平成18年度入選作文(ジュニア部門2)「きせきの生命」

ページ番号1002692  更新日 2022年2月15日

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第22回暁烏敏賞入選作文(ジュニア部門)

写真:ジュニア盾

  • 作文題名 きせきの生命
  • 氏名 東田 陽子
  • 住所 石川県金沢市在住
  • 学年 北陸学院中学校 1年

「陽子」、それが私の名だ。太陽のように明るく育ってほしい、という思いが込められている。なぜ太陽かといえば、誕生予定日が夏だったからなのだが。私の誕生日は5月14日、夏とは言えない。これにはわけがある。

母は、膠原病という難病をかかえているうえに、子宮筋腫にもかかっていた。そのため、流産や早産の危険があり、ずっと入院して安静にしながら予防のための点滴を24時間毎日続けていたそうだ。それでも妊娠29週の時、早く出産しなければ母子ともに危険な状態になり、帝王切開で出産した。

出産時の身長は37センチメートル、体重は1100グラム。通常の3分の1の大きさだ。すぐに新生児集中治療室に入れられた。それから退院するまでの約3ヶ月、それは「闘い」の日々だった。

未熟児というのは、体が未発達のまま体外に出てしまったので、病気にかかる確率が高い。それに、軽い病気でも命を落とす可能性も高い。母は、私という爆弾の爆発への恐れを抱えこんでしまったのだ。

生後すぐ、授乳室では、同時期に生まれた赤ちゃんにおっぱいを飲ませている他の母親に混じって、いつか私が飲める日のために、母乳をしぼって冷凍していたそうだ。おっぽいどころか、まだ腕に抱いたこともないわが娘のために。

6月半ば、未熟児網膜症にかかり緊急手術をした。失明の可能性もあった。その時、ある盲目の子供をもつ母の手記に「この子を殺して私も死のうと思った。しかし、親といえど人の人生を勝手に決める権利はないと気づいた。だから、いつかもしこの子が辛くて死にたいと言ったら、その時は一緒に死んでやろうと思う。」という言葉を見つけ、とても共感し勇気づけられたそうだ。結局2度手術し、現在強度の近視で一部視野も欠けているが、私は辛いと思ったことは1度もない。

8月の初め。小爆発を何度も起こしながらも、何とかこわれないでいる私の退院日がやってきた。母は期待に胸をふくらませつつ、病院へやって来る。これからの家での生活を想像し、緊張からの解放と、無事にここまで育ったことに、わき立つような喜びを感じて。

ところが、病室へ向かう母に、泣きながら看護婦さんが告げた。
「髄膜炎にかかり昨夜から危険な状態になっています。」

一瞬、何が何だか分からなくなったという。ベッドの中の私は、呼吸器を付けられ苦しんでいる。体全体がむくんでいるため大きくなったように見えたという。あんなに早く大きくなってほしいと願っていたのがこんな形でかなうなんて皮肉なものだ。母は祈った。ただひたすらに祈った。

だが一度も涙をこぼさなかったという。
「病気になってからあなたを産むまで、辛いことは山ほどあったからね、いちいち泣いてたらきりがなかったの。」

今、そう言って笑う母には、悲しみのあとなど全くない。だけど、今の明るさや笑顔は、深い悲しみによって支えられているのは確かだ。辛い時をのりこえたからこそ、今の幸せがある。

1週間、私は生死の境をさまよった。闘いに勝ち、今度こそ無事退院の日を迎え、今、人一倍元気に生きている。

最近、「泣く」ことがはやっている。映画をみては、本を読んでは、話をきいては、すぐに泣き、泣かない者を「冷たい」とさえいう。しかし私は、そんな世の中に疑問を感じてしまう。

確かに泣くことは時には必要かもしれない。だが、ちょっとしたことにもやたら「感動した」と言って、人前で泣くというのはどうだろう。それはただの「造り物の感情」で、本当に深く共鳴したり、悲しんだりしているわけではないと思う。涙の安売り、感動の押しつけだ。

本当に辛い時、あるいは心を動かされた時は、そんなに簡単に泣けるものではないのだと、母を見て思う。そんな時は「耐える」しかないのではないか。押しつぶされてしまわないように、必死で耐えるしかないのではないか。

生まれない可能性、障害児となって生まれる可能性もあったが、信じて希望を持ち、たとえどんな結果になっても全てを覚悟で私を生んだ母。いきていてくれさえしたらそれで充分。そんな母の思いを考えると、感謝と喜びと尊敬があふれてくる。

今、私の命があるのは、母のおかげ。

生んでくれて、ありがとう。

育ててくれて、ありがとう。

これからも、このきせきの生命を大切にし、明るく前向きな人生を送っていきたい。

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