)新聞への投句

子どもたちは、俳句教室の後も俳句を何度か作って職員室前の掲示板に貼った。廊下には、言葉があふれ、他学年の生徒も関心を寄せるようになった。

また、地元新聞の子ども俳壇にも投句する活動を続けた。新聞に自分の俳句が載ると家族も大喜びである。朝、うれしそうに私に新聞記事をみせてくれる。「見たよ。」「すごいじ。」大勢の人から声をかけられ本人は大満足だった。国語嫌いな、読み書きが苦手な子も言葉の力を発揮できるのが俳句の魅力の一つだ。

北國新聞「子ども俳壇」二〇〇七・四・五月 抜粋

  • 春うらら まいた種にも 芽が出てた
  • 桜散る 頭の上に ひらひらと
  • 入学式 桜に見とれる 一年生
  • ぼくたちの 空に帰った つばめたち
  • こいのぼり 年に一度の 日光浴
  • おばあちゃん ちまきをくれた 子どもの日
  • カーネーション ありがとうが つまってる
  • つばめとぶ 大きな空を まっすぐに

俳句作りは、学校全体に広がりを見せ、子どもたちは俳句を通して少しずつ自分の言葉で表現できるようになっていった。二年生のある児童は、自主的にせっせと葉書で投句し腕前を上げている。

(四)コンクールへの応募

先生方の協力を得て、各種コンクールにも学校からたくさん応募することができた。コンクールに応募することは、お互い忙しい中で煩雑なことであるが、子どもたちの励みにもなる上、評価の上で大変勉強になると思い続けている。

年末に開催される第一回、第二回日本赤十字社主催「いのちと献血俳句コンクール」にも応募し、二年連続で石川県小学生の部の学校賞を頂いた。

六年三組応募作品から

  • 付けていく 母の編み立て マフラーを
  • 手袋を 編んでもらった 冬の日に
  • クリスマス 家族でツリーを かざりつけ
  • 新年に 家族とおせち 記念写真
  • 冬の朝 母の愛情 おみそしる
  • 友達と みんなでせのび ぶどうがり
  • こたつには 足がたくさん ゆずろうか
  • セミたちが 短い命 歌にする
  • おおみそか 私の机 みがく母
  • サンタさん 毎年毎年 寒いのに
  • 卒業式 友とちかった またあおう
  • かわいそう 友達いない 雪だるま
  • 春が来る 新たな友情 芽生え出す
  • 寒い朝 あったか飲み物 ありがとう

作品を読むと、家族や友を気遣う温かな感情や周りに感謝する気持ちが育っていることに気づく。俳句作りを通して子どもたちは、豊かな感性と着実に言葉で表現する力を身に付けている。

(五)卒業アルバムに載せる

晩秋になるともう卒業文集を作成しなければならない。私は、クラスページに俳句のコーナーを入れることにしている。子どもたちは、一年間書きためてきた短冊をふりかえり、気に入った俳句を選ぶ。この作業を通して、初めて作った時から随分腕前が上がっていることに気づく。また、一年間の出来事が、思い出の場面が鮮やかによみがえって心が揺れる。どの子もどの句にしようか真剣な様子だった。友達に相談しあう姿もとてもほほえましかった。忙しい中、俳句を継続してきてよかったと思う。

六年一組俳句(一昨年度担任 アルバムから抜粋)

  • 腹が減った 食欲に秋だ 食べてやる
  • 柿の木に ちっちゃな太陽 まぶしいな
  • ザブザブザブ 波の音が すずしげに
  • 朝起きて 日なたを探す 秋の朝
  • 寒い日に ストーブ争い あったまる
  • バーベキュー ありがぞろぞろ 合宿かい
  • ロケットで 天の川わたる ひこ星だ
  • きもだめし ホタルの光が 道てらす
  • バスケット ボールが夕日に ナイスシュート
  • 夕焼けは 海の下を 歩いてる
  • 寒くなり 学校のストーブ 大人気
  • 思い出す 入学式の ドキドキを
  • 冬の朝 雪のうらない うんせいは
  • 朱色の 絵の具をたらした 夕日空
  • 秋風に むかって飛んでく 赤とんぼ
  • 思い出が いっぱいつまった 俳句の紙
  • ありがとう 友にささげる この言葉
  • また今度 校舎に語り お別れだ
  • 夕日空 落ちてく色は 柿のよう
  • 自転車で とんぼとかけっこ よういどん
  • あたたかい だけでうとうと こたつかな
  • 朝おきて カーテン開けると 白い雪
  • 給食に りんご登場 秋が来た (子ども俳壇掲載)
  • カーネーション ママの笑顔に 似ているね
  • 夏の川 心を決めて ひとっ飛び
  • 夏合宿 みんなが一つの 家族だぞ
  • 秋の夜 ピアノの練習 もう特訓
  • 秋の夜 虫の音色が こもり歌
  • 秋の道 きんもくせいの いいにおい
  • 朝顔は ラジオ体操 待っている (子ども俳壇掲載)
  • 秋がきた りんごのような 夕日空
  • クリスマス この手に雪が 降りてくる
  • 桜道 一歩ふみ出す 中学生
  • 三日月を じっくりながめた 午後十時

