暁烏敏賞 平成20年第2部門論文「言葉で心と心をつなぐ子をめざして 俳句・短歌を取り入れた授業の創造」1

ページ番号1002546  更新日 2022年2月15日

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第24回暁烏敏賞入選論文

第2部門:【次代を担う子どもの育成に関する論文または実践記録】

写真:覚華鏡

  • 論文題名 言葉で心と心をつなぐ子をめざして 俳句・短歌を取り入れた授業の創造
  • 氏名 三野 陽子
  • 住所 石川県金沢市在住
  • 職業 金沢市立額小学校教諭

言葉で心と心をつなぐ子をめざして 俳句・短歌を取り入れた授業の創造

一 学級の抱える問題 ありのままの自分が出せない子どもたち

近年、六年生を何度も受け持つことになった。一昔前とくらべて感じるのは、以前より人間も人間関係もうすっぺらになったということである。人と人との絆、心のつながりを子ども自身が実感していない気がする。本当の意味での「友達」「仲間」をもっていない。つながり方を知らないし、そのつながりを保つ術がない。だから、人を気遣う言葉の使い方ができなかったり、言葉が発せられず無視したり、あるいは暴力的な行動にブレーキがかけられず大きな問題にまで発展する。

ある年、担任になって驚いたのは、仮面をかぶって生活している子どもたちの存在であった。周りの反応が怖くて、ありのままの自分が出せない。他人からどう思われているのかと視線を気にし、おどおどと暮らしているように見えた。思ったことを口に出さず、無表情で、人との交わりを拒んでいる。また、日記の中では、学級を批判しているにもかかわらず、第三者のように冷めた目で様子を傍観している子もいる。必要なこと以外は関わろうとはしない。休み時間も座席でひたすら読書にふける。そのことについて、話してみると「辛い目に遭うぐらいなら友達はいらない、作らない」と言い切る。

一方で、行動を共にする仲間内でいじめが起きる。気に入らないことがあると仲間の一人をいともあっさりグループから追い出す。理由は、「あの子だけは未だ、外された経験がない。」「行動が気に入らない。」という程度のことである。仲間外しは、日常茶飯事的に簡単に始まる。無視、陰口など容赦ない。諫めるものは誰もいなかった。「次は自分が標的になる番なのでは」という恐れから、自分を守ることに精一杯で、表立って行動できない。

それでも、学校は行かねばならない場所なのか、ありのままの自分を隠して、子どもたちは学校に通ってくる。そして、一日の大半をこんな雰囲気の中で過ごす。

これは、特別なことではない。以前、無関心、無感動と言う言葉が流行したが、今はもっと深刻であり、無思考、無行動に陥っている気がしてならない。感じる心が鈍くなっていると思う。

子どもたちになぜこのような人間関係の問題が起きるのであろうか。私は、子どもたちの感受性、想像力の不足が原因の一つではないかと考えている。「こんな言葉を言ったら相手がどんな気持ちになるのか」「どんな苦しみを伴うのか」が想像できていない。だから、痛みを感じる思いやりや優しさが生まれない。思いつくままに、とげとげしい言葉が平気で口から飛び出す。聞き手の感じ方を考慮した話し方、つまり適切な言葉で伝え合う力が育っていない。敬語、会釈など相手を気遣う振る舞いの言葉は死語になってしまっている。

学校は、希望と夢に溢れているべき場所だ。それぞれの存在を認め、相手を尊重した上で、思いや考えを自由に語り合い、励まし合い、成長していく場。一人一人が幸せになるために勉強にスポーツに専念できる所であってほしい。

言葉で傷つけあう現代社会の子どもたち。しかし、言葉だからこそ深く感動できる場合もある。日本古来の伝統文化である俳句や短歌がその一つではないか。俳句・短歌の授業を学校生活に展開し、日常的に句作を取り入れることが子どもたちの言葉を高める上で効果的だと考えた。そして、言葉の働きに気づき、言葉でよりよい人間関係を創ることができる子どもたちを育てたいという強い願いを持ち、毎年実践してきた。

以下、過去二年間に行った実践を紹介していく。

二 俳句の授業 俳句づくりが育てる見方・感じ方

(一)俳句を生活の一部に

私は、俳句づくりが言葉の力を培う優れた活動だと思い長い間実践している。俳句は、たった十七音しかない。ぴったりの表現を探すため、言葉に敏感になり、様々な表現方法にも気づく。また、身の回りの自然をじっくり見つめるため、優しい心や感性が育つ。

