」」」桑島化石壁産出のほ乳類化石に学名がつきました」」」
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2008年9月発行のポーランド科学アカデミー古生物学研究所の国際学術誌「Acta Palaeontologica Polonica」に論文が掲載され、Hakusanobaatar matsuoi (ハクサノバータル マツオイ)、Tedoribaatar reini (テドリバータル ライニ)と2種類の学名がつきました。
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 | 【左上顎切歯と小臼歯】 写真の横の長さ:約14ミリ
* 左方の岩石縁に少し突き出ている黒い歯が切歯
(学名を担うホロタイプ標本)
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学名:Hakusanobaatar matsuoi 名前の構成:新属名(Hakusanobaatar属)+新種名(matsuoi) 意味「松尾博士の白山の英雄」 「Hakusan」 (ハクサン)は「白山」、 「baatar」(バータル)はモンゴル語で「英雄」 「matsuo」 (マツオ)は「松尾博士」、「i」(イ)は「人名の接尾辞」 |
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【右下顎片と第四小臼歯】 標本の長さ:約 10 ミリ * 下顎を内側からみたところ
(学名を担うホロタイプ標本)
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学名:Tedoribaatar reini 名前の構成:新属名(Tedoribaatar属)+新種名(reini) 意味「ライン博士の手取(川)の英雄」 「Tedori」 (テドリ)は「手取(川)」、 「baatar」(バータル)はモンゴル語で「英雄」 「rein」 (ライン)は「ライン博士」、「i」(イ)は「人名の接尾辞」 |
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<発見からの経緯>
今回新種として確認されたハクサノバータルの化石は、2002年1月に桑島化石壁の岩石中から、上顎の歯と下顎の骨の一部と歯が発見されました。また、テドリバータルの化石は、2001年5月に桑島化石壁の岩石中から、下顎の骨の一部と歯が発見されました。 その後の研究で、これらの標本がそれぞれ新属新種の哺乳類多丘歯類の化石であることが判明し、新種名を提唱する論文が2008年9月発行の国際学術誌「Acta Palaeontologica Polonica」に掲載され、新種の学名“ハクサノバータル・マツオイ”及び“テドリバータル・ライニ”が国際的に公表されました。 |
<多丘歯類>
中期ジュラ紀に現れ、新生代始新世〜漸新世に絶滅した哺乳類グループ(多丘歯目)です。ネズミなどのげっ歯類に似た形の頭の骨をもつ小型の哺乳類で、植物食〜雑食に適応していたと考えられています。大臼歯(特に上顎の大臼歯)に多数の咬頭(哺乳類の歯に見られる出っ張り)をもち、またほとんどの種類で下顎小臼歯が鋸のようなギザギザ(鋸歯)のあるブレード状をしていることが特徴となります。比較的原始的な絶滅哺乳類グループであるため、現生の哺乳類には近縁なものはいません。 |
<ハクサノバータル・マツオイについて>
模式標本には、第三切歯から一番後ろの小臼歯(第五小臼歯)までがほぼ並んだ状態で保存されており、これまでに世界で報告されてきたエオバータル科多丘歯類の標本の中でもっとも保存の良い標本のひとつになります。この標本によってエオバータル科多丘歯類の小臼歯の特徴がよくわかるようになりました。
後期白亜紀の多丘歯類は上顎に4本以下の小臼歯しかもたないのに対して、前期白亜紀の多丘歯類はみな5本の小臼歯をもっており、進化の過程でどの小臼歯が最初に失われたのかということについて、これまでも議論されてはきましたが、よくわかってはいませんでした。この標本の形態的特徴により、進化の過程で最初に失われた小臼歯は、第四小臼歯であった可能性が最も高いことが明らかとなりました。
<テドリバータル・ライニについて>
テドリバータルを除く前期白亜紀の多丘歯類は、3本以上の下顎小臼歯っているのですが、後期白亜紀の多丘歯類は2本以下しかもっていません。また後期白亜紀の多丘歯類の下顎第三小臼歯は歯根が1本しかなく、著しく縮小しているのに対して、前期白亜紀のものは2本の歯根をもっています。 テドリバータルはエオバータル科に属すると考えられるのですが、下顎小臼歯は2本しかなく、また第三小臼歯はおそらく1本しか歯根がありません。このことからテドリバータルは、エオバータル科多丘歯類の中で、後期白亜紀の多丘歯類ともっとも近縁だと考えられます。 テドリバータルは、後期白亜紀以降のグループの起源を探る鍵となる種になります。
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<手取層群産多丘歯類について>
日本で多丘歯類に学名がつくのは初めてとなります。(桑島化石壁が日本で唯一の産地)
複数の種類の中生代哺乳類が新種記載されたのは日本で初めてとなります。 また、一つのグループの中生代哺乳類が複数種類報告されるのも初めてです。 ハクサノドン(2007年発表)を含めると2008年9月現在で、桑島層からは哺乳類が3種、新種記載されたことになります。
エオバータル科の多丘歯類は、アジアの同時代の地層から報告が多く、アジアの他地域の動物相と比較する上で桑島層産多丘歯類は重要な標本となります。
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