六年三組俳句(昨年度担任)

  • いちょうの葉 黄色に光る 帰り道 (子ども俳壇掲載)
  • 卒業生 花が開いた 桜見る
  • じいちゃんの 作ったスイカを みなで食う
  • かたつむり 雨のしずくに こんにちは
  • 六月だ 梅雨がくるから いやな時期
  • ハローウィン きみょうな顔の カボチャたち
  • つらい時 助けてもらった 運動会
  • かまくらに みんなで入って あたたかい
  • カタツムリ 葉っぱの上を つなわたり
  • ありたちは 食料はこぶ たくはい屋 (千代女俳句大会入選)
  • あめんぼたち 水面泳ぐよ まほうつかい
  • 梅の花 雪に優しく 包まれる
  • 六の三 思い出詰まった 宝箱
  • あきあかね 花の上で ひと休み
  • 冬休み 受験前の ハードルだ
  • かき氷 夏にあらわる 雪の山
  • 歩道の上 私と落ち葉で おにごっこ
  • 白い雪 一つ一つが 小さな命
  • 雪が降り みんなでやろう 雪合戦
  • 夏休み 肌に赤いちょぼ 吸血鬼
  • 卒業を 間近に控え 雪が降る
  • 雪だるま ひとりぼっちで 寂しそう
  • 編み立ての マフラーつけて おでかけだ
  • 口内炎 トマトを食べて 口しみる
  • 冬が来た 外でみんなで 雪合戦
  • 雪が降る 花の命は 強きかな
  • あじさいが 色水すって もようがえ

三 連歌の授業

連詩は人と人とを結ぶ力がある
六年生では、俳句だけでなく短歌も授業で扱う。短歌は、歴史が古く、情景を詠んだ優れた歌が多い。
以下に述べる実践は、心と心をつないでほしいという教師の切なる願いのもと生まれたものである。クラスの子どもたちが、協同して創作する活動を国語の単元に取り入れることによって、共に学ぶことの楽しさやよさを味わうことができると考えたからである。

(一)授業設定の理由

国語の教科書に「人と人との心をつなぐ」といったテーマついて書かれた教材がないものか探してみた。学校図書六年下巻に掲載されている大岡信氏の文章が目にとまった。題名は、創造する心『「連詩」を発見する』である。

始めに、「連詩」という詩の形式について紹介してある。この詩の特徴は、複数のメンバーで共同制作することである。大岡氏自身が戦後、創り出したものであり、新しい形なのだそうだ。ところが、日本には古代から「連歌」といって複数で共同して作り合う文化があったことを述べている。そして、筆者の外国での詩作経験をもとに『詩というものには、人と人を結び付ける力が強く備わっているからに違いありません。』と言葉の力について述べ、文章を結んでいる。

教科書では大岡氏の文章に続いて、活動例が示されている。一つ目のタイトルは、「宇宙短歌を作ってみよう」だ。最初に、宇宙飛行士向井千秋氏の「宙返り何度もできる無重力」という句が紹介されている。そして、この上の句に続く下の句(七七)を考える活動が設定されている。

二つ目のタイトルは、「連詩をつくろう」である。簡単な例が紹介されたあと、子どもたち自身が創作する流れとなっている。読むことと書くことが結合した単元として構成されている。

言葉の働きを改めて考えさせる内容であると同時に、協同で詩歌を創作することはとても新鮮で興味深い。心と心をつないでほしいという私の願いにも合う教材である。そこで、この教材を使い、授業を行うことにした。連歌は連句として現在も創作されているが、複雑なルールがあるためそのまま子どもたちに取り入れることは難しい。そこで、発句のあとに下の句を考えるという教科書教材の方法に倣うことにする。

(二)実際の授業

本単元では、俳句の基礎を知り、句作に取り組んできた子どもたちに、友達と協同で短歌や詩を作る活動を体験させる。人の読んだ句に合う下の句を創るという条件があるため、新たな意欲と興味を喚起すると考えた。また、グループで相談しながら一つの句を完成させることを体験させ、筆者が述べる「言葉には、人と人とを結びつける力がある」について本当かどうか検証すると言う大きなめあてをもたせた。