指導する事柄は次のようなことである。

  • (一)俳句は世界一短い詩であること。日本古来の文化であり、今も愛好者が数多く、世界にも広まっていること。
  • (二)五・七・五の言葉の組み合わせでできていること。例を挙げ、声を出して数えながら確かめる。
  • (三)想像でなく、身の回りの物を観察したり、実際に自分が体験したりした中から心が動いた事を書くこと。

毎年四月、学級の子どもたちに俳句を紹介し、実際に俳句を作ってみる時間を取っている。子どもは、必ずと言っていいほど「チューリップがきれいだな」「春の遠足楽しいな」などイメージで言葉を選ぶ。だから、同じような句が並んでしまう。世界の中のたったひとりの自分が感じたことを表現してほしいと思う。教室の中だけで想像して言葉を組み合わせるのではなく、自分の目で身近なものをじっくりと見つめる時間が大切だ。そして、今まで気づかなかった事、心が動いたこと「発見」を題材にさせる。

ある年は、「春を探しに出かけよう」と河川敷に飛び出した。ひとしきり走り回ったり、遊んだりしたあとで、桜の大木の下に全員を連れて行った。雪の残る医王山と青い空を背景に、満開の桜が春風とともに舞い散っていた。心もおだやかでさわやかだ。子どもたちに、「桜」と言う言葉を入れて俳句をつくるよう呼びかけた。「春」に感じるものが見つかったのだろう。子どもたちは、黙って指を折りながら言葉を組み合わせ始める。あまり抵抗なく句を詠んだ。

俳句作りが初めての六年生だった時は、異なる方法をとる。俳句の説明を簡単にした後、季語をこちらから与えて残りの七五を考えさせた。例えば、

春うらら ○○○○○○○ ○○○○○

である。子どもたちは指折りながらぴったりの言葉を探し始める。「春あった出来事でうれしかった楽しかった場面をくっつけてみよう」となげかける。

  • 春うらら 桜の下で おひるねタイム
  • 春うらら みんなおいかけ 笑顔さく
  • 春うらら まいた種にも 芽が出てた
  • 春うらら 小さなつくしが こんにちは

それから、忙しい時間の合間を縫ってできるだけ一ヶ月に一度は俳句をつくった。

先に、季語集めをして身の回りにはいろいろな題材が転がっていることに気づかせる。そうすると多様なものの見方で俳句を創ろうとする。

最近は、旬や季節感を感じるものが特に失われている。菖蒲を布団の下にしいたり、雛祭りを一緒に飾りお祝いしたり、自分が経験した家庭行事は今はほとんどない。子どもたちに、春のものは何かと尋ねても、あまり浮かばないようだ。

観点を挙げて想像させ、少しずつ言葉を広げていく。身の回りの自然(花、木、虫)、店の並ぶ野菜果物、魚類、家の様子、食卓に出てくるおかず、衣服や住まいの変化、行事。季語がたくさんあることに子どもたちは驚く。新しい言葉を獲得する貴重な時間だ。

全員のつくった句は学級通信に載せて広める。友達の俳句を読むことも学びである。よい表現は取り出して紹介しほめていくと言葉の選び方や配置に工夫が見られるようになった。

五月 二回目の俳句 学級通信スマイルより
  • うぐいすが 泣いて五月の 朝が来た
  • 田植えした おいしいお米が できるかな
  • こいのぼり 空のおさんぽ 気持ちいな
  • 道ばたに ピンクのつつじ あまいにおい
  • つばめとぶ 大きな空を まっすぐと
  • かしわもち いっぱいほおばる 子どもの日
  • 桜散る みどりの葉っぱに はやがわり
  • こいのぼり 親子全員 仲がいい
  • 母の日に ロシェを作って 喜ばす
六月 三回目の俳句
  • あめんぼたち 水面を走る スケート選手
  • 縁側で スイカを食べて 種とばし
  • 梅雨が来て つぼみのあじさい 踊り咲く
  • 巣を見たら たまごを守る オスツバメ
    ※彼は、自分の家に作られた燕の成長を見守っていた。
  • ジャガイモの 土寄せやったよ がんばった
    ※暑い日の放課後、慣れない鍬を使って学校園の作業を手伝ってくれた。
  • 雨上がり おっまだいるよ かたつむり
  • いちごがり いっぱい取って 食べようか
  • たけのこが 毎日毎日 背比べ
    ※裏山にはたけのこ山があり、地域の方のご厚意で毎年三年生が収穫体験をさせてもらう。
  • ふうりんに 風林火山の 絵を描いた
    ※クイズやだじゃれが大好きなユニークな子である。
  • あめんぼが 広い田んぼを 旅してる
  • 雨が降る かたつむりラッキー ぼく残念
    ※大会が近づき少年野球の練習に精を出していた。
(二)俳人小竹先生との授業
ア 小竹先生との出会い

