新種化石10「白山市桑島地内産出のトカゲ類化石に学名がつきました」

ページ番号1002518  更新日 2022年2月8日

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イギリスの国際学術誌「Palaeontologia Electronia(パレオントロジア・エレクトロニア)」で、2015年7月8日に論文がオンライン公開され、Hakuseps imberis(ハクセプス・インベリス)、Kuroyuriella mikikoi(クロユリエラ・ミキコイ)、Asagaolacerta tricuspidens(アサガオラケルタ・トリカスピデンス)の学名がつきました。

学名:Hakuseps imberis
名前の構成:新属名(Hakuseps属)+新種小名(imberis)
意味「シャワーのような白山トカゲ」
【属名】「Haku」(ハク)は白山に由来し、「seps」(セプス)はギリシャ語で「トカゲ」を意味する。
「Hakuseps」で「白山トカゲ」となる。
【種小名】「imberis」(インベリス)はラテン語でシャワーを意味しており、顎がシャワーヘッドのようなユニークな形をしていることに因んで命名された。

写真:ハクセプス・インベリスの模式標本

【学名を担うタイプ標本】

ハクセプス・インベリスの模式標本
SBEI 2086(左下顎骨)
外側面観

* 白山市白峰化石調査センター所蔵標本


学名:Kuroyuriella mikikoi
名前の構成:新属名(Kuroyuriella属)+新種小名(mikikoi)
意味「ミキ子さんのクロユリちゃん」
【属名】「Kuroyuri」(クロユリ)は石川県の郷土の花となっているクロユリに由来する。「ella」(エラ)はラテン語で「小さい」を意味する接尾辞。
「Kuroyuriella」で「クロユリちゃん」というニュアンスとなる。
【種小名】「mikikoi」(ミキコイ)は、長年化石のクリーニングを行ってきた山口ミキ子さんの高い技術に敬意を表しての献名。

写真:クロユリエラ・ミキコイの模式標本

【学名を担うタイプ標本】

クロユリエラ・ミキコイの模式標本
SBEI 1510(右下顎骨)

* 白山市白峰化石調査センター所蔵標本


学名:Asagaolacerta tricuspidens
名前の構成:新属名(Asagaolacerta属)+新種小名(tricuspidens)
意味「3咬頭の歯をもつアサガオトカゲ」
【属名】「Asagao」(アサガオ)は白山市の花となっているアサガオに由来する。「lacerta」(ラケルタ)はラテン語で「トカゲ」を意味する。
「Asagaolacerta」で「アサガオトカゲ」という意味となる。
【種小名】「tricuspidens」(トリカスピデンス)は、後方の歯の先端が3つ(tri)の山(cusp)になっている特徴から命名された。

写真:アサガオラケルタ・トリカスピデンスの模式標本

【学名を担うタイプ標本】

アサガオラケルタ・トリカスピデンスの模式標本
SBEI 1566(頭骨と体骨格の一部)

* 白山市白峰化石調査センター所蔵標本

発見からの経緯

本研究で報告された新属新種のトカゲは、それぞれハクセプス・インベリス;クロユリエラ・ミキコイ;アサガオラケルタ・トリカスピデンスと命名された。前者のハクセプスについては、2003年8月17日に千葉県立中央博物館において、桑島層の岩石を用いた「化石発掘体験イベント」が開催された際、参加者の上野光子(うえのてるこ)さん(当時12歳、現在24歳)によって発見・採取された。後者2種については、1998年~2003年にかけて化石調査団員ら(伊左治鎭司(いさじしんじ)氏・山口ミキ子氏・山口一男(やまぐちいちお)氏・小林美徳(こばやしよしのり)氏)によって白山市桑島(旧白峰村)の桑島化石壁と呼ばれる露頭の中を貫通する「ライントンネル」の掘削岩石を調査した際に発見・採取された。化石の剖出作業は山口ミキ子氏、伊左治鎭司氏、松岡廣繁(まつおかひろしげ)氏、脇本晃美(わきもとあけみ)氏によって行なわれた。
本標本は、スーザン・エヴァンス教授(英国ロンドン大学)及び松本涼子博士(神奈川県立生命の星・地球博物館学芸員)によって調査・研究が行なわれた。桑島層と地理的にも時代的にも近い中国やモンゴルに加え、北米、ヨーロッパなどから報告されているトカゲの頭骨、歯、顎の形態等を比較検討した結果、新属新種が3つもあることが明らかになった。

ハクセプス・インベリスについて

分類:爬虫類 有鱗(トカゲ)類“スキンク形類”または“ラケルタ類”
推定全長:不明
食性:昆虫食
産地:石川県白山市桑島「桑島化石壁」
地層:手取層群桑島層
時代:白亜紀前期(約1億3000万年前)

ハクセプス属の特徴

ハクセプス属は、少数の歯(10本)が顎の前端に位置していること、歯列の後ろは大きく湾曲しており、顎全体の形はシャワーヘッドを横から見た様になっていることが特徴的である。現生でも化石でも、この様な特徴をもったトカゲはこれまでに1属2種しか知られていない。1つ目は白亜紀前期の中国(山東省)から発見されているパキゲニス・タラステサ(Pachygenys thlastesa)。2つ目は2015年の2月に兵庫県篠山層群(白亜紀前期1億1200万年前)から新種として報告されたパキゲニス・アダチイ(Pachygenys adachii)である。しかし、ハクセプス属は次にに示す特徴において、パキゲニス属の両種と異なっているため、新属新種であると考えられる。(1)歯の形態が下顎の前方(円錐形)と後方(2咬頭)で異なっている。(2)下顎の内側にある骨の関節面(板状骨)の溝がない。(3)歯が並んだ部分の後方の顎が大きくえぐれている。
ハクセプス属に限らず、パキゲニス属についても下顎以外の部分は発見されていない。そのため、この奇妙な下顎と対になる上顎がどの様な形態をしており、どのように顎を動かして獲物を捕らえていたのか、多くの謎が残されている。