主な単元の流れは、次のようなものである。

第一次

  • これまでの句作について学習経験を話し合う。
  • 教材文を読み、連詩や連歌の形式や方法を知る。

第二次

  • 向井千秋さんの俳句を紹介し連歌の作り方を知る。
  • 連合体育大会の様子を思い出しグループで連歌を作りグループで発表する。
  • 学習をふりかえり成果を話し合う。
(三)連歌を創るためのポイント
ア、タイムリーな題材を選定する

短歌・俳句づくりにおいては、題材の選定がよい作品を生み出す鍵を握っている。

この単元が行われる数日前に、六年生の行事である連合体育大会が開かれることになっていた。毎年九月の下旬、金沢市内の公立小学校の六年生全員が陸上競技場に集い、この連合体育大会が開かれる。四千人以上の子どもたちが紅白に分かれ、走ったり、演技をしたりする。特に、二千人が踊る『若い力』(石川県で国民体育大会が開かれたときに披露された曲)は、圧巻である。二千人の動きがそろって動くたびに、どよめきが起きる。また、アンツーカーの本格的な競技場を百メートル走ることも、子どもたちにとっては初めてである。トラックや観客席の規模も運動場にと比べものにならないくらい大きい。勝ち負けにかかわらず、どの競技も子どもの心を揺り動かす。短歌を作るには、絶好の題材である。

全員が参加するので、友達の感動を共感することができ、作品を解釈したり評価したりしやすい。同じ競技の句が並ぶことになり、表現やものの見方の違いに気づきやすい。

これらの理由から、題材を『金沢市連合体育大会』にした。

当日は、心配された天気にも恵まれ、子どもたちは全員『連合体育大会』を満喫することができた。

イ、大型カラーコピーを掲示し想起させる

数日しかたっていないといえ、写実的な句を作る上で連合体育大会の様子を想起させることは重要である。そこで、教師が大会当日撮ってきた写真の中から、三十枚を拡大コピー機で印刷し、教室の壁面に貼った。大型写真だったので、教室中が連合体育大会の雰囲気に包まれた。

さらに、写真をもとに競技ごとにイメージする言葉を見つけ合う活動を行った。出場した種目ごとに話し合わせると、短距離走では、「ピストル・クラウチング・トラック・レーン・声援・かける・風」、走り幅跳びでは、「ライン・白い・レーン・砂・メジャー」などが出てきた。子どもたちは、これらの写真や言葉をよく見ていたので、連詩をつくるときの支援になったと言える。それぞれ、集めた言葉は、写真下に書き一緒に掲示した。

ウ、全員参加のために句作の試行をする

これまで俳句に親しんでいる子どもたちではあったが、「七七」の言葉を生み出すのは初めてである。連歌が、授業時間のなかで抵抗なく作れるように、上の句に下の句をつけるという活動を体験させておくことにした。

悩んだのは、上の句(発句)である。俳句を子どもに指導してくださった小竹先生(俳人)に相談したところ、いくつか子どもの俳句を紹介してもらった。その中に『空の下リレーがんばる運動会』という句があった。リレーではなく、全員が体験した種目ほうが感動を共有したり、協力したりできると思い、リレーと言う言葉を「かけっこ」(百メートル走)に換え使うことにした。

上の句 空の下かけっこがんばる運動会

俳句を作るときには、ただうれしいとかいても読む人には伝わらないこと、「どうしてうれしいのか」「なにがうれしいのか」「どんなふうにうれしいのか」きちんと具体的にかくことを指導してきた。そして、そのときの様子をよく観察し言葉に表すようにさせた。短歌も同じで、心の揺れが伝わるように言葉を選んで書かせた。

上の句の言葉を「かけっこ」に設定したことは正解だった。走ったときの子どもたちの心の揺れが句に表出していた。体育大会での自分の様子を想い出しながら名詞止め、倒置法、擬態語など表現を工夫した作品もみられた。できあがった下の句は以下の通りである。

上の句 空の下(もと) かけっこがんばる 運動会
下の句

  • 一位めざして 一直線
  • あせってしまい フライングする
  • ピストルの音が 耳にひびく
  • バーンとスタート まっすぐに
  • 心臓バクバク スタートダッシュ
  • どきどきしながら スタートを待つ
  • 全力しっ走 遠いゴールまで
  • 全速力で ゴールめざす
  • 観客の視線受けて もうダッシュ
  • 待ってる間 長くて暑い

しかし、想像していたより短歌の形式「七七」が難しかったらしく、句作に時間がかかった。結局三十六名中、五名は時間内に下の句をつくることができなかった。

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