俳句指導は長く続けているわりに、俳句のレベルがなかなか上がらないことが悩みの一つだった。子どもたちの言葉の力はどうすれば高まるのか知りたいと思っていた。

友人に誘われ、ある俳句講座に出席することになった。講師は、県俳文学協会の小竹由岐子先生であった。

高校や中学校の教諭に混じり実際に「大根」「白」という冬の季語で俳句を作ることとなった。時間は、十五分。普段は偉そうに子どもたちに作らせているにもかかわらず、うまい句が出てこない。物事を見ても、言葉が浮かばない。時間ばかりがたって、冷や汗が出てきた。やっとの思いでできた俳句を今度は出席者で回覧し、選句した。他のメンバーの作品がとてつもなく上手に思えた。感心してばかりだった。自分の句が選ばれたらどんなにかうれしいだろうと思った。そして、言葉を深く吟味する自分に気がついた。最後に、先生が一つ一つの俳句を肯定的に評価して下さり、さわやかな気分で学習を終えることができた。

この講座の後、ぜひ、子どもたちにもプロの俳人との出会いを企画し、指導を仰ぎたいという気持ちが強くなった。さっそく小竹先生に申し込んだところ、快く協力して下さり七月には六年、四年対象に「俳句教室」が実現した。

イ 俳句教室

マルテに、六年生約七十名がそろった。

小竹先生は、まず、俳句について説明された。

  • (一)俳句の約束事(きまり)
    • 定型 十七文字 五七五
    • 句またがり 五五七 七七五
    • 字余り、字足らず
  • (二)季題(季語)を入れる
    • 春・・桜、入学式、新学期
  • (三)表現の仕方
    • ものごとを見て、一番心に残ったことが伝わるよう書く。
    • 写生する。
  • (四)挨拶句

俳句の約束事だけでなく、俳句の歴史、正岡子規が野球をこよなく愛し、投手、一塁などの野球用語を創り、野球の殿堂入りをしていることなどを話して下さった。また、季語だけでなく、挨拶句と言い何かをお祝い、お礼して俳句を詠むこともあると教えられた。

いよいよ選句が始まる。事前に子どもたちが短冊に書いた句から、十句ほど選んで読み上げる。先生は、優れた句だけでなく、意図的に多様なものの見方や表現をしたもの選んでいた。続いて、黒板に書き出したものの中から、子どもたちに各自が一番好きな句を決めさせ挙手させた。選んだ理由を聞くと、表現の工夫に目をつけて吟味している様子がうかがえた。

終わりに一つ一つを肯定的に評価し、言葉の使い方も指導された。子どもたちは、どんなものの見方や表現が優れているのかを友達の句を通して学ぶことができた。選句という言語活動のよさを実感した一時間であった。

その後、明らかに作風が変わった。二〇〇六年夏の北國俳句大会(毎年受け持ちの児童の俳句を応募していたが入選一点ほど)では、これまでになく多くの句が入選した。

  • 特選 ひらおよぎ カエルになった 気分だよ
  • 佳作 クロールの わきの間に 見える空
  • 入選 風鈴の 音と同時に 目を覚ます
    • 夏の空 夜空にかがやく 一番星
    • 六年生 プールにはいると 超満員
    • 水中で 見上げた空を 忘れない
ウ 選句の授業

昨年度は、勤務地を移動したが、一年から六年の全十八クラスで俳句授業を行うことができた。効率よく進めるために、授業内容を小竹先生と相談の上変更した。

中・高学年の実践

授業は、一クラス四十五分間。まず児童全員に俳句の約束事を説明する。次に、あらかじめ児童が作っておいた作品一覧表を黒板に掲示する。児童にも、同じプリントを配布しておく。誰のものかわからないように名前は書かない。そして、小竹先生が、ひとつずつ読み上げ、作品に解説を加えたり、修正したりしていく。全員の作品を紹介した後、自分以外の句で、よいと思ったや句好きな句を三つ選んで印をつける。

六年三組 俳句

  1. 風りんが 夏にちりんと 歌い出す
  2. 暑い夏 ふとんをけって かぜをひく
  3. 運動会 むねにひびいた 母の声
  4. カゴの中 元気に飛んでる カブトムシ
  5. かたつむり 葉っぱの上で つなわたり
  6. 電気のとこ 虫がブンブン うるさいな
  7. クソあつい あせがながれて たきみたい
  8. 袖のあと 青団優勝 運動会
  9. 夏の夜 空にキラキラ 星がとぶ
  10. 運動会 一位になれたよ 徒競走
  11. かたつむり 雨のしずくに こんにちは
  12. 夏始め 夕立くるか 外を見る
  13. しろつめくさ かおりただよう 息を吸う
  14. 夏が来て 動いてなくても のどかわく
  15. あじさいが 色水すって もようがえ
  16. きれいだよ 太陽の下で あじさいが
  17. 足が出た カエルまで もう後少し
  18. 運動会 しんぞうドキドキ ばくはつだ
  1. こいのぼり ふわふわ泳ぐ 気持ちそう
  2. あめんぼたち 水面あるくよ まほうつかい
  3. 桜の木 夏は毛虫の 祭り場所
  4. 夏休み まだかまだかと 待っている
  5. 口内炎 トマトを食べて 口しみる
  6. 六月だ つゆがくるから いやなじき
  7. ふうりんが チリンチリンと なりひびく