  • ※スキンク形類とは:現生のスキンク形類のトカゲは、ほぼ汎世界的に分布しており、ニホントカゲなどもこのグループに属する。しかし、中生代の化石記録は著しく少なく、古くはジュラ紀後期のヨーロッパから顎が発見されている。白亜紀前期においては、より進化したタイプの種がメキシコやアメリカ・ユタ州から見つかっている事から、スキンク形類の起源は旧世界にあり、後から新世界にも分布を広げたと考えられている。
  • ※ラケルタ類とは:カナヘビの仲間。現在、このグループの仲間は、アフリカ、ヨーロッパ、アジア、インドに分布している。

クロユリエラ・ミキコイについて

分類:爬虫類 有鱗(トカゲ)類 スキンク形類の近縁種、もしくは原始的なトカゲ類?
頭骨長:約10mm
推定全長:110~125mm
食性:昆虫食
産地:石川県白山市桑島「桑島化石壁」
地層:手取層群桑島層
時代:白亜紀前期(約1億3000万年前)

クロユリ属の特徴

クロユリエラ属は次の形態の組み合わせから、これまでに知られているどのトカゲ類とも異なっている。(1)上顎(上顎骨(じょうがくこつ))に開いた鼻の穴が深くえぐれている。(2)頭頂部の骨(頭頂骨(とうちょうこつ))に孔が開いていない。(3)眼窩(がんか)の間に位置する骨(前頭骨(ぜんとうこつ))が対を成している。(4)上顎の骨の表面に模様がない、など。
数あるクロユリエラ属の特徴の中でも、眼窩の後方に開いた顎の筋肉が入る穴(上側頭窓(じょうそくとうそう))が小さくなるという特徴は、イグアナ類、ボリオテユー類、オオトカゲ類のどれとも異なっている。縮小した上側頭窓(じょうそくとうそう)や、前頭骨が一対になるなどの特徴は、スキンク形類などでみられる事もあるが、スキンク形類等の特徴である頭部を覆う皮骨ひこつの痕跡がクロユリエラ属にはない。さらに、ジュラ紀後期の北米から産出する代表的なスキンク形類であるパラマセローデス属の頭骨の形態とも合致しないため、その系統的な位置づけは明らかになっていない。

アサガオラケルタ・トリカスピデンスについて

分類:爬虫類 有鱗(トカゲ)類 原始的なボリオテユー類
推定全長:290mm
食性:昆虫食
産地:石川県白山市桑島「桑島化石壁」
地層:手取層群桑島層
時代:白亜紀前期(約1億3000万年前)

アサガオラケルタ属の特徴

歯の先端に3つの尖った山をもっており、歯の根元はほっそりとした筒状になっている。現生のトカゲでは、歯の先端が3つの山になる種が多く認められるが(イグアナ類、ラケルタ類、テイウス類)、中生代のトカゲ類では比較的珍しい特徴であり、これまで化石種のイグアナ類やボリオテユー類などで見つかっている。アサガオラケルタ属は次の特徴からボリオテユー類に属すると考えられる。(1)歯の形が顎の前方と後方で異なっている。(2)眼の間に位置する骨(前頭骨(ぜんとうこつ))が一対になっており、表面に模様がない。(3)眼の縁を構成する骨(頬骨(きょうこつ))が長く伸びている。
しかし、アサガオラケルタ属には、進化したボリオテユー類の特徴(歯のセメント質の発達)が認められない事から、このグループの中でも原始的な種であると考えられる。

※ボリオテユー類とは:絶滅種で構成されるトカゲ類の仲間。現在、アメリカに分布しているテユー類(テグートカゲ等を含む)に近縁である。

発見の意義と今後の展望

これまでに白山市桑島に分布する手取層群桑島層からは3種のトカゲが報告されている。動物食のトカゲ(サクラサウルス)、胴体の長いトカゲ(カガナイアス・ハクサンエンシス)、植物食のトカゲ(クワジマーラ・カガエンシス)である。今回、これらに続いて同地層から新属新種のトカゲ3種の存在が明らかになった。その他に、標本が断片的であるため、命名はできないが、将来的に新種となる可能性が高いトカゲ類が2~3種いたと考えられる。これまでに発見されている種と合わせて、白亜紀前期の白山市には、およそ8~9種のトカゲが生息していたと考えられる。白亜紀当時、日本はユーラシア大陸と陸続きであった。日本の桑島層から発見されるトカゲの種数は、時代的にも地理的にも近い中国遼寧省の義県層や九仏堂層から産出するトカゲの種数(5種)を上回っている。約1億3000万年前の桑島層には、形態や種類が特に多様で、様々な食性(植物食、昆虫食、肉食)のトカゲが生息していた事が明らかになった。今回研究された種の一部には分類的位置づけが定まっていないものもある。しかし、中生代の化石記録が著しく少ないスキンク類や、白亜紀後期になるとアジア固有のグループとなるボリオテユー類の原始的な種を含んでいることから、アジアにおけるトカゲの進化を理解する上で重要な発見となった。今後更なる発見によって、アジアにおけるトカゲ類の進化が明らかになるものと期待される。

問い合わせ

白峰化石調査センター(白山恐竜パーク白峰内)
〒920-2502石川県白山市桑島4-99-1
電話:076-259-2724
ファクス:076-259-2335
Eメール:h-kaseki@city.hakusan.lg.jp

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