用紙を回収し、小竹先生が、児童の選んだ句の番号を読み上げる。正の字を黒板に書き入れながら数えていく。子どもたちは、自分の句が呼ばれるかとどきどきして聞いている。集計が終わると、いよいよ作者の発表である。六年生の私のクラスで選ばれた作品ベストスリーは、

  • 風りんが 夏にちりんと 歌い出す
  • あじさいが 色水すって もようがえ
  • あめんぼたち 水面あるくよ まほうつかい

だった。

「この句は誰ですか?」一番票が多かった句の子どもが立って大きな拍手を受ける。先生が、「どうしてこの句を思いついたの?」「この表現はどういう意味?」と尋ね、感動を解き明かしていく。ちりんと音を入れたことが涼しげでよいこと、風鈴は物なのに「歌い出す」と人間のようにたとえたことを評価された。
最後に、先生も選んだ句を発表する。

1)こいのぼり ふわふわ泳ぐ 気持ちそう
情景を思い出させる「ふわふわ」という擬態語の使い方を褒められた。ただし、「気持ちそう」が適切ではないので別の言葉に変えるよう指導された。
2)こいのぼり ふわふわ泳ぐ 気持ちよい
次に、友達が気づかない着眼点として左の句を褒められた。

1)電気のとこ 虫がブンブン うるさいな
夏になると、本当に電気の下にたくさんの虫が集まってくる。誰でも経験している光景だが、それを詠むことがすごい。ただ、「電気のとこ」では、意味が読み手に伝わりにくいので、言葉を直すようアドバイスされた。
2)電灯に 虫がブンブン うるさいな

先生は、どの句も否定せず尊重され、必ず児童のがんばりを褒めるので、子どもたちは、すっかりミニ俳人気分だった。俳句で褒められたことをきっかけに、自分に自信を持ち生き生き生活し始めた子も多い。

この後の句作の時には、少しでもよい表現をしようと一層工夫する姿が見られた。頂いた俳句手帳を広げ、季語一覧表を活用して言葉を考える子もいた。

低学年の実践

初めて俳句を知る低学年の教室では、このような流れは難しい。

そこで、小竹先生が紹介して下さった児童の秀句の中から、こちらで十点ほど選びワークシートを作っておいた。

授業の始めは、高学年と同じように簡単に俳句について説明する。次に、ワークシートの俳句を一つずつみんなで声に出して読んでみる。五七五のリズムが実感できるように、声に出したり、指を折ったりする。子どもが様子をイメージしやすいように、先生が説明を付け加える。それから、子どもたちにその中からすきな俳句を二つ、三つ選ばせ、ワークシートにマルつけるよう指示する。

全員の選句が終わったら、拡大したワークシートを黒板に貼り、選ばれた句を紹介する。選ばれた句の上に正の字を教師が記入していく。「自分の選んだ句は人気があるのかな」「どれが選ばれるのかな」と皆注目していた。結果が出た後、なぜその句を推薦したのか理由を発表してもらった。

すきな俳句をえらぼう
二年( )

  1. つばめさん せっせとおうち つくってる
  2. 雨の日は あじさいはっぱ 光ってる
  3. すずしいね スーパー林道 雲の中
  4. あかとんぼ 気持ちいい風 つれてくる
  5. きれいだね あじさいむらさき 赤白青
  6. えんそくの おみやげどんぐり いもうとに
  7. あさがおが 八つもさいて しんきろく
  8. 空の下 リレーがんばる うんどうかい
  9. かえるたち 雨の日の歌 うたってる
  10. こわいけど やっぱりいくよ きもだめし

この授業のねらいは、自分たちがめざす俳句のイメージをつかませることだ。残りの時間に一人一人に短冊を渡して、自由に俳句を作らせてみた。俳句というものを知り、興味を持った子どもたちは、自分の俳句を積極的につくった。一年生の教室でも、短冊を見てもらおうと先生の前に長い行列ができた。量は質を伴う。まずは、俳句を何度も書かせることを大切にしている